486:魅力的

「さらに……様々な判断が……早すぎます。ノラム殿は……傭兵、雇われた護衛……とのことでしたが、それにしては、重要な案件に対しての判断が早すぎます。何らかの形で雇い主に意見を問おうという素振りさえ見せないですし。最初は、全権委任されているのかと思っていたのですが……私からの依頼は……さすがに大事ではないでしょうか? 帝国宰相との契約、約束です。魔族という強敵を前に、我が帝国の最大戦力をもってしても助からぬ……と言っている私の戯言を、そのまま受け取って、最前線へ即移動して来たのですから」


 宰相の説明は相変わらず長いな。


「そこに……二者間での意思疎通の時間が介在したとは思えません。判断が……早すぎるのです。これを単純に解決するのであれば。ノラム殿はサノブ殿であるという事実だけです」


 うん、まあねぇ……コイツならそれくらい気付くのは当然か。


「まあ、一番は……先ほどの兄上に対する無礼な物言いです。さすがにあれは……一介の傭兵、雇われている者の言葉には聞こえませんでした。そもそも、帝国皇帝に対して……威圧することが出来る者がどれだけいるのか……」


 まあ、そりゃそうか。ちょっと調子に乗りすぎたな~。感情のままに行動しすぎた。


(そうそう)


「お見事。さすが「腹黒」宰相。俺がカンパルラのサノブだ。皇帝陛下の御前だということは判っているが……別に帝国民でもなんでもない。さらに言えば、敵対勢力の者として、素で話させてもらう」


「ああ、構わない」


 さすが皇帝陛下。


「というか、既に宰相閣下もここに到着してるわけで。契約はここで終了、俺もある程度情報が手に入った。ということで帰っていい?」


 ニヤリと笑う。


「……」


(意地が悪いな……。それにしても。助けてはやらぬのか?)


(そもそも、最初の依頼……まあ、頼みは聞いたからな。皇帝の脱出は叶ってないが、夜襲を退けたのでチャラだろ?)


「錬金術の極み……私が発見した古代遺跡の中でも、未だ解明出来ていない宝物殿の魔道具を……最初の依頼で一つ。そして。今からの依頼でもう一つ……でどうでしょう?」


ピクッ!


 と。くぅうううう! さ、さすが……。さすが、「腹黒」。そこは……。


(本当にスゴいな……。サノブが求めるかもしれない、ほぼ唯一の望みを提示するなんて)


「……いや、さすがとしか言いようがないな……。宰相閣下はなぜ、それが魅力的な提案だと?」


「カンパルラのサノブ殿……その正体は……行商人なのか、傭兵なのか、未だ謎のままですが……少なくとも判っていることがあります。カンパルラからもたらされたという特製ポーション。そのポーションを飲んだ時の魔力……非常に微々たるものですが……が、同質であると感じました」


 な、なんだってーーー! ポーション何本提供したと思ってんだよ……。あれ、全部俺の正体バレの危険性があるってこと?


(サノブの魔力は異質だからな……)


 え? そうなの? ショゴス、知ってた?


(まあ、知っていたが……それに気付ける者がいるとは思わなかった。正直、とんでもなく微量だぞ? それを記憶しているとは……この宰相、錬金術士、魔道具に関してが一番能力があるということか?)


 なにそれ、マジ才能の固まりすぎて怖い。チート過ぎんだろ。俺なんて女神が着いててこれなのに。まあ、女神ずっと寝てるけど。


「あの特製ポーションは……幼い頃から通常のポーションで苦しんでいた私にとって革命的でした。当然……錬金術士として、同じ物が作れないかと研究しましたが……元々、私にはポーション作成に関する才能が無いので、どうにもなりませんでした。が……。かすかに残されていた、原点となる魔力の解析、そして記憶は違えません」


 ……マジか。同じ錬金術士でも作成出来る魔道具の幅が違うってことなのか? あ。そういえば、魔術士の属性……。俺って全属性だけど、エルフや奴隷から見つけた人は大抵が単属性なわけで。


(まあでも、人間の出来る事は大抵限られているからな。錬金術士:薬、と、錬金術士:物とかに別れててもおかしくない。ここまでなんでもイロイロと出来る、サノブがおかしい)


 なんだよ、「:物」って。


 それにしても……ポーションは錬金術士の基礎……じゃないのかよ。転職して最初に提示されたから……俺がそう思っただけ……か。あ、そうか。クルセルさんに聞かされた皇帝と宰相兄弟の英雄譚の様な過去の話……アレで、宰相自身が最初にやったのは「裁きの水晶」の修復って言ってたか。

 

 つまり、錬金術士として生まれついた彼の中に、ポーションのレシピは無かった……ということになる。


【錬金術・壱】ってレシピ、ポーションだけだったよな。するっていうとなにかい? 天職が錬金術士は錬金術士でも、錬金術士:物だった場合、最初は魔道具の修復「のみ」で【錬金術・弐】までレベルアップしないといけないってことか。


 そりゃ……魔道具の修復を繰り返せる環境なんて考えられないし、錬金術士がいなくなるのも当然だし、薬師なんていう天職でもなんでもない職業がまかり通るわけだわ……。


「ふう……確かに。その提案は魅力的だ。貴方方……帝国に力を貸すに値する……かもしれない。……条件を追加したい」


「はい」


「成功報酬を要求する。つまり、依頼を受けるまでで二つ。でだ。今、迫っている魔族の軍を追い返す事に貢献したら。宝物をもうひとつ追加、だ」


「了解しました。それでお願いします。兄上、それでよろしいですね?」


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