491:西からの足跡

 風の魔術で覆われた「石棘」は思ったよりも遥かに威力が大きかった。ここから視認出来るレベルの穴が、標的に開いた。


ジュバッ!


 その後、何か……力を維持出来なくなったのか、飛竜が舞い散る花びらの様に……ぱんっ……という音がしたかの様に吹き飛んだ。


 千切れて墜ちていく。


(スゴいな……目……ではないな。そうか。土の魔術で生成したモノを、風の魔術で撃ち出した時点で、風の術ということになるのか? そもそも射撃系魔術の命中性能が高いということか?)


(それよりもさ、今……弾け飛ばなかったか?)


(アレは……まだ例が少なくて情報が足りないが、風の魔術でコーディングされた「石棘」によって、魔力が飽和して……ほとんど風の魔術で構成されている飛竜の肉体が破裂したんじゃないかと思う)


 そんな事があるのか……。


(ドラゴンの肉体も維持するのに魔力が使われていたハズだ。飛んでいる時に撃ち落とせば同じ様になる可能性が高いし、地上にいたとしても、死亡後、しばらくすると崩れてしまう可能性が高いな。そうでは無かったか?)


(う、うん……うーん? ごめん、覚えてないや)


 ドラゴンは……ほとんど、分割して収納……している。というか、魔物は倒すとドロップアイテムを残してその死骸は消える。


(そう言われてみれば……死骸が残るのは魔物では無く動物なんだったか。そのシステムも良く判らないが)


 まあ、ドラゴンは巨大生物、怪獣に近いもんな。アレだけ大きな……生物として重力に逆らっている体躯だからなぁ。こちらが思っているよりも、魔力頼りというか、張り詰めてるのかもなぁ。


(アレ? そういえば、蝙蝠型の魔物。昨日の夜、俺らが仕留めたヤツ。死骸、墜ちてたって言ってたよな? それを確認したって)


(言ってたな……)


(どういうことだ?)


(どういうことか?)


 失念していた。見たことの無い魔物と戦う前に……その姿を観察し、対策を立て、その後攻撃(魔術で)して仕留める……という基本的な戦い方は身に付いていたのだが、それが何故そうなったのかを忘れていた。

 魔物は、初見殺しの意表を突いた攻撃をしてくる場合が多い上に、討伐した後にその姿や武器(牙や角を含む)を確認しながらの考察が出来ないからだった。


 ということは、つまり、騎乗用として使役されている飛竜は魔物ではなく動物ってことなんだろうか? 


(アレだけ魔力を駆使していて……そんなことが有り得ると?)


 ありえ……よく判らないな。魔物使い、テイマー的な天職って竜騎士以外に聞いたこと無いし。


(それよりも……西の敵地上部隊……の方にも四匹の飛竜が出現したな。さらに大きな魔力反応も確認。帝国側は騎士団毎に行動しているのか、大きな被害は避けている模様)


(そか。まあ、とりあえず……アイツらさっさと潰すか)


(了解……ん? 飛竜の上方に魔力による盾が出現。根本は違うが「風盾」に近い魔力構成だ)


(おう。速いな。対策が)


 でも。


ズジュオッ!


 何かが唸る音と共に……「石棘」が撃ち出される。「風盾」か……まあ、うん……それじゃ無理だ。放たれた矢から身を守るための強度じゃ……。


 音は聞こえないが……ボッ……という感じで飛竜の胴体、ほぼ中央に大きな穴が開き……標的が二つに分かれる。


(あ。今度は弾け飛ぶように千切れなかった……)


(そうだな。墜ちていくな)


 まあ、良く判らないから、全部撃墜だな。


 凄まじい連続音。発射時の音が妙に耳に残る。ああ、ここは遥か上空、天空の地。魔術によって風は相殺されている効果なのか、その音も聞こえなくなっている。 


 つまりは、静寂。地上の音が……もの凄く小さな音になる。貫かれ、穴が開き、身体を分割された飛竜はそれなりに大きな音を立てて地に墜ちていった。

 

 三体ほど、最初の飛竜と同じ様に粉々に千切れてしまったが、それ以外は尽く、地に墜ちた。途中で気がついて、穴を空ける場所を変えていったので、部位を集めれば、それなりに生体構造等の研究も可能なハズだ。


 魔物の研究は後回しだ。


 上空をそのまま……西へ移動する。


 既に、各所で戦闘は開始されているが……確かに。さっきのと同じ飛竜が縦横無尽に飛び回っている様に見える。


 その下に……中央に横長に魔族の軍。幾つかの部隊が各騎士団に取りかかっている感じだろうか?


 再度。「石棘」を落とす。あ。いや、投げつける。既に俺が最後まで見届けなくても大丈夫な感じだし……。何かイレギュラーな展開があっても、ショゴスが微調整してくれている。


(足跡かと思ってたよ……)


(ああ、確かに。魔族は魔力が多いから……と考えていた。そういうことか)


 魔力隠蔽の魔道具によって、その魔力を隠しつつ砂漠を横断してきた魔族の軍だが)


(シファーラ魔導合衆国、リエタ連邦軍)


(うん、それがなんでこんなに早く、砂漠を横断できたのか……だが)


 道が出来ていた。砂漠の……魔族が通過してきたその大地に、道が生成されているのだ。


(彼らは……道を作りながら侵攻してきたのか。そりゃ移動が早いハズだ)


(しかもこの道……魔術で生み出されたにも関わらず、ほとんど魔力を感じられない……足跡だとばかり思っていた)


 そう言えば、西へ向かったとき、なんとなく砂漠に跡がついてるな……と思ったんだよなぁ。砂嵐とか天候不順がなければ、痕跡が残りやすいって聞いたことがあったから、それが当然なのか……と思ってたな。


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