500:やりっぱなし

(とにかく……これで、合衆国リエタ連邦軍の後続、兵站のラインは断ったということか)


 そうなる……な。ここから再度攻め込まれることは……難しい気がする。絶対ではないけれど。


 なぜだろう?


 これも強制力の一端だろうか?


 正直、魔族側の事情なんて、捕虜から聞き出さない限り判らないから安心なんて出来ないハズなのに。


 ああ……そうか……。


(何か気付いたか?)

 

(あのヒビ、明らかに小さくなり続けていただろ?)


(ああ。回収する寸前まで、少しづつ塞がっている感じだった)


(つまり、あのヒビは、最初はそこそこな穴だったんだと思う。でなければ、様々な機材や……それに、何よりも飛竜をこちら側に持ち込めない。同じ魔物かどうか判らないが、飛竜はこちら側にも存在するらしいけど、それを改めて使役し直したとは思えないからな)


(それはそうだな。道を作りながら進軍しているっていうことは今回の魔族軍の目的は侵攻だしな)


(……魔族はとにかくこちら側の世界を植民地にするための橋頭堡を築きたかった。ヤツラの目的は、人類を奴隷化するのと、植民地の確保だ。砂漠なんて住んでる者も少ないし……正直、植民地化したところで上がりも少ない。そもそも、生産物が存在しない。だから一気にあの要塞辺りまで進軍させたのか)


(それで? ヒビと穴の話は?)


(すまん、ちょっと話が逸れたな。つまり、飛竜を通り抜けさせる事ができる穴だったのは確実だ。だが。それがさっきはもう、人間一人抜け出せるかどうか? ってくらいの隙間しかなかった。つまりは。この数カ月、合衆国の錬金術士……かどうか判らないが、魔道具を用意した者の技術力はそこ止まりだったようだ。狭まってきていた大障壁を再度広げる技術、能力、魔力、まあ、なんでもいい、そういう力は無かったということになる)


(つまり、怖くない?)


(うーん。再度前と同じくらいの穴を開けられる可能性はあると思うんだけど。でも、なんとなく、既に、イロイロと対応が為されている気がするんだよな)


(こちら側でも?)


(ああ。前回はまんまと穴を開けられてしまったけど、次はそう上手くいかさないぞ? って感じで)


(そう言われてみれば……そういう感じもする……な)


 まあ、これも強制力なのだろうけれど。どうせ強制されるのなら、思い切りはしゃいで、それを利用してやろう。


(なので、何となくだけど、こうして再度大障壁のヒビが埋まったことになり、世界は平穏を取り戻した)


(そうだろうか?)


 そうなんだよなぁ。正直、どこか感じていた違和感は消え去った……と思う。だが、回復した……という印象は無い。

 

(これでカンパルラに戻れば、シロが目覚めているとは思えないんだよなぁ。ダンジョンシステムってさ……正直、後回しだと思うんだよなぁ。大障壁なんていう世界の根幹に関わるシステムに比べれば)


(それはそうだろうな。なんていうか……特に、サノブのダンジョンは……「プライベート」……いや、「特別扱い」「特殊仕様」の塊の様な気がしていたし)


 ……鋭い。特別扱い、特殊仕様は……実は俺も感じていた。


(とりあえず、一度カンパルラに戻るか。ダンジョンシステムに何か変化が無いかもの凄く気になる。宰相のことだから、何がどうなったのか、それなりに素早く情報をまとめちゃうだろうけど……まあでも、しばらくかかると思うからさ)


(了解した)


(深淵の森の東……魔導帝国……側の状況も気になるしな)


(忘れてた)


 空を飛ぶ……のはなんていうか、ある程度慣れてしまえば、異常に安定している。まあ、ショゴスさんに任せちゃってるのも大きいんだけどね。イロイロな思考が浮かび上がる。


 ショゴスと万里ちゃんを救出した後、一般的なダンジョンを「掌握」していった際に、そもそも、シロが存在すること自体が特別なんだという気がしていたのだ。

 というか、一般的なダンジョンのシステムを把握して、システムを使いこなすのは非常に難しいと感じた。凄まじく煩雑でまとまりが無く、融通が効かない。


 迷宮創造主ダンジョンマスターという天職を選択するには、非常に困難だとシロが言っていたと思う。


 だが、いくら賢い者達が、様々な天職を経験した後に、さらに何らかの試練? を受けた上で転職出来るようになる上位職なんだとしても、与えられるのがあのダンジョンシステムでは、完璧に理解できるようになるとは思えない。


(まあ、こちら側の世界から、魔力が続々と失われている最中だったからな……。もしかしたら、シロほどでは無いが、過去にはそれなりのサポートシステムが存在していたのかも知れない。それらが魔力不足で尽く失われた……という可能性もあるな)


(ああ、そうか。それはあるな。確かに)


 ショゴスの言う通りだ。そもそも、この世界から魔力が失われつつあったのだ。そんな中、女神は俺のダンジョンシステムを創り出した。さらに向こうの世界では、姿は観れなかったが、直接会話もしていたのだ。


 何となくなのだが……あれらも相当無茶な行為だったんじゃないかと思うのだ。







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