508:チート合戦

「ああ……帝国さんは……それもありますね。帝国の……蒼の宰相さんでしたっけ? 確かにとんでもないですね」


「ああ。多分、深謀遠慮という部分ではこちらの世界でもトップじゃないかな。魔族に……ああいう「腹黒」はいなさそうだしな」


「それはどういう?」


「アイツらのこちらの世界への攻め込み方が……質の違いはあれど、東からも西からも、直接兵力を送り込んでいるのがもう、浅い」


「偵察しなかったんでしょうかね~」


「偵察は行った結果かもしれないが。どこかで「こちら側は自分たちよりも下位の人類」が生息しているという古からの伝承とか伝説を盲信している気がするんだよな」


「それは確かに。アーリィからリアルな捕虜からの証言を聞けば聞くほどそれを感じましたね」


「まあ、確実なのは。他国へ侵攻する軍隊の作戦行動上、情報戦や兵站戦、事前の経済戦略が重要なんていう……近代戦の基礎が押さえられていない時点で、蛮族軍と大差ない」


「確かに~そうですね~」


「そういう意味では……確かに帝国の宰相さんはおかしいレベルですね。異世界転生チートでは? 確実に人生二回目じゃないと思われるのですが」


「そういう気配はなかったし、隠している演技ができるくらいの役者にも見えなかった。まあ、全てを騙している……という可能性が無いとはいえないが」


 まあ、俺の勘なんて大した事無いと思うが。


「異世界転生でチートか……」


「御主人様は謀略機略を「暴力」で解決できるチートですから」


「そう~サノブ様は小賢しい作戦なんてドーンですから~」


「ふふ」


 それ良い意味でなん? とはいえ、チート……だよな。そうか。一番最後の松戸の「ふふ」がなんか怖いよ。というか、君たちそんな風に思ってたのね。


 というか、そうだよな。俺のも周りから見ればチートなワケだから……俺以外にも同じ様な力を持つ者が居てもおかしく無いよな。


「とりあえず~陛下に関しては~私も動いてみます~」


「ん? どうやって?」


「御主人様が帰還してからと思っておりましたが、現在諜報に使っているエルフの冒険者部隊を何名かアーリィの下に着かせて、何かうまくやれないか探ろうかと」


 森下が悪い顔をしてる。


「……暗殺?」


「……結果としてそうなることもあるかもしれません」


「辺境伯……リドリス家に仕える闇の者たちと連携を取った方がいいかもな。ディーベルス様とドノバン様をキチンと巻き込んで動いた方が良いだろう。国の大勢を左右しかねないことに関連する事をアーリィのみの判断で行うのはただのテロだしね」


「ああ……そうですね……」


「テロ~?」


「簡単に言うと、恐怖によって政治を行うというか……難しいけどさ」


「政治~支配に恐怖は必要では~?」


「ああ、だから、こちらの世界、王や貴族による専制君主制はテロリズムと密接な関係があるし、だからこそ……「それだけでは」上手く行かないと思う。なぜ、あっちの世界で専制君主制が衰退していったのかを考えれば判る」


「ですが、社会的に……無理があります。議会制民主主義への移行は純粋に人口の知的水準が圧倒的に足りません」


 そうですね。森下の言うとおり。


「俺もソレが正しいとは思わないし、こちらの世界へ持ち込もうなんて考えていないよ。無理だからさ。だからこそ、多数を巻き込み、さらにそれが最終的に国の意志となるように行動する必要がある」


「……一人殺せば人殺しだけど、千人殺せば英雄……ですか」


「ああ」


 特にこちらの世界では効果絶大だと思う。


「人を殺せば、その罪悪感は拭えないからさ。正当化するためには人を巻き込むしかないよ」


「了解しました。国の重鎮の方々に責任を取っていただきましょう」


「そうですね~。勝手にやるのは違いますね~」


 アーリィは良かれと思ってそうしようとしてたんだろうけどね。


「よし。アーリィはなるべく冷静に……この国の行く末を検討する様に。俺も、女王陛下には負い目があるからね。ある程度手を貸すことに異論は無いよ」


 アーリィが頷く。


「とはいっても、その辺は……森下とアーリィに任せた。松戸は兵の育成を継続してお願い。んで、俺は……」


「また動かれますか?」


「ダンジョンシステム次第なんだけどさ……向こう側、深淵の森の向こう側へ行ってこようかな……と。魔族の再侵攻は無いんだよな?」


「ございません」


「多分、減少していた魔物が増加したんじゃ無いかと思うんだよな」


 俺が減らした分は回復してた気がするし、蟲沢山いたし。魔力欠乏状態が改善したら、さらに、増加すると思うし。


「なので、こないだみたいに魔族の軍が攻めてくることはそうそう無いとしても……正直、向こうの世界の情勢とか……いや、単純に情報をもう少し知りたいんだよな」


「畏まりました。確かに、それは御主人様にしかできない、非常に大切なことかと。では、その前に。温泉マッサージを」


「何ソレ」


「あ。貴子さんの編み出した新必殺技です。温泉で身体をトロかした状態で、マッサージをするだけなんですけど……施術されてみればわかります。私達ですらトロトロでしたから……異性、男である御主人様ならさらに」


 また、とんでもない必殺技を……。



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