506:ローレシア王国内情勢

「帝国がさ。急激に国土を広げ、支配域を広げ続けている理由が判明した。半分予想で詳しくは聞いていないが……全ては、魔族に対抗する為らしい。既に魔族との戦闘を何度か体験している」


「アレだけ慎重に進めていた作戦行動を最近かなり強引に展開していた……のはそういう理由ですか」


 まあ、そうなるんだろうな。さすがに災厄が重なりすぎた。国力の弱体化……のためとはいえ、さすがに、貴族子女の毒化、呪化。山賊などによる治安悪化、天候操作による凶作、人為的な狂乱敗走スタンピードの発生……。


「アレだけ災厄が重なればさ。俺じゃ無くても……それこそ、アーリィなら気付けたんじゃ無いか?」


 国毎の地形や気候、魔物の生息分布に合わせて内容が変更されているとはいえ。こちらの世界……で起こりうる多くの天災、事故等のオンパレードというか、リストにすれば、災害見本みたいなものだろう。


「そうですね……ですが、クーリアは助けられなかったと思うのです~ディー兄が隠してましたからねぇ~。それこそ、クーリアが亡くなった……と聞いて、詳細を調べ始めて……やっと気付く~くらいじゃないでしょうか~」


 まあ、そうかもしれない。時間の問題だったかもしれないが、それだと、クーリア嬢は亡くなっていたのは確実だろう。俺がポーションを差し入れたタイミングがギリギリだったと思うし。


「この国~ローレシア王国の貴族は王党派、中立派、貴族派の派閥に所属していた上に~さらに、保守派と革新派の二つに分かれていました~。前国王時代の最大派閥は~貴族革新派で~次が王党革新派。さらに貴族保守派、中立派、王党保守派といった感じでしょうか~」


 ……めんどくさ。派閥か……。


「一覧にすると~


貴族革新派:国の主権の大半は王を支える貴族にあると主張する派閥。商人と手を組み、経済支配含めた濡れ手に粟を手に入れようとする派閥。当然、領民に対しての税の取り立て比率も厳しく、人を人と扱わない貴族家も多い。


王党革新派:国の主権は国王にあると主張する派閥。主に、騎士爵、男爵の一代貴族に多く、使える主君(主に王)に忠誠を誓う。その考え方は保守派に近いが、支配の方法は近代の商圏拡大等の時勢を汲んでおり、領民を法だけでなく経済でも縛り付けている。貴族革新派の政治を真似ている。


貴族保守派:国は、王を中心とした貴族によって運営されるべしが主張。貴族自身が領内の経済兼の把握などはしておらず、旧態依然の政治形態で運営されている。


中立派:王と貴族が協力体制を形成し、苦難の際には手を取り合って対策を立てる。貴族家はあくまで王家を支えるのだが、王に対して強権を発動することも厭わない。一見良いように見えるが、意見をやり取りする会議が多くなって、即応性に欠けており、天災等の瞬間的な厄災には対応が遅れてしまう場合が多い。東の辺境伯でもあるリドリス家はここに所属する。


王党保守派:現在の王家を保守することが最上とする派閥。手段が目的を上回る、まさに老害的な派閥。


 こんな感じです~」


「勢力の大きさは?」


「貴族革新派が3~王党革新派3~貴族保守派が2~中立派が1~王党保守派が1……と~いった感じでしょうか~」


 まあでもこれは、魔族侵略の前の話だ。


「俺が帝国に向かった後は?」


「王家に加えて、貴族も王党も、革新派は貴族家現役当主や幹部が尽く死亡しました~。それらの「支配者が消えてしまった」所領地は尽く、新規王領として召し上げになっています~。現状は陛下が直属の近衛騎士団によって各地を押さえ付けている状況です~。陛下に対して最も声を上げているのは、貴族保守派、王党保守派の二つの派閥になります~」


 近衛騎士団っていうのは、あれだ、魔族の奴隷兵が所属しているはずだ。


「……いや、陛下にさ。三千の魔術士を預ければ、国内鎮圧なんてあっという間だと思ったんだけどなぁ。力押し……しなかったんだ」


「はい~その辺が陛下のお優しいところで~利点であり欠点でもあります~」


 そうだな。今後の事を考えれば、国力を一つに束ねて対応しなければいけない状況なんだよな。それをまとめ切れていない……と陛下の評価を下げるのは、少々厳しいと言わざるを得ないか。


「殺せなかった?」


「はい~幾人か~殺すべき方々が蟄居、軟禁等の処分で許され、領地に帰還し……目の届かぬ所で暗躍を開始している様です~」


「それが……まあ、女王陛下の深謀で、馬鹿が自らボロを出すのを待ち受けている……ということは?」


「……現状見受けられません~打開できるとしたら、奴隷魔術士部隊による正面からの戦闘行為くらいかと~」


 ……トホホ。それはなんていうか、情けないというかさ。


「実質、内戦、内乱状態と一緒じゃん……」


「はい~。全面的な戦闘行為は「まだ」発生しておりませんが~きな臭い状況になりつつある領が多数~」


「松戸、森下はどう思う?」


「私自身は森下と話をして、現状、カンパルラの守備隊の強化を行っております。戦術レベルでなら何かと動けますが、戦略レベルで物を考えるのは向いていないと思っておりますので」


 松戸が答える。まあ、そうか。これまでもそんな感じだったしね。

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