488:青い空へ

「では……契約に基づき、魔族との戦闘を開始しますが……自分は勝手に動かさせていただきます」


「ええ。そうして下さい。出来れば側面……いえ、背後から仕掛けていただけると。我々は……予定通り、正面から撃って出ますので」


 それはまあ、うん。状況次第だよねぇ。


「補給など……必要なモノは?」


「何かあったら、ここへ戻りますよ。融通して欲しいモノがあればその際にお願いします」


 陛下も頷いた。


 空は快晴……朝にも関わらず、爽快感はそこまででは無い。じんわりと……張り付くような生ぬるさ。これが、砂漠に近付けば近付く程、熱さが増していくらしい。


(うきうきしている)


(ああ、そうだな~もう既に面倒だなと思ってたんだけどさ。古代遺跡から発見された、まだ未確認の魔道具ってさ。もうさ、ロマンしかなくない?)


(そうだろうか……自分は空を飛ぶ方がスゴイと思うのだが)


(あ! 忘れてた。そうか。昼間に跳ぼうって思ってたんだった。ショゴスが憧れてる空へ)


(憧れてる……憧れているということなのか。そうか)


(スゴイ興奮してたじゃん)


(ああ、そうだ……そうだな。私は……万里に寄生させてもらって世界が広がった……のだが。それ以前は……何年何十年、いや、何百年だったかもしれない。ずっと……空を見ていた。ずっと空を見ていたんだ。何もせず、何も考えず、ただ見ていた。青い空を……白い雲を雨の空を雪の空を……ずっと見ていたんだ)


(そっか……)


 永遠の……青……見上げている……青が……伝わってくる。そうか。ずっとか……。何百年……だったのだろうか? 千年単位の様にも感じられた。


 そりゃ、万里さんの為に命を捨てる……か。

 

 ショゴスの孤独というか……なんていうか。うん。彼が何かと命を削ってしまうことの根本の理由が少し理解出来たかもしれない。


(よし。跳ぶか。いや、飛ぶか!)


(おう!)


 各種、強化や他の術の調節は、ショゴス……任せだ。まだ、俺自身で瞬時に細かい操作は難しい。


ドンッ!


 周囲に誰も居ないことを確認して、自らの足で跳ぶ。明るい場所で跳ぶ……というのはこういうことなのか。自分の身体が横に回転しないように……ドリルの様に回転しないように空気の流れを調節しながら、体勢も整える。


「お、おお……」


 これはスゴイ……。


(す、すごいな! すごい! これが……これが空か! 空!)


 空気が激しく流れて行く。それを斬り裂くように……風の術を使用して上手いこと……アニメか漫画で空を飛んでいたヒーローの様に空が流れる。


 手を前に伸ばす……余裕はないな。飛行機の様に広げる余裕もない。なんていうか、自らが弾丸のようになってすっ飛んで行っている。


(よし、さらに上へ!)


 推力が弱まって来た所で、再度、【風槌】【風盾】の反比例で強引に上へ上がる。既に雲は越えた。これは……上空……何メートル、何キロメートルなんだろうか。


(前にも言った気がするが……雨を降らすような層積雲、乱層雲の多くは、大体、二キロくらいから七キロメートルくらい上空だな。嵐などの積乱雲は十三キロまである。一番高度の高い雲は……確か巻雲で、それも十三キロ……つまり、雲は高度十三キロ程度まで存在している)


 大気圏……って百キロメートルくらいだっけ? で、飛行機の高度が10キロちょい上と。


(高度は大体だが……判るぞ? 魔力の反射などを計算して。夜に、敵の高度を測って伝えたことがあったと思うんだが)


 あ。そういえば……。


(敵の飛行部隊の高度は大体、八百~千メートル付近って言ってたっけか)


(ああ)


 暗いのでいまいち把握出来てなかったし、気にしてなかったけど……。


(そういえば、魔族の軍は……空軍……は来ないのかな? 竜騎士っているって言ってたよな? 昼間なら飛んでくるんだと思うんだが)


(そうだな……我々以外、空……を飛ぶ大型の魔物は感知できないな)


 鷲とかが普通に高度千メートル……一キロ程度だっけかな? ドラゴンとか飛竜も、昨日の夜の蝙蝠系の魔物と同じ様な感じなんだろうか。


(現在高度は?)


(約……二千メートルちょい)


(いい眺めだな……)


(ああ……でも私は、さらに上の方……の眺めの方が好きだ)


 さらに青が広がっている。今日はイイ感じに晴れている。確かに上空はスゴく綺麗だ。って、上はショゴスに任せよう。


 俺は……下だ。要塞とその周辺に……人の姿がかろうじてごま粒のように見えている。あの集団……一塊が一つの騎士団か。


(えっと……横とか裏を叩いて欲しいって言ってたっけ?)


(言ってた)


(なら……とにかく西へ飛んでみるか)


(おう! そうしよう! 今なら約一時間は飛べるぞ!)


 あれ? 飛行可能時間延びてない?


(工夫した! もの凄く効率化できた!)


 これ……とにかく長く空を飛びたかっただけじゃないだろうか……まあ、いいけれど。


(ショゴス、これ、時速……は?)


(……現在高度は約五千メートル……既にここで、2000㎞/h以上出てるな……マッハ2だな)


 マッハ! マッハかーー! 音速なのかー。って高高度じゃないとダメなんじゃないの?


(強引に。振り切ってる)


 ぇー……とはいえ。まあ、こうして飛んじゃってる時点で、航空機と同じか、それ以上の速度になるよな。物理的に。


(戦闘機がマッハ3って聞いたことがあるから……マッハ4目指そう!)


 いやいや、あの……ショゴスさん?


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