505:現状把握を

「すまんね。心配をかけた。まあでも、とりあえず、一段落したし……ああ、そうだ。一番大切な事を忘れてた。今日の昼間に……何か無かったか?」


「……? 何かありましたか?」:


「変化は感じなかった?」


「はい。何も……いつもと変わらずで」


 ショゴスは今、ダンジョンに移動し、ダンジョンシステムのエネルギーの現状を調査してくれている。


 とりあえず、残念ながら……表面的にはダンジョンシステムは復活していなかった。まあ、もしも復活していたら、シロがここにいるはずなので、出迎えが無かった時点でお察し……だ。


 それでも、ショゴスがなんというか……違和感がある……と、人間っぽいことを言うので、深部の調査をお願いしたのだ。なんか、調査する場所が余りにも広大で、時間がかかるらしい。


「判った。とりあえず、体力が限界なので、休む」


「はい」


 そう言うと松戸は部屋から出て行った。


 久々の自宅、そして自分のベッドはやはり、格別だった。温泉効果もあったのか……数分せずに眠りに付いた……と思う。


 次の日。目覚めると既に日が少々高め……多分、午前中……十時くらいか。


 用意してあった洗面台で顔と手を洗い、食堂に向かう。途中、森下と対面した。


「おはようございます。食事はどうされます?」


「頼む。腹ペコペコだ」


 御辞儀をしてとって返した。


 んーなんていうか、まあ、独り暮らしが長かったせいか、誰かに衣食住の基礎を任せるのは気恥ずかしいが、お仕事なわけだしね。分担していかないとね。


 食堂で椅子に座る。俺の席はまあ、肘置き付きで、ちょっと豪華な装飾が施されている。この工房を買った時からあるテーブルセットだ。俺がここを買う以前の主人が座っていたのだろう。


「おはようございます」


 松戸がお茶のセットと共に入ってきた。ティーワゴンにはこちらの世界では、王族……それこそ、帝国トップの兄弟でも飲むことが出来ないレベルのお茶が揃っている。

 

「今日は何を?」


「ん~焙じ茶……苦めが良いかな」


 濃くて、苦めが飲みたい気分っていうのも久々だ。


 日本でもそこそこお高めな茶葉を、松戸が煎れてくれるのだから、とんでもなく美味しくなる。


「本当に、松戸の入れるお茶は美味しいよね」


「ですよね。私も必死で真似ているんですけど」


 俺の様な素人でも、森下が入れたのと違いがわかってしまうのはスゴイと思う。それだけ松戸の腕がスゴイのだ。スキルに【茶】なんてのがあるんじゃないかと思う。コーヒーを含めて、お茶全般いけちゃうからなぁ。補正が入ってる気がするなぁ。


 食事は……もの凄く手の込んだ……ピザのようなヤツとか、多分、松戸、森下が入れ知恵した、肉料理、魚料理が並ぶ。汁物は豚汁だ。スゲーな。出汁から何から完璧だ……。朝飯……じゃないよね? これ。昼飯だとしてもボリューミーすぎる。


「マイアが力を入れすぎていて。戦争のせいでイロイロと考えたようなのです」


 まあ……うん、何かイロイロあったんだろうね……そりゃね。あるでしょう。

 食事はまあ、頑張って食べた。こんなに旨いものを、残すなんて言う文化は俺の中に無い。ただ、今後はもう少し、量は減らしてねとお願いしておいた。


「さて。俺の話の前に、俺が居なくなってからの、この国の状況を教えてもらおうかな」


 食堂から自分の執務室へ移動した。まあ、ここは打ち合わせスペースがあるので会議室のようになっている。うちにいる人数なら十分だしね。


 松戸、森下、アーリィの三人だ。マイアは帰ってきた俺用の料理の仕込みに、既にフル稼働らしい。


「姫様は~無事戴冠為されました~ですが~国の運営として考えますと~正直、芳しくありません~。これまでの多数派が~支配体制が一斉に変更されたのですから~。姫様~女王陛下は必死で頑張ってますけど~リドリス前辺境伯が亡くなったのも大きいかと~」


 そもそも……アーリィがカンパルラここにいるっていうのはどういう状況なんだろうか。


「その辺はなぁ……正直、強引に彼女を英雄にして、民衆を焚きつけた俺も悪いと思ってるんだが……それにしても、この国は……脆弱すぎないか? というか、今、国が運営出来ていないということは、イコール、クソな貴族が支配力を持ちすぎていたってことだぞ?」


「はい~。その通りです~。私も~実は、ここに居るべきではなく~陛下の補佐をするべきだと思っているのですが~。正直、サノブ様と一緒に居たい気持ちはありますが~今しばらくは~姫様の力になりたいと~」


「なのに?」


「はい~外されました~身分的なモノと~さらに、そもそも、一度裏切った~と思われているらしく~」


 なんだそれ。


「私がカンパルラに出奔した際にそういう噂を流されて~姫様も当時は裏で動かれてしまって、貴族社会と断絶状態で~止めようが無かったのです~。そのため、新組織には相応しくないということになり~陛下は強固に反対されて~私を実権の伴う地位にと動かれたのですが~お止めしました~」


「……まあ、カンパルラを救った……そして領都リドリスを奪還し、魔族の奴隷を三千人ほど行使している、新女王陛下だ。その新体制で宰相……にアーリィを……となるとそれは……な」


「はい~。その通りです~正直~二流でよろしければ~人材はそこそこいるのです~陛下は少々、目が肥えすぎているので~一番近かったのが、前リドリス伯~そして、現リドリス辺境伯~さらにディーベルス閣下~トドメでサノブ様~です。自分の側近として~側に置いておきたい者達は~尽く離れて行くわけで~」


「アーリィだけでも……と焦ったわけか」


「はい~最後は泣きそうな顔をされて……ですが~早急に国政を、体勢を整えるには~それしかなくて~」


「愚かだな……。というか、潰すか。この国」


「はい~?」


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