493:ビビッた

「風槌」そして「風盾」を瞬時発動させ、敵の使ってきた「大風槌」を防ぎ、押し返す。


(さっきの原理の応用だな。「風盾」の様に平たいイメージのモノだと相殺しやすいな)


(よし。確かに、威力はそれほどではないな……ちょっとビビったけど)


(ビビった)


「石棘」……を今までよりも太く。重く。そして。


(そう。上空を取った方が確実に強い)


 これまでよりも格段に速く。力を入れて、移動を行う。あっという間に……多分、1,000メートルは上昇した。


「貫け」


 既に槍のような太さ、長さの棘が、五本。出現している。これまでのような適当な仕様ではない。海で敵を仕留める銛の大きいヤツを思い浮かべた。


 滑空。「石棘」が凄まじいスピードで射出される。これまた、イメージは電磁砲だ。


 油断しているのか、感覚的に、まだ戦闘の間合いでは無いのか、こちらの上昇を追撃する様に……飛竜が迫ってきている。


(急制動の際の追尾、頼む)


(ビビッた?)


(うるさいよ)


 まあ、これを防げるモノなら、防いでみろ!


ズバン!

 

 風の魔術が関係しているのか……ちゃんとした音ではない。が。空間に穴が開くかの様な震動が伝わってくる。


(お見事)


 大きな飛竜に穴が二つ……空いた。そのうちの一つは、上に乗って操縦していた操縦者も同時に空いた。


 当たり所が良かったのか……魔力飽和による破裂もせずに……飛竜は大地に墜落していく。


(やはり……飛竜……魔物なのに死骸が消えないな)


(そうだな)


 その辺は、まあ、後で「腹黒」宰相殿にでも考察してもらうのが良いだろう。現場でこうして、カトンボ退治をしている俺には、全体を俯瞰しての判断は難しい。


(他は?)


(既に、撃墜済み以外の飛翔物、魔物は確認出来ない)


(了解。では……後は……地上戦かな? 状況、判る?)


(根本的に押されている……と思う。どう考えても、魔術による攻撃力の差が大きい。騎士は……やはり無理があるぞ?)


(あれは……盾を構えて完全に壁になっている感じだろうか?)


 丁度前方斜め下で、遭遇戦が開始された様だ。というか、魔力隠蔽のせいか、分散して配置、進軍していた帝国軍は、個別に仕掛けられ、削られている。


(包囲殲滅を恐れての分散、騎士団単位での戦術行動だと思うんだけど……さすがに全員が魔術士っていう軍を相手にするのは厳しいよな)


(それでも持ちこたえられている……のは、大盾に魔術の反応があるな。アレか)


(あの大盾……魔道具だな。結界の魔道具と「風盾」の魔道具……か。判りやすい。矢をはね除けるのは「風盾」。魔術は「結界」でって感じかな)


(確か、帝国には「土壁製造器」「風壁製造器」「火壁製造器」って魔道具があるって、宰相の側使いが言ってた。多分、あの盾も、他に土と火がある気がする)


 確かに。だが……そうだな……これだけの物量=魔力、魔術と相対するには……そんな小細工では覆す事は難しい気がする。

 手榴弾を盾でガード。一発ならまあ、どうにかなるかもしれない。だが、それの数発分が降り注ぐのは。


 無理があるよな。


(魔術での力押し……魔族ならではか)


(空からの多角的な攻撃もしようとしていたけど……)


 それは潰した……よな。うん。とりあえず。頼まれた通りに、後方を狙うか。


(後方……輜重部隊っぽい存在は見当たらない……が。飛竜とかの乗り物となる魔物の餌を管理している様な……部隊は……一番遠くにいるな……)


(多分、それが、飛竜部隊だな……。そうか。輜重部隊が各部隊に組み込まれている感じか。あのさ、これ、既に戦闘が開始してしまって、ちょっとグチャグチャで判りにくいけど、魔族軍も包囲殲滅……しようと考えてたんじゃないか?)


(……つまり、帝国騎士団が包囲殲滅で動いていた魔族軍部隊に個別にぶち当たったと?)


(ああ……包囲殲滅系の作戦は……つまりは、戦術行動部隊毎に攻めるということになる。それを押し返すには、各個撃破が最適解だ。まあ、相対する戦力が同等か、それ以上であるというのが前提だが……)


(敵部隊の全容というか、数は?)


(判明していない。偵察部隊は尽く連絡を絶ったそうだ。まあ、つまりは、ショゴスの言ったとおり、ハーシャリス閥軍よりも合衆国軍の方が確実に、戦術、戦略ドクトリンが格上なのは確定だよな。何よりも……こちらの戦力を「馬鹿」にしていない)


(ちょっと……大体で比較してみる)


 ん?


(帝国軍……は約二万五千といった所か。最初に数に入れた二万程度の輜重……馬番や各種雑用兵なんていう非戦闘員は要塞に待機と言っていたな)


(非戦闘員も数に入っているのか?)


(いざという時には戦うんだってさ。まあ、騎士、従士が戦闘のプロであって、純粋に人手としてなら、ただの一市民よりは戦える感じで)


(つまり……今、戦っている帝国軍は二万五千……魔族の合衆国軍は、約一万だな)


(え? そうなの? どう見ても圧倒的に押されている感じなのに。純粋な数では帝国のが上か)


(だからこそ、まだ、何とかなっている状況……だな。しかし純粋に火力が違い過ぎる。各個撃破されるのも時間の問題だ)


(作戦は……ズバリ的中なんだなぁ……というか、何で斥候からの情報も無しに的中させられるんだよ……「腹黒」め)


(スゴイな)

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