496:最西端

(えーっと。最果て砂漠は横断に砂漠馬クラズっていう駱駝に似た動物に乗って約二百日かかるって言ってたわけで。なのに合衆国軍は既にここに居るわけで。ん? あの辺かな?)


 高度を下げて、そのまま着地する。そうか。つまりは。


(道が出来てる)


(ああ、見たとおりだ)


 戦場となった荒れ地から、ちょい、西に移動した。


 砂漠の只中に、硬く固められた砂の道が作られている。


  そう、魔族、魔導合衆国の連邦軍はここまで、道を造りながら東征してきたのだ。


(これっぽっちも、負ける気は無かったんだな)


 負ける気どころか、攻め取って支配する気満々と言ったところだろうか。


 正直、西へ続く道は、魔術による速成で強度はそこまでではない。


(このまま放置すれば、十年程度で砂に帰るはずだ。だが、礎を築く為なら十分に使える。砂漠特有の砂嵐を耐える必要はあるが、それ以外は非常にクリアな道だ。障害物も一切無いしな)


(合衆国連邦軍は、この道を身体強化して走ったんだな)


(そうだな、多分ソレが一番速いし効率的だ)


 魔力の使い方として、様々なやり方があるが、俺は、馬に魔力による身体強化を施すよりも、自己強化の方が楽だ。消費魔力も少なくできる気がする。個人差がある気がするけれど。

 

 天職で付与術士とかあったよな? あれなら馬強化とか安易に出来るのかな?

 

 って、まあ、それは置いといて。


 合衆国リエタ連邦軍がここまで2カ月弱でたどり着いたタネは理解した。あの「腹黒」宰相が必死だったのも、切迫詰まっていたのも、その進軍スピードのせいもあったに違いない。


(そうだな。あれだけ、戦略、戦術共に優れた策士が、為す術も無く力で叩き潰される所だったからな)


(対魔術装備も行き渡ってなかったし、予測していた割りには、対空装備も整っていなかったからな〜単純に時間が無かったんだな)


(この道に関するデータの収集終了。これでノラムも道を造りながら疾走出来るぞ?)


 再度、足に力を入れて、空に飛び立つ。向かうは道の到達点。はるか西だ。


(それさ、俺の幅だよな? この道幅?)


(スピード重視なら幅六十センチといったところか。この道幅であれば……最大時速は200キロ程度だな)


 うーん。スゴいけど、微妙。


(ちなみに、連邦軍はどれくらいのスピードだったと思う?)


(残存魔力から大体、二十から三十名の土の魔術士が、協力して術を行使し、敷設している。時速で100キロは出ていないな。多分)


 それでも、まあ、こちらの世界の軍隊、騎士団と比較すれば圧倒的だ。


(というか、アムネア魔導帝国のハーシャリス閥軍とは、何だったのか?)


(ああ。ギルド長夫妻を始め、被害は出てしまったが……正直、良かったよ。魔族との初戦があれで。情報もゲットできたし、何よりも切り札を手に入れる事が出来た)


(正直、可哀想だな。合衆国リエタ連邦軍は何もミスしていない)


(舐めてなかったしな。帝国騎士団を)


(ああ)

 

 細かく魔力の隠蔽を行っている時点で、帝国側の魔術士を非常に警戒しているということになる。帝国が放った斥候、偵察部隊を尽く仕留めて、帰還させなかったのも、作戦的に正しい。そのおかげで、魔族軍の詳細な情報が帝国……いや、宰相に伝わらなかったのだから。


 さらに、数はともかく、あの戦力……明らかに過剰だ。特に飛竜や蝙蝠型魔物による爆撃戦法は、地上戦力しか所持しない帝国に対して、必要以上の効果を求めていた気がする。


(アムネア魔導帝国はノープランで突っ込んで来た感じだったけど、こっちは確実に、奴隷植民地化を計画して攻めてきてるよな)


(しかも、最大効率で、だ)


(確かに。何となく……戦争という国家行動を数値化して「運用」してるな。合衆国は)


 雲の下。砂漠を横断する一本の道。それをトレースするように、高度二千メートル程度を維持してスピードを上げていく。


 話に聞いていた通りなら、この最果て砂漠は東西に4000㎞程度。つまりは、マッハ2で跳べば、二時間で終端へ到達できる計算になる。


(ああ、到達できた……ようだぞ?)


(マジか。あれが……無限大障壁か)


(マジ無限。マジ大障壁)


 すごいな。まさしく、そそり立つ壁。魔力による障壁。というか、区分けか。


 目に見えるのは……なんていうか、磨りガラスだろうか。厚さは判らない。壁の向こう側は薄らと感じるだけで、何も見えない。


 壁として……石とか木とか、それが列なっているわけではないので、見た目の存在感、圧迫感はそこまでではない。


 だが、壁は、確実にそこにある。魔力を感じる者ならその大きさに圧倒されてしまうだろう。


 そこから先へは進めない、明確な意思が込められている。


 天地左右……見渡す限りの障壁だ。これはどこまで続いているのか。この大陸……いや、この星を……惑星を縦に分断しているとでもいうのだろうか?


(はあ〜すごいな。こりゃ。何でこんな物が、ここにあるんだろうか?)


(これが神の力というやつか?)


(そうかもしれないし、そうでも無いかもしれない。とりあえず、魔族、人族……どちらでもいいけれど、これ自体は俺達の手でどうにか出来る……ものじゃないよな)




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