495:魔道具の系統
振り回す切り裂きの剣が、そのまま、魔族の命を奪う死神と化す。
魔族に武力的な化け物は居ない……といいなぁ。
(戦争は数だ。だが、魔術というシステムが加わった世界と、無い世界では抜本的な土俵が違うから、比較することが出来ない。実際、数で勝る帝国が、為す術無く殲滅寸前まで追い込まれていたからな)
(そうだな。空を抑えて良かった)
(なので、魔術が消失した以上、魔族に魔術以上の……システムが存在しない限り、この戦場がひっくり返ることはない。魔術に撃たれ、数が減ってしまった状態からだと、数の利がなかったかもしれない。ギリギリで耐えていた。限界だったと思う)
(そりゃ、タイミングが良かったな。で? 勝率は?)
(帝国の勝利が80%)
(おおー)
(さらに、こうして、ノラムがその力を振るう場合、さらに勝利確率が上がっていく)
魔族……完全に背水の陣に近いのか? 後退するのが遅い。というか、既に、ひとまとまりになって、後ろに下がるのがまずは大事なんじゃないだろうか。
(というか、やはりその指輪……ちょっとおかしくないだろうか)
(効果とか、範囲とか?)
(ああ。消費魔力もそこまででは無い様だし)
そうなんだよねぇ。この指輪。
王都で使った時もビックリしたけど、この指輪を中心に、12㎢程度の広さに効果を及ぼす(最初、ショゴスは数十㎢と言ったけど、余りに広かったので再度図らせたら、この広さだった)。12㎢と言えば千代田区と同じくらい(大事な部分が抜けている)だったハズだ。
魔力の消費量もそこまでじゃない。俺が寝る前に今日の残った魔力を全部ブチ込む方法で三日くらいかかったけど、魔術士十数人分くらい……だろうか?
(魔族にとって魔力はその力の源だ。それを無くしてしまうというのは基本あり得ないだろう)
(だから、この指輪は価値が認められていなかった様だ。武闘派魔族とかがいたら、結構有用だと思うんだけどな)
(魔力……を消去するのはそんなに簡単なのだろうか?)
(いや。簡単じゃ無いよ。正直、俺にはこの指輪の魔術印、魔術紋は解析できていない。なんていうか……俺の知ってる錬金術の系統とは違う……気がする。バッテリーの様な魔力を蓄積してるのがこの魔石だけどさ)
ちょっと大きめな指輪には魔石らしい、宝石、貴石が埋め込まれている。この魔石に魔力が蓄積されているのだが、蓄積方式も大きく違う。マンガン乾電池とリチウムバッテリーくらい違う……と思う。詳しくは判らないけど。
(魔力を無効化する魔道具……は「魔族以外」の種族にとっては非常に重要になると思うのだが。そこれそ、真の切り札となるわけで)
(そうなんだけどさ。なんか、魔族の世界ではそれなりの数残されているみたいだけど、蔑ろというか、適当に扱われているらしいぞ。今は。野蛮人の魔道具というか。まあでも、こちら側のとの戦争になれば……もの凄く重要アイテムになるよなぁ。まさしく激レアアイテム)
(だな……まあ、でも……時間をかければ一人で、一万の魔族の軍を殲滅出来そうな人間の方がレジェンドレアだと思うけれど)
まあ、そうだけど、面倒だからやらないというか。
それにしても、この指輪のシステムの解析もしたいよなぁ。飛行の魔術システムの最適化とか、飛竜の操縦システムとかも解析したい。魔族がこちらへ移動してきたシステムも調べたい。道っぽいのが出来てたし。やりたいこと沢山だ。
(よし。もう良いよな? あまりやり過ぎても手柄を独り占めになっちゃうし)
(それ、良い言い訳)
(うん。じゃあ、一番最初の目的通り……行こうか)
(どこへ?)
(西の果て)
足に力を入れて「気力」を篭める。【結界】「正式」を纏って風の抵抗に逆らう。
これまでの「魔力」頼りの走行とは違う、風を、空気を感じる走りだ。アレだ、なんか懐かしい。深夜とは言え東京の一般道を人を避けて、突っ走った事あったな……なんか懐かしい。
(空気抵抗とは、やはり、抵抗なのだな……)
(ん? 万里さんと一緒の時に感じたりしてなかった?)
(万里は……時速80㎞越えで走ったりしない)
魔力を使用しての走行では確か……時速500㎞越えだったか? それに比べれば正直大した事ないと思うんだが。
(実利的には魔力を使用した方がスピードが出るし、疲れも少ないのは確かだ。だが……こちらの方が風を感じる)
それはそうね。確かにその通りね。しかし風を感じる……って、なかなか古い表現ね。バイク乗りか。
(お?)
ほんのちょっと走っただけで反魔力領域を抜けた。
「シッ!」
かみ合わせた歯の間から、息吹が漏れる。
膝を曲げて、空へ跳ぶ! ドゥン! と足元が歪む。湾曲した台地を感じる。
グバッン! グバン!
連続して「風槌」と「風盾」で加速する。同時に「風刃」で前方を斬り裂く。
(ああ、なんで、そうやって空気抵抗をここまで細かく制御しなければいけないのが、現実のデータと共に良く理解出来た)
(百聞は一見にしかず、だな)
(データが多いと特にそう思うのだな、理解した)
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