499:吸収合併

(で? 何が衝撃なの?)


(衝撃報告……あのヒビを創り出している……楔の様な物質……多分、大きな釘とか杭の様な形で障壁に打ち込まれたんだと思うのだけれど)


(うん)


(アレ、私だ)


 ん?


(アレ、私)


 んんんんん?


(だから……)


(どういうこと?)


(つまり、あの……判りやすく釘っていうけど。アレね、今もあそこにあるんだけど。アレ、私……過去に切り離された……というか、弾け飛んだ私)


 えーと、えーと。なんだ? ちょっと待て。うん。落ち着こう、俺。


(えっと判りやすく言えば。あそこで釘にされて、大障壁にヒビを入れているのは、元、ショゴスの右腕だった……とかそういうこと?)


(うん、そう。言ったじゃん)


 いやいやいやいや、マテマテマテ。うーんと? ううううううーんと? あ。過去か。昔か。

ぬぬなななく

(ちょい待ち。過去ってどれくらい前よ?)


(えーっと万里に会う前。その結構前。でも、そんなに前じゃ無い)


 あ。そうか。コイツ、万里ちゃんと出会う前はもの凄く曖昧な感覚で生きてたんだっけ? 確か。ずっと空見てたりして。


(そう。なのでよくわからない……けれど、あそこにいる……いや、あるのは私。一部とかじゃなくて、私自身だな)


 そ、そうなのか。


(え? なに? つまりは? えーっとショゴス、良かったね? ってこと? 再会おめでとうとか)


(そういうワケでもないけど、再会……になるのか。この場合)


 というか、ちぎれた右腕、合流できるのか? そもそも、融合して……あれ? 


(そもそもさ、ショゴス。君は俺の想像するような、軟体生物や、単細胞生物なのかな?)


(うーん。その辺は自分でも良く判らない)


 まあ、そうかもな。何せ以前は、自我の様なモノも感じることがなかったみたいだし。


(というかさ、あの右腕(仮)、もう、死んでる? 生きてたりするの? ……普通、そんなに前に斬り分けられた右腕なんて、干からびてカピカピでもう、ミイラ状態になるのが当たり前というか)


(生きて……る。そうだな。確かに人間の言う生物の観点からすると……おかしいのだな。私は)


(そっか~まあ、うん、女神様な、ショゴスのことを神敵……神敵は、虚無、何も無く唯々喰らう者……というイメージだったしな。遺物なのは確かなんだろうな~とは思ってたけどさ)


 つまりは。万里ちゃんと出会う前のショゴスは確実にそれでしか無かったわけで。


 あそこに「アル」のはその頃のショゴスなわけで。


(あそこの釘のショゴスと、今、俺と共にいるショゴス。混ざり合ったら昔のショゴスになったりしない? 吸収合併で弱い方が負けとか)


(……それも無い。というか、元々、現在の私は……非常に欠けた状態なのだ。あそこにある……釘を吸収したからといって、それほど回復はしないと思う。ん? 続々とその存在を減らし続けて居るな)


 減ってる……のか。


(アレ、今も釘、楔の役割を果たしている?)


(果たしているな。アレを抜いてしまえば、多分、あのヒビは消失する。大障壁は……一気に修復されるハズだ)


(ああ、そうか。現在も大障壁は自動修復している最中なのか……)


 悩むまでもないか。


(とりあえず、抜いちゃってよ)


(了解した)


 なんとなく……ショゴスが、自分の一部を求める……様なそんな気がした。


 一瞬。何かが増えた。様な。


(回収した。そして、今の私の一部になった……うん、馴染んだ。判りやすく言うと、私が吸収合併した形になった)


 そうか。乗っ取られたりしなくて良かった。


(そうか。そうだな。その可能性はあった……のか? どうなんだ?)


 いや、俺には判らんし。


 すると目の前で……何も無かったかの様に……急速に魔力は収束する。確かに存在した、大障壁に存在した「穴」が見事に消失した。効果音も……空気の波、震動、音も何もなく。


 残されたのは当たり前の様に存在する大障壁。そして大地。クレーターと共に、粉々に飛び散った瓦礫。灌木、藪。緑地の名残。


(ショゴス、大障壁に生じた異常事態が、今、解決した……んだと思うんだけど。何か……魔力の流れとかで変化は感じる?)


(……かなり広範囲に感覚を広げてみたのだが……いや、正直、何一つ変化を感じられないな……。何も無かった……かの様に……修復されてしまった)


 確かに。俺も何か感じられないかと思ってアンテナを強化していたのだが……「そこには何も無かった」という強制力が働いたかの様にあっさり修復されてしまった。


 いや、強制力が働いた? よく考えなくても、神の力の行使なんて……強制力の塊じゃないか。強制認知、強制承認……。これ、普通の人間なら認識が「ヒビなんて無かった」ことになってないか?


(確かに……そうなっている……可能性は高いな。私もそう言われて始めて気がついた。スゴいな。魔力に何も動きがないのに……)


(多分、これが神力だ……。魔力を内包する……上位の力……っぽい)


(感知出来ない……のは少々不愉快だが……正直、どうにもならないな。掴めない以上、それ以上何も出来ない)


 そうだよな。確かに、無かったことにされたのは、ちょっと不愉快だけど……。まあでも、障壁が完治した安心感、安定感も強い。これは……元々俺が女神側だからなのかな。


 

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