492:飛竜隊長

(右手上方! これまでよりも強力な飛竜! 此方に向かって急上昇中)


 砂漠に生じた道を眺めていると、いきなりのショゴスの警告と共に、俺の「魔力感知」にも強力な反応が出現した。


 これだけ派手にやれば。まあ、そりゃ見つかるか。でも、反応、速いよな。さらに対応も速い。

 いきなり過ぎなんだよな。リエタ連邦軍のヤツラ。まあ、それだけいつも、「魔力感知」に頼っているという事か。


(魔力のある者は、「魔力感知」に頼ることになるのではないか? だからこそ、なおさら、魔力隠蔽が戦術上非常に重要になる)


(ハーシャリス閥軍……アムネア魔導帝国軍は隠蔽してなかったぞ?)


(つまり、それは戦い慣れていない、弱いと言うことなのでは? 最新のドクトリンが魔導合衆国側で、帝国は時代遅れということではないだろうか)


(確かに、そもそも、魔導合衆国どころか、隣国のクロトネア真正帝国だかに押されていると言ってたな)


(言ってた)


(んーまあ、結局の所。今、こうやって攻めてきてる奴らは強いって事だな)


グバンッ


 横から圧がかかった。「魔力感知」でそれに引っ掛からないように距離を取る。


 ん? かなり距離を取らされた。今のは規模の大きい「風槌」か? ちょい待ち。射程長くない? 明確に俺を認識し、狙って来ているのは良いとして。


(射程は……魔力をそれに注ぎ込んでいるというか、視力や「魔力感知」に特化した訓練を行っているのかもしれない。「大風槌」は……面での攻撃が有効ということなんだろう。まあ、確かに空中戦は三次元での戦いだからな。ランスより、機関銃より、ハエ叩きが有効だな)


(魔術って空気抵抗とか無視だもんな。いやでも、そこでホーミング系の魔術にいかないのは?)


(魔術操作が非常に繊細で面倒だからではないだろうか? そもそも放出した魔術はイメージの力で敵に命中する進路を進む。それ以上やろうとすると正直、消費魔力が桁違いになりそうだ)


 放たれた魔術攻撃を何とかするには……避けるか防ぐの二択だ。対応できない速さで避けて振り切るか、結界や盾系の術で防ぐ……となる。


(同系統の魔術で相殺……ってのは無いよな。逆系統の魔術で相殺は?)


(それはある。と思う。あと、物理系? の魔術は同系統で相殺も可能だな)


 えーとつまりは。火の魔術に向かって火の魔術を使ってもすり抜けてしまう。飽和状態とかに出来なくもない気がするが、それをするには何か工夫が必要だろう。


(火の魔術に向かって、水の魔術はこれは相殺可能だ。純粋に後追いでつぎ込める魔力勝負になると思う)


 魔力が多い方が後ろから押せるって感じか。


 で。土の魔術で生み出した「石棘」とか「石壁」なんかは当然、同じ魔術で相殺可能だ。


(というかさ、それなら、火や風の魔術……「火球」や「風刃」に対して……分子じゃないけど、魔力……魔素単位で、詳細に相対させることが出来れば……相殺可能じゃない?)


(確かに……人間の思考感覚でそれを行おうと思えないレベルの魔力量の計算、座標計算が必要だが……私なら可能かもしれない。そして、慣れれば当然、ノラムもいけるハズだ)


 って……いや、今はそんなこと深く考えてる場合じゃないな。問題は、今の攻撃に対する最も有効な攻撃方法だ。


(これまで通りで問題無い。「大風槌」は……アレ、多分、大した威力は無い。射程が長いのと、大きいだけだ。多分、空中でバランスを崩させて、コントロールを失わせるのが目的だ)


(コントロールを失えば……ああ。そうか。それなりに高速で空を飛んでいれば、コントロールを復活させることが出来ない可能性が高いか)


(ああ……操縦と魔力のコントロール、両方を喪失すると……十中八九、地面に叩きつけられる可能性が高いな)


 そうか。操縦だけでなく、魔力のコントロールにも影響があるのか。


 なら。


「石棘」を……十数発、向かってくる強飛竜に向かって放つ。前方で球形になる……それなりに囲う様に放った。


(「石壁」! しかも……一枚じゃない! 抜けた「棘」が二枚目、三枚目で食い止められている。重さが足りなかったか!)


 すれ違った。身近で見ると飛竜ってデカい。あと、コイツが隊長機なのは間違い無いな、装備も豪華だ。飛竜も鎧みたいのも装備してい るし。


「ちっ」


 思わず舌打ちが出る。こちらが瞬時に振り返ったよりも早く……隊長が襲いかかってきている。


(空中戦の機動ではあちらの方が数段上だな)


 いやいや、ショゴスさん、冷静に分析している場合じゃ……。


グバッ!


 バックステップの様に……急制動で後ろに下がった。大風槌がギリギリを薙ぐ。


 お。前にくぐり抜けるのは対策してたみたいだけど、バックステップは想定外だっ……くっ!


グアン!


 空気が歪む音が聞こえる!


 何重にも積み重ねられている罠の様に……次々と「大風槌」が発動させてくる。単純なんだけどな。こちらの空中での移動を的確に読まれている感じ……か。


(多分、飛竜ではなく、サノブ自身が飛んでいるせいで……敵対象物が小さいのだと思う。これまで当たってないのは、照準がズレてるためだからな)


(ってことはそろそろ合わせ……)


ゴアッ!!!


 ちっ! 押し返せ!

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