490:穴開け

 そして。現在、俺は……多分高度的に二千メートル付近で「立って」いる。魔術で「風盾」を足裏に生成し……その上に立っている。


「風盾」は魔力を使って任意の場所に風属性の盾を生み出す術なのだが……中空に固定させるには、それ相応の魔力を消費する。これ、普通に「盾」として使用している時には気付かなかったのだが、足場として使用する際には、微妙に不安定なのだ。

 簡単に言えば、こうして上に載っていると、いつの間にか下へ……落ちていく。重力に負ける。

 それを落ちない様にするには……魔力を消費して維持すればいいのだが、これだと魔力消費が激しい。


 なので、優秀なショゴスさんは魔力消費量を低下させるため、非常に微弱な「風槌」を発生させて、下から突上げるというやり方を生み出している。これだと「風盾」の位置固定の魔力消費の百分の一以下の魔力で済むらしい。なんという省エネ。


 と、まあ。現存する俺の使える魔術を高度な技術で再構築させて混ぜ合わせることで、こうして高高度から下を見下ろしているワケだ。


 ちなみに。空を飛ぶ場合、魔術を駆使して……俺への「空気による障害」を排除している。生身のままマッハを越えるのだ。でなければ、耐圧服どころかヘルメットすら被っていないのだから、風圧や加速に伴うGに耐えられるハズが無い。


 つまり。通常の飛行機やロケットが「空気を斬り裂いて」空へ飛び立つのと真逆。俺は風の魔術によって、大気と同化することで空を飛び、そのスピードを生み出している。同時に自重に纏わり付くGも処理されている様だ。


 だからこそ、ほんの少し、「風盾」などで空気抵抗を生み出してやるだけで、急旋回、急降下、急上昇なんていう芸当も可能だ。戦車などでよくある超信地旋回の比ではない急制動だ。生身ならその捻りが激しくて雑巾のように引き絞られてぶち切れちゃう気がする。


 イメージ最強。イメージ万歳。

 

 なので。音速の壁を破ることで発生する衝撃破、ソニックブームは発生しない。超低空で空を飛ぶ飛行機によって海が割れる映像を見たことがあったので、上手く使えれば、地上の軍隊を吹き飛ばせる……なんて思ったのだが、まあ、甘かった。


 だってそもそも、揚力とか空気抵抗が飛行に関する重要な要素になっていないからね。ですよね。


 飛竜とかドラゴンとか……明らかに航空力学に反した型のままで飛ぶわけですもんね。アレ、もの凄く理不尽ですもんね。俺のはちゃんと反作用による推力を生じさせることで衝撃エネルギーを生み出してるけど、ヤツラ、そういうの関係なさそうだし。まるで翼で飛んでいるかのような「ふり」をしてるし。


 えっとでも……三日は大丈夫って言ってた「結界」……もう、破れちゃいそう?


(ああ。騎士団は既に要塞の……ここから西で分散包囲陣系を取りつつあるな。正面からぶつからないのは……複数人が協力して放つ魔術の餌食になるからか)


(で、人が少なくなった要塞を飛竜部隊に狙われた……と。アレだ、宰相、背後から襲いかかって欲しいとか言ってたけど、自分がやられてるのか)


(そうなるな)


(高射砲くらい用意して無かったのかな? あ!)


 一条の光! 地上から発せられた緑の光が、飛竜を貫いた。


(す、すげぇ、マジで高射砲みたいのあった……)


(あったな。いまの光は明らかに魔力で構成された弾丸を撃ち出した様だ。風属性だな)


(「風刃」の凄い版ってこと? やばいな。当たらない位置に移動するか)


(……射程は届いて1,500メートル程度だな)


(え? そうなの? 高射砲としてはちょっと……性能良くない感じ? あれ? 高射砲の射程というか、射程高度? ってもっと高く無かったっけ? 良く判らないな)


(……確か……高性能の自走砲は、30,000メートルくらいだったか。高度がどこまで届くとかは知らないな。世界の兵器って本で読んだ)


(万里ちゃん、いろんな本読まされてるな)


(というか、今の一発で……砲台付近の魔力がぐちゃぐちゃになっているので……打ち止めだ)


(アレか? 開発途中で出してきたって感じか)


(でなければ、宰相がサノブに頭を下げないんじゃないか?)


(そっかー。でも、ああいう戦力的な部分を教えてもらえば良かったな)


(うん。なんで聞かないのかと思っていた)


 ショゴスさんは手厳しいね……。俺にも。


(まあ、爆撃とドラゴンブレス系の攻撃で、「結界」の魔道具が限界寸前ってとこだな。……まずは、仕留めるか)


 そこそこ大きな……普段あまり使わないサイズの「石棘」を生成する。結構重いから……これ、ここから落とすだけでダメージ与えられそう。だけど。


(当たる?)


(魔術による誘導、さらに後押ししなければ当たらないし……その制御にかなりのリソースを消費する。こちらの所在が知られると思うが)


(こっちに向かってきてくれる方が楽で良いな)


(それもそうか)


 落とした。


 というか、勢いよく……下で旋回している一匹を狙って投げつけた。戦場を俯瞰から眺めている感じの四匹……のうちの一番派手な装飾の隊長っぽい飛竜に迫る。


 投げつけた時点で……既にその速度は異常な加速を行っている。多分、俺のイメージとしてはレールガンの出力風景な気がする。あの武器、アニメで流行ったからなぁ……。雷の術が使えるわけじゃないから、あのシステムを模倣出来ているわけじゃないんだけどさ。


ボッ!


 と、消失した。飛竜とその背中の鞍、そこに乗る人影が○の形で切り抜かれた。


(うお。穴開いた! でかっ!)


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