511:深淵の森上空

ドンッ!


 カンパルラから西に少し行ったところにある荒れ地。まあ、戦場となった場所からさらに奥へ行った辺りで……空に向かって、思い切り跳躍する。


 炸裂する脚力。それを後押しする風の魔術。同時に展開される「風盾」。空気抵抗ってヤツがどうなっているのか。

 ショゴスによればその辺の「ある」事を「ない」ことに出来てしまうのが魔術らしいのだが……うーん。科学、物理、法則で育った身としてはその辺解析出来るのでは無いか? と思ってしまうのが間違いなんだろう。多分。


 実際、自分も細かく分析したらムチャクチャな力を行使しているもんな……これまでに。


(やはり、こちら側には大障壁の様な「壁」は存在しないな……だが、やはり。上空に侵入した途端にドラゴンが騒ぎ始めたぞ)


 確かに。


 現在、試しに深淵の森の上空、300メートルくらいを飛んでみている。深淵の森、比較的浅い場所から若干中央部へ侵入した辺りから……ドラゴンの姿が見え隠れし始めた。


(げげ……さらにあの黒い渦みたいなの……)


 蟲だ。


(サノブ的にドラゴンよりも厄介だと感じた甲殻類か)


(うぜーんだよな……アイツら。本当に)


(高度を上げる)


 ショゴスがおもむろに高度を上げていく。まずは蟲が見えなくなった。そして、ドラゴンも……高度限界があるようだ。


(現在、高度……2000メートル。蟲が500メートル程度、ドラゴンが1500メートル程度の様だ)


(それにしても……アイツら執拗に向かってきてたな)


(ああ。食事……ではないな)


 蟲もドラゴンも、上空とはいえ侵入者に対してとんでもなく素早い対応を見せていた……まるで侵入者を拒む守護者、守護魔獣といったう様に。

 思い出してみれば、深淵の森の中央部へ侵入した途端に、蟲とドラゴンの波状攻撃が開始された。逃げても逃げても、執拗に襲いかかってくる彼らは……今飛んで来た様に、何か、指示や契約を守らされる気がする。


(つまり、東側は、ドラゴンと蟲を壁に仕立てた……ということだろうか?)


(そうじゃないかな……じゃなければ、あそこまで素早い反応は無理だと思う。俺達が森の上空に侵入して……数秒で索敵して、攻撃を仕掛け様と飛んで来たわけで……そんなスピード感、向こうの世界の軍隊だって対応出来ないぞ)


(ああ、スクランブル、スクランブル、これは演習ではないってヤツか)


(う、うん。そう)


 っていうか、万里ちゃん、ショゴスに何を見せているのか。


(とりあえず、深淵の森が、大障壁と同じ役目を果たしているのは確実だろう)


(ショゴス、無限大障壁と深淵の森の……消費エネルギーって比べられるか?)


(推定……で構わないだろうか?)


(当然)


(大障壁が100とすると……深淵の森は30程度……約三分の一程度ではないだろうか? 魔術の効率化等を図れば、五分の一程度まで圧縮出来そうだ)


 そんなにか。


(つまり……大障壁を作った神……いや、女神が、そのエネルギー効率を良くしようと考えて……深淵の森を創り出したって感じか)


(そうだな。……いや、多分そうだろう。エネルギーの流れから、大障壁の方が古い……気がする。さらに深淵の森は龍脈からの力を効率良く利用して稼働するように創られている。ドラゴンやあの蟲を大量に産み出しても、それほどエネルギー消費がかさばらないようになっているのは、創造のランクが上がっている証拠だ)


 女神様の【創造】スキルのレベルが上がったと考えれば判りやすいか。


(ああ、そうだな……そうだな。判りやすい。つまり【創造】スキルが上がっていったから……最終的に、サノブのダンジョンシステムが完成したのだと思う)


(え? アレが女神作品の中で最高峰なん?)


(……最高峰かどうか判らないが、最新作なのは確実だと思われる。現状、女神が創ったのではないか? と思われるモノの中で、一番複雑で工夫が為されている。特にダンジョンシステムは旧来のダンジョンで使用されているシステムと比較が可能だからな……その凄まじいまでの進化を実感出来る)


 まあ、そうだよな。ショゴスはうちのダンジョンシステムが回復出来ないか、もの凄く熱心に調べてくれている。となると、必然的にその基幹システム等にも詳しくなるわけで。


 等といつもの会話を交わしていたら。


(越えたぞ。どうする?)


(上空……魔力感知が不可能なギリギリの高度から地図を把握しようか)


 いや、するのはショゴスさんなんですけどね。ショゴスは上空からの精細な地図を記憶し、念話で会話する際に、その映像を直接伝えてくれる。つまり、俺は一度空を飛んだ土地であれば、超高性能の高高度カメラからの映像地図を参照出来るのだ。


(こちらの国は……上空から都市を見る限り、魔族と人族の違いがあるにも関わらず、構造的には向こう側とあまり変わらないな)


 そうなのか。


(道の幅も……対して変わらないな。つまり、馬車……だな。乗り物も同じ様な規模ということか。点在する都市の距離は……人族側よりも離れている……のは魔力の有り無しが関係しているのだろうか?)


 お、おう。ショゴスさん分析力のレベルが上がってません?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る