498:大障壁の小さなヒビ

 とりあえず。凸凹になってしまった……砂漠の突き当たり、縁取りになっているエリアに降り立つ。


 無限大障壁の根本の付近は、障壁の影響なのか判らないが、壁に沿って直線的に緑地帯が形成されている。障壁際から水が湧いて、泉を形成している所もあり、オアシスとなっているそうだ。


 なので、砂漠を越えた大障壁の側には、少数部族の国が……いやその規模的に国とは言えないか。部族の居留地が幾つも存在したらしい。


 壁際に出現した魔族の合衆国軍が出現して、最初に行ったのは、その壁際の少数部族の殲滅だったそうだ。


 十幾つかの少数部族が、あっという間に「消滅」した。


 元々、少数部族は宰相の指示の元、交易などを通じて帝国に恭順しており、何か事があれば、帝国本国へ連絡が入る手はずになっていたらしい。


 苦労人皇帝と「腹黒」宰相がどんなに優秀だとしても、さすがにその準備周到さは超人過ぎる。と思って詳しく聞いたところによると。


 帝国は、過去……今から十年前に、無限大障壁を越えて現れた魔族を討伐している。

 

 大障壁を越えて? 現れた魔族は、たった二十名にも関わらず、まず、壁周辺の少数部族の居留地を襲い、占領した。


 既に魔道具の実験を兼ねて、少数部族と連絡を取り合っていた帝国は、砂漠を越えて届いた情報に即対応した。


 騎士団から精鋭が派遣されたのだが、単独で突っ走ったのが、帝国十二神将の一人、七神将の炎のグレーリオリザラである。


 ……あれだ。俺が討ち取った(多分)臭い人だ。


 彼が単独で魔族の2/3を討伐。グレーリは最終的に魔族と相討ちになり、自分も吹き飛ばされてしまうのだが、残されていた少数部族の戦士達が数の減った魔族を討つ。


 遅れて大障壁に到着した騎士団精鋭は、激しく負傷した炎のグレーリオリザラを帝国へ運ぶと同時に、大障壁際で生活する少数部族と交渉を重ね、有事には即情報が伝達されるように手配していった。


 今回、初動対応が異常に早かった(そうだ)のはその手はずが整っていたからだそうだ。まあ、それでも今回の魔族の軍の数、物量共に間に合わず、砂漠に生きる少数部族は尽く殲滅されてしまったという。


 戦闘時に砂漠に出ていた等の理由で、若干生き残った者は北に運ばれているそうだ。

 砂漠の北西端(地図で言えば左上端)には森があり、さらに北には湖が存在する。そこに捕虜収容所の様な場所が造られている。大障壁に穴が空いているのなら、向こう側に運んでしまえば良いと思うのだが、何か理由があるのだろうか。


(だから、問答無用で……こんな酷い攻撃をしたのだな)


(……何度も言うけど、実際にやったのはショゴスさんですよね?)


(言ったじゃん)


 くそう。確かに、ぶっとい「石棘」でそれに衝撃波、ソニックブームを纏わせて攻撃したら、広範囲にダメージを与えて、魔族の基地になってるこの辺一帯に被害をもたらせられるかな? とか思っちゃったんだよなぁ。


 いやいや、正直舐めてたな-。質量兵器、確か「神の槍」だっけ? 衛星軌道から、槍を投げつける武器、あったよな。米軍かなんかの秘密兵器で。


(それはよく知らないが、今回は要望通り、空気抵抗を出来る限り生み出すように「風壁」で障害を設けてみたよ)


 みたよ……じゃないよ……ショゴス。


「ボコボコじゃん!」


(言ったじゃん)


 ……止めよう。うん。不毛だ。俺が悪い。悪いな。うん。


「石棘」……いや、それに伴う衝撃波攻撃によって……駐屯地となっていたであろう、魔族の拠点は、文字通り、粉微塵に吹き飛んでいた。


 瓦礫……瓦礫、千切れ飛んだ灌木、瓦礫、抉れた大地。クレーター。とりあえず、大障壁に沿って形成されている藪などの低木群も吹き飛んでしまった。


(自然破壊するつもりじゃ無かったのになぁ……)


(ああでも、爆心地の端の方にギリギリな生体反応がいくつかあるぞ)


(そっか。でも、先にあっちだな)


 ぶっちゃけ、北の捕虜収容所になっている陣地にそれほど多くは無いだろうが、魔族の兵が残されているハズだ。情報収集はそいつらからすれば良い。


 壁に……近づいて行く。


 目の前にそびえる大障壁に生じている……ヒビの様な……裂け目。多分天幕等が吹き飛んでしまった関係で、吹き飛ばなかった大障壁だけが残されている。


(……あれ……は……)


(ん? どうした?)


 魔力感知で感じれば、感じるほど、大障壁にヒビが入っている感じだ。もの凄く隙間が……狭い。


 なんだろうか。この大障壁に生じている違和感というか。この世界に不釣り合いな現象。違和感がスゴイ。


(……あの隙間……徐々に狭まっている様だ。元はあのヒビ割れは非常に大きかったのだと思う。今では人間一人が身体を斜めにしてやっと通過出来る程度の隙間だが)


 その隙間から……向こう側、魔族側の大地を垣間見る事は出来ない様だ。なんか、暗い。


(建造物が建てられている様だ。衝撃波の余波で……かなり吹き飛んだのだろう)


 まあ、大障壁に折角空いた穴……だったのだから、それを覆うように建造物を建設するのは当たり前か。こちら側だって天幕が張られてパッと見的に見えなくなっていたからね。


(そして、その、衝撃報告なんだが……あの隙間……を支えている物質があるんだけれど……)


 ああ、そうだな。なんで隙間が生じたのか判らないが、その隙間を生み出した何らかの道具、物質が存在しておかしく無いだろう。


 無限大障壁は、帝国の歴史書などから、古の昔から存在してきたことが判明している。一時期はこの大障壁を打ち破ろうと様々な工夫が行われ、全て徒労に終わったという。


 まあ、つまりは。同じ様に魔族も、いつ頃からかは判らないけれど、この無限大障壁を打ち砕こうとしてきた可能性があるのだ。


 その結果が、今回の侵攻……なのであれば。何らかの原因、何らかの勝因? が存在するのは確実だろう。


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