494:己の武器は

(さてと。ということで、空襲は潰した。下の状況は把握できた……よな?)


(大体の所は。このままだと帝国が負ける確率は96%)


 スゴイね……君……そんな計算まで瞬時に出来ちゃうのか。


(これでも、帝国騎士団が頑張っているのを加味した計算結果だ。せめて……あの盾……「結界」の魔道具がノラムの作ったモノと同じレベルの効果があれば……)


(ああ。カンパルラの城壁用のヤツ?)


(そう。ノラムが自分で息の根を止めたヤツ)


 うん、ハーシャリス閥軍の……えっと。ゾンビ兵? をぶっ殺す際に、高温の「火球」がほんのちょっと当たっちゃったら、一瞬で蒸発したヤツね。


 当然、カンパルラ城壁の「結界」の魔道具はパワーアップしたバージョンを配備しておいた。


 元々あれは、狂乱敗走スタンピードを想定して設置してた魔道具だからな〜。魔術をバンバン撃ち込まれる用に出来てなかったし。


(う……ん。まあでも、アレだ。ここで俺が、拡散、個別展開している敵の背後から襲いかかったとしても……)


(時間がかかるな。規模の大きい……それこそ、「爆裂」「火球」を複数個一気に放てば、部隊毎の形勢は逆転するかもしれないが、帝国騎士団の被害は甚大だ。さらに、それを一部隊毎にやっていたら……時間が掛かりすぎる)


 ですよね~まあ、そうですよね。


「ということで、取り出しましたのが、この、指輪」!


ジャン! ←心の効果音が俺のバックにドン!


(それは……)


「そうそう。アレですよ。「指揮官君」が装備していた、反魔術領域生成指輪(ショゴス命名)」。


 あ。そうか。下に降りておかないと、やばいわ。多分。さすがに高度……えーっと二千メートルくらいから墜落して「気力」のみで生還出来るとは思えない。


 折角決めたのにちょっと格好悪いが、気配を消して、魔力も抑えて、一気に下へ。地に足を着けて……そのまま、戦場となっている、要塞西の台地の中央に走る。


(改めまして、指輪、ドン! 発動! ドドン!)


(おおー。スゴいな……この指輪、効果広いな)


(なんでも、超古代遺物アーティファクトらしいよ。非常に稀少なんだけど、古くさい貴族が最終手段として使用することがあるとかないとか)


(諸刃の剣だしな……魔族にとって)


 そう。この指輪の影響下では魔術が一切使えなくなる。つまりは、俺が魔族にしたように、一気に「腕力、武力」武器となる。


 ああ、戦場に広がる無力感。戦場の喧騒が……一瞬ゼロに、無音となって……若干の風の音くらいだ。聞こえてくるのは。


 そして……うんうん。耳を澄ます。よーくよーく。聞き逃さないように……耳を澄ます。


 各個勢力の……尽く東に位置しているであろう側の……力強い……指揮の声。瀕死の状態から、初めて見つかった一筋の光明。誰も予想していなかった、誰も想定していなかったであろう「そんなことがあるんだ」という現実。


 それは……いつしか雄叫びとなり……戦場に波となって……俺の耳に届くようになった。


「そうだ。そうだ、そうだ! 魔力さえなければ、お前達は人族最強の騎士団なのだろう? 帝国! やってみせろ!」


 俺の声は届かないのは判っていたが……それまで、ギリギリで、すでに死にかけていた者達の絶叫は、台地を揺るがす反撃の狼煙と化した。


 張り上げる声が、鳴らす武器を撃ち合わせる音が。心を奮い立たせる。もしかしたら、既に……ギリギリで。命が尽きる寸前だったかもしれない。膨大な魔術に翻弄され、すり潰される寸前だったかもしれない。


(混戦……大混戦)


(んだな。さて。なので、目で見て、判断してから……斬り捨てようか)


(斬り捨てるんだ)


(まあ、俺は約束は守る派なんだよね)


(そうだな)


 ここからは「魔力」では無い。武力。そして俺に場合は「気力」での勝負だ。


【収納】から抜き放った、切り裂きの剣を片手に、足に力を入れる。


(右に……魔族の部隊。クロスボウに似た武器で攻撃中)


 幾ら魔術がメインの軍団でも、サブウェポンは持ち歩いてるワケで。魔術が使えない非常事態とは言え、徐々に武装を切り替えて戦い始めている様だ。

 至近距離で見たことがあったのがハーシャリス閥軍だったからなぁ……アイツら、弱かった上に、さらに、こちらを舐めてたんだな……多分。


 とはいえ……ここから見える限り、魔族に鎧を装備している者はいない。魔術を使うのに、鎧は必要無いものな。サブウェポンも遠距離攻撃可能なクロスボウなら戦術的にな行動は、そうそう変わらない。


 ただ単に、「火球」や「風刃」に比べて、火力が足りないだけだ。帝国軍の持つ盾がそのボウガンから撃ち出されている弾を跳ね返しているだけだ。


 ボウガンから撃ち出されているのは……アレは……。


(多分、アレも魔道具だ。魔力を篭められていて、撃ち出すと、敵に当たった衝撃で弾けるとか、そんな感じだと思う)


 それがただ、投石の様にぶつかるだけになっていると。


「気力」を若干纏わせた剣筋は、斬り込む瞬間に剣の刃を幅広くし、さらに剣先が延びる。


 後方から、魔族の部隊に飛び込んだ。


 気配を消した状態から……いきなり現れた俺にクロスボウを向ける事も出来ていない。


 数人の魔族は手に持ったクロスボウで俺の剣を防ごうと構える。


(それじゃ……ダメだ)


「気力」を纏った切り裂きの剣が……無情にも、魔族の兵士が構えたクロスボウをあっさりと断ち、さらに延びた刃が胴体を上下に裁った。


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