502:長時間飛行

 怖いって。


 何がって、日が暮れてからの飛行。特に完全に日が落ちてしまってからの飛行。


 嘘じゃん。さすがに無理じゃん。


(さすがに、イロイロと不確定要素が多々発生した)


 うん、そうだよね。長時間飛行は初めてだからね。いくらショゴスでも微妙な差は出ますよね? ですよね~。


(いじわるだ)


 やだなぁ。そんなことないですよー。


 まあ、ね。辺り一面真っ暗、暗闇となったわけじゃない。


 月がね。当然、こちらの世界にも月はあるのだ。なので、空中で、前後左右上下で不覚になる……という事態は避けられた。

 まあ、そもそも、例えショゴスが居なくても、【気配】や「魔力感知」による各種情報によって、慌てることは少なかったと思うんだけど……だけどなぁ。


 だが。なんていうか、向こうの世界の月よりも灯りが弱い。なんていうんだろう。暗い。遠いのかな? 距離が。その辺良く判らないけど。


 なので不安になる。向こうの世界の月も、赤とか紫とか不安な色になったり、微妙な形になったりしてイロイロあったけど、こっちの心細さには敵わないだろう。


(何も問題無い。怖くない)


 まあ、ねぇ。ショゴスさんはねぇ……。魔力による高度や位置把握とか可能になってるからなぁ。とりあえず、GPS的な機能がバッチリだよね。


 俺が、錬金術で一所懸命作成したスカートとかアンテナチップに設定したシステムなんてとうの昔に越えられてるもんな。というか、多分、これを搭載したら、性能が数段階アップッする気がする。


 ああ、そうか。シロが居なくなっているから、アレの活動……地理の把握とか、情報入手なんかも完全に停止したままか……。どうしようかな。


 ぶっちゃけ、アンテナチップによる情報収集は、主に帝国対策だったわけで。

 

 今回の件で、帝国との関係はどうするのがいいのかなぁ~。うーん。王権を継がせた姫様には悪いけど……どう考えても帝国のトップ二人の方が格が上なんだよなぁ。


 その辺……ぶっちゃければ、個人的にどうでもいいんだよ。カンパルラに影響がなければ。

 イロイロと手を貸したのは、あの城砦都市で居場所を確保するためだったワケだしな。


(ショゴスはさ~どう思う?)


(いま現在、二百七十三のルーティン動作の確保を行っている上に、さらに改善点、修正点を同時修正し改善に努めている私に、何を?)


(むぐ。ごめん)


(うむ。もう後、30分程度でカンパルラ上空に到着予定)


 実際、何度か慣れるために、飛行制御を行ってみているのだけれど。正直、しばらく……何度も繰り返していかないとショゴス無しで長時間飛行は難しそうだという結論に達したというか。


 何って、姿勢の制御が難しいんだよなぁ……。ちょっと余所見したり、意識が外れると、クルクルと……ドリルのように回転を初めてしまう。姿勢とか空気抵抗を考えなくて良い魔力による制御にもかかわらず、なぜか……微妙に変化が起こるのだ。

 まあ、空気抵抗を魔力で解消しているとはいっても、当然、呼吸するための空気は存在するわけで。それこそ、高所での酸素の生成もショゴスが何とかしている。レベルが上がっていけば、風の魔術で多分、「大気操作」みたいな操作系を覚えるんだと思う。それがあれば楽ちんになるハズ。


(そうしてくれると、もの凄く楽になっていいな)


(「○○操作」は基本的な属性の操作を底上げしてくる感じだからな)


 月明かりで照らされた……雲が下に見える。幻想的な世界だ。というか、この手の写真は向こう世界でも見たな。つまり、高度数千メートルの景色はファンタジーってことか。


(そろそろ……だ。降りるぞ) 


 自然に、降下態勢に突入した。直接真下に降りるよりも、こっちの方が魔力消費が少ないらしいって、当然だよな。垂直降下は目標地点が目視出来れば、判りやすいけど。省エネとして考えれば、かなり手前から侵入角を付けて降りていけば楽なわけで。アレだ、飛行機と同じ原理というか。


 こうなっていくとキチンとパッケージ化できるようになるまでは、各種データを収集して最適解を割り出していくしか無い。……のをショゴスに丸投げしている時点で、なんとなく申し訳ない感が生じる。


スッ……タッ……ザザザザザザザ


 おう。まあ、だからまだ、こうして、強引に摩擦でブレーキとかしないとになるわけで。降りたのはカンパルラにほど近い荒れ地……まあ、多少抉れても問題無い。


(着陸は……十回は試行しないとデータが完成しなそうだ)


(そりゃしょうがないんじゃない? 確か、飛行機の操縦で一番大変なのが着陸だって聞いたことあるよ)


(そうか。ならまあ、仕方ないな。これから、全飛行データの再精査を行うことにする)


 ……それは大変。うん、正直、こんな長時間……というか、フルに飛行して帰還するなんて考えて無かったもんな。時間短縮という意味では……凄まじい。


 空を飛ぶ……それこそ、飛竜に乗ってたのが竜騎士だとすると、アイツらがこの世界最速の移動方法だと思うんだけど、あ。遺跡からの発掘品で瞬間転移装置があるんだったか。それ以外だと、竜騎士が最速として。アイツらの飛行スピードがどれくらいだったっけ?


(確か、700㎞/h程度だったはずだ)


(え? そうなの? もっと速いと思ってたわ。俺の走るスピードとそんなに変わらないじゃん) 


(サノブもだが、飛竜も魔力で飛行している。その場合、急制動が多く加速が凄まじいので、速く感じるだけだ。最高速度、最高巡航速度はその程度だ。そもそも……竜種は長時間の飛行は不可能だと思う。30分程度で魔力切れになるハズだ)


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