497:大障壁

(しかしスゴイ壁……だ。必要な……魔力量が……正直計算不可能だ)


(ああ。まあ、でも。……最大の問題は、あそこにあると思わないか?)


 そう言って、右斜め下を見る。ショゴスには俺が何を言いたいか、伝わったはずだ。


 大障壁の凄さ……の感動、感想は後だ。


(確かに。壁に不自然な……穴が空いていて、そこから魔力が流出している? 干渉し合っている……何かが……ん? 魔力が歪んでいる原因はあそこか)


(ああ。正確にはこちらの世界の魔力の歪み、だな。魔力には多分、二つある。いや、正確には二つの系統がある。だな。で、あそこから流出しているのはこちらの世界の系統で練り込まれた魔力だ。とりあえず、あれを塞ごう)


(了解した)


 魔力的に見れば、それしか見えない。が。視界には。眼下に広がるのは、幾つもの天幕。それは……多分、魔族の軍の前線基地だ。それなりに時間が経過しているにしてはあまりにショボイ……いや、簡易的な陣地の様な気がするが……。


(シファーラ魔導合衆国のリエタ連邦軍だ。魔力を隠蔽する魔道具を使っていないな……)


 魔力の隠蔽というか、魔力を周囲に漏らさない……というだけなら、俺も出来る様になっている。【気配】で感知するという意味が良く判っているし、【隠形】で気力や気配の制御と同時に、魔力の制御も行っていた気がする。


 なので……大空を高速で移動して最中に魔力を隠蔽するのは難しいが、こうして上空で滞空している状態なら、ほぼ完璧に魔力の放出を感知されない。


 いや、こうして空中に停止する……だけならさ。実は俺、簡単だったわ。【結界】「ブロック」を足元に出して、それに載ればいいのだ。細かい魔術で調整してた俺よ。さらば。


 気付いてしまえばなんと簡単な事よ。


(その……スキルの【結界】なんだが……正直、原理原則、動力等の仕組みが全く判らない。なんで、中空に「ブロック」を固定出来るのだろうか。反則だろう? 法則性の無い唯一無二の存在って。それが神か)


 どこでその言い方を覚えたのか判らないが、……まあ、そうだな。これは……これこそ、神の力……なんだろうな……。スキル【結界】の仕組みは魔力でも気力でも無い力で構成されているっぽい。


(この「ブロック」って色を変えられるんだよな?)


 変えられる。余裕だ。「大地操作」で土や石の壁を作るのよりも簡単に壁を発生可能だ。まあ、ただ、現象として固定するわけではないから、魔力供給を停止すれば消えてしまう。「大地操作」で生み出した壁がちゃんと残るのとは大きな違いだ。


(あくまで……ノラムの力の延長……なのだな)


(そうだな。そう考えると理解が早いな)


 魔術は世界に影響を与える。側にある、地水火風……自然界の物質に影響を与え、継続的に作用させることが出来る。


 カンパルラの城壁の外に地下室を造った際に、固い石壁でコーティングした。アレは現在も残っているだろう。ああ、それこそ、カンパルラの地下道を俺なりにアレンジして、領主館なんかに繋げたのは……ちゃんと使えるままじゃないと困っちゃうしな。


 その辺に比べると、正直、【結界】の力は異様だ。神とか言いたくなる気持ちも判らないでも無い。

 正直、強敵との戦闘になればなるほど、効果を発揮している……気がする。


 そうだよなぁ。深淵の森の中層のドラゴンとか、剣のような角を持つ甲虫なんかもばっちり止めてきたからなぁ。アイツらかなり高レベルだったみたいだし。


(よし、んじゃやろうか)


「石棘」を……いつもよりもとんでもなく太い「石棘」を生成する。とりあえず、五十くらい……でいいか。


(当たるかな?)


(微妙な調整はこちらで行う。空を飛ぶのに比べればちょっとした「風槌」でいけるハズだ)


 魔族……とりあえず、アムネア魔導帝国のヤツラほど、高飛車ではない……かもしれないが、これは既に戦争だしな。容赦しないでいいよな。


スッ……


 音も無く、次々と……極太「石棘」が。


 墜ちていく。


 最初は……魔力感知されてもなんだなと思って、自由落下にして、途中から……微妙に方向転換させて、天幕を破壊していこうと思う。


(これ、結構凄まじいぞ……。多分)


(五十とかいらなかった?)


(ああ……多分。現在、高度三千メートル……落下時の速度は約900㎞/h弱。これを上から……「風槌」でさらに後押し、加速させる。ほら。あっという間に……1500㎞/hを越え、2000㎞/hを越え。空気抵抗は何一ついじっていないから、当然、衝撃波、ソニックブームが発生する……)


ゴバムン!


 眼下に小さく見えていた天幕……というか、敵の最前線基地が波打った。見える限りの大地が……なんだか普通には見たことの無い……抽象画の風景の様に変化している。

 

(うおっ!)


 ここまで……この高さまで何かが届いたような気がした。


 実際の所、高所故に発生している強烈な風は、魔術で完全に防いでいる。震動も伝わってはきていない。


(対象物……消滅。大地には無数のクレーターを確認。生存者はゼロに近い……な)


(え? まじ? そんなに?)


(だから言ったじゃん)


(加速させて、…じ、衝撃波攻撃したの……誰かな……)


(そういうイメージで……って発注したじゃん)


(いやだって、ただ落としただけじゃ、そんなに威力がないかな? と思ったんだもの)

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