512:帝都
ショゴスさん……分析力……特に比較観察の分野での能力、レベルが上がってません? なんか見るもの聴くもの全てを学習し続けているもんなぁ。「腹黒」宰相も大概チートだなと思ったけど……実は一番のチートは君ではないのかな?
(大した事ではない。それこそ、過去に自分の一部であったものを取り返したじゃないか)
(えっと、ああ、魔族が大障壁に開けた穴を抑えていたっぽい、ショゴスの欠片?)
(欠片……どころか、アレは、いつの頃のモノか判らないが、私であったモノだ。そのモノだ。大障壁を塞ぐためにも、アレを回収したワケだが)
(したね)
(正直、未だにキチンと取り込めていない。私は私の一部すら回収出来ないのだ)
(そうなのか……それは一体なぜ?)
(一番の原因は、私が……変質してしまったからではないかと思う。当初、ダンジョンシステムに対して、反属性ともいえる拒絶しかなかった。それが、ダンジョンコアを吸収し始めた辺りから、代わりはじめていたのだと思う)
(気づくような……激変じゃ無かったのか)
(ああ。正直判らなかった。徐々に徐々に変質していたらしい)
(確かに、出会った頃よりも……喋るようになったよな。それはつまり、語彙が増えているわけで、各種周辺情報、さらに「記憶」「思い出」が増加して行ってるんだろう)
(……いつか……また……万里と話せるようになるだろう……か」
(ああ。そうだな。変質していってるのであれば……世界転移の扉もくぐれるようになるかもしれない)
今後、ダンジョンシステムが回復して、転移扉が使用可能になったとしても。正直、アレだ、万里ちゃんを俺の眷属にしてこちらに連れてくる……っていうのは無しだ。考えちゃいかんだろ。
(前方。この辺りで一番規模の大きい都市を確認。アレは領都とか王都とか、そういう感じだろうか)
(降りようか……)
正直、「まずは魔族側へ来れるか?」の確認が重要だった。それ以降……偵察するのは当然なのだが、どうやって、何を目的に、最重要視するのは何か? をちゃんと考えてこなかったな……。
(しかも、この辺は魔族達の国の中では西の果てだろうしな。軍事的に東側の国よりも劣っていると思われる、アムネア魔導帝国だろうからな)
(ああ、先ほどの巨大城砦都市にアムネア魔導帝国の国旗を確認。情報確定)
よし。
(降りて……直接情報を収集しよう。角……っぽいのはマスクでどうにかならないかな?)
(大丈夫ではないだろうか? ノラム装備で、基本コートのフードを深く被り、【隠密】を発動させて移動するのだろう?)
うん、その通り。で、万が一があっても「黒のマスク+2」があれば平気だよな。
魔族軍の統一装備である黒いフード付きコートは若干、デザインが異なるが、俺の「帳の外套」でごまかせないこともないし。身隠しの効果が付いてるのは大きい。
王都……ではなくて、帝都か。そこからかなり離れた森に降り立った。周辺に魔力を漏らさないようにしたので気付かれることはないだろう。
普通に歩いて……多分、丸一日程度の位置だ。それを走って……一時間程度で帝都が見える位置に辿りついた。空から目星を付けていた街道を歩く。
帝都に近付くにつれて、往来も激しくなってきていた。帝都から放射状に伸びる街道沿いに、貧民街が形成されている……様だ。魔族にも貧富の差はあるのだと実感する。
まあ、とはいえ、この規模の都市の周辺に形成されている貧民街……として考えれば、もの凄く規模は小さい。さらに、貧民街と思ったが、建物はそれなりにしっかりしている。城砦都市の城壁の外にある街……という感じだろうか。
「帝都に入るには身分証が必要だぞ? 持っていないのか?」
「訳ありでな。とある隠れ里……で暮らしていたのだ」
帝都の城門をくぐる為に行列が出来ている。その列に一緒に並んでいた魔族の行商人にそう返事をした。
「それは……まあ、魔力を提示して、ある程度の力を認められれば、傭兵ギルドに所属することを条件に、城壁内へ入れるだろうが……」
「ああ、そう聞いたので並んでいるんだ」
魔族の行商人も、外見は人族の行商人の装備とあまり変わらない。背に大きめの魔術背嚢を背負い「冒険者の服」に似たデザインの服を着ている。
「まあ、確かに……ここ最近、きな臭いからな。傭兵の需要が拡大しているってことだ。そうか戦えるのか。それなら平気だな」
この行列に並ぶ前。
食事等をしながら聞耳を立てて情報収集した所、身分証のない貧民街出身の者が、傭兵ギルド登録を条件に、帝都内に入れて、さらに身分証も発行される……という情報をゲットしたのだ。
あ。ちなみにこの国、魔族の通貨は、捕虜奴隷とした魔族兵からゲットした戦利品。あの中から結構な量を持ち出して来ている。
(気をつけた方がいいのは、魔力の出力だな……魔力計測の魔道具が有るようだからな。ノラムがそのままその力をふるったら、目を付けられそうだ)
(ああ、そうだろうな。あ。名前はマキャルスでいこうと思ってる)
(マキャ?)
(捕虜奴隷兵の中で、一番多かったのがその名だった。なんでもこの国では二郎に近いらしい)
(二郎なのか。太郎ではなく)
(いくら軍事的三流国家でも深淵の森を越える無謀な軍事作戦に、跡取りとなる長男はほとんど参加していなかったようだぞ?)
(そういう事か)
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