485:忘れてたね?
「そして。その蝙蝠みたいな空の敵は。倒しましたよ? 普通に。ええぇ! 帝国の魔術士には撃ち落とせないと。そういうことでしょうか?」
二人の顔がハッとなる。
まあね。自分たちが何を聞こうとしていたのか、気付いてなかった、忘れてたな。これは。
「そもそも。私は……帝国の……いや、蒼の宰相殿の謀略によって、様々な策略を仕掛けられていた側の国の人間なのですから。私が帝国皇帝閣下の偉大なる御力にひれ伏した新たな臣下だとでも思われましたか? どのような思惑があったとしても……数多くの子供が、宰相の策、お前の指示で死んだぞ?」
「な、何を……」
ああ。こういう風に……追い詰められたりしたことがないのだな。彼は。
「思い上がるなよ? 小僧」
「く。そ、それは……いや……」
気力と魔力……両方による威圧……になる様に力を二人にぶつける。
これだけで動きが鈍ったり、気圧されたりするはずなんだけど、バディアルさんが臨戦態勢で俺と皇帝の間に遮るように移動する。さすが。速いね。
「騎士が。貴族が、諸侯が、王が、皇帝が……どれだけ戦おうと、どれだけ死のうとそれは構わん。大義の為に様々な理不尽に耐えることも必要だろう。だが。まだ自らが、自らの意志で立てる前の者達をその、道連れにすることすら苛立つというのに、策の対象にするなど人に非ず。と、宰相。責任者が揃った所で言おうと思っていたんだ」
「やはり……お気付きでしたか……」
陛下が出現したのと同じ隠し扉が開いて……中から宰相が現れた。まあ、うん。魔力を隠蔽する……魔道具かな。多分。魔族が使用しているのと同じ様な物だろう。
(若干漏れてる……というか、帝国製は性能が悪いのか、うっすらと感知出来る)
ショゴスさんが気付いたんだけどな。隣の隠し部屋に宰相が居るって。
「ラハル! 後退せよと命じたはずだぞ!」
「陛下……いや、兄上、何度も言ったではありませんか。無理なのです。ここで止めなければ……魔族によって我々は支配されることになりましょう」
「それにしても……なぜ……転移魔術円陣は使えないはずでは?」
バディアルさんも皇帝も、結構マジでビックリしている。
「実は、クルセル姉……いや、クルセルが、遺跡で……専用魔石を一つ……入手して……持っていたのです」
「なんだと!」
「そんな、アイツは……そんな……」
「転移魔術円陣の発見されたホゾラ遺跡の探索時ではなく、それ以前に行われたクロエサ遺跡の探索の際に見つけたそうです。上位魔石ですからね。濃い虹色に揺らめく様が綺麗だったのだそうです。それで保存していた様なのですが……今回、初めて上位魔石が実働するのを見た時、自分の宝物と一緒だったのでビックリしたそうです。今回……先ほど、やっと、私の体調が落ち着いたのを確認した所で手渡されました……」
「それなら……まあ……」
お。威圧が解けてる。クルセルさんは結構どころか、かなりの実力者なんだよなぁ。こういう話題で意識を移させるなんていうのも容易にやってきそうだ。
って、まあ、うん。なんていうか……軽口やギャグ、ダジャレで場を和ますっていうのは……緊迫した状況を弛緩させる大きな力だよね。
そして。宰相は俺に向かって顔を向ける。
「確かに……少々急ぎすぎたようです。それしかないと思っていたのですが……。結果として私の選んだ策は下策でありました。申し訳ありません」
「俺に謝られてもね。ただ。人の意志っていうのは……そういう卑劣な策を使用した者に対して、反発するものだよ」
「判りました。以後……この様な事は無きようにいたします」
宰相がその頭を下げた。
「ああ、それでいい。俺の怒りは所詮、義憤だからな。身内がやられていたら……既にお前達は全員……いや、帝国の中枢を全部粉々に砕いていたかもしれない」
……宰相に合わせて……皇帝陛下も頭を下げた。バディアルさんも続いた。帝国幹部の謝罪。あまり、それはしちゃダメなんだろうけど。この部屋には俺と三人だけだ。
「良いですよ。で? どうしますか? 皇帝陛下……そして宰相閣下。出陣は……出来るのでしょう?」
「そ、それは当然だ。ノラムに言われた通り、出陣の準備を進めていたからな」
「まずはその前に……ノラム殿……いえ、サノブ殿でしょうか? さすがにそろそろ、本性くらいは明かしていただいても」
「何故? 我が主人の名を?」
「貴方に仕掛けた……ハンダルとエタラ……まあ、十本の中でも一番若い二人故に……ノラム殿に仕掛けるなどという無謀な行動に出たわけですが。単純な仕事に関して言えば、信頼できる者であるのは間違い無いのです。今回の勇み足、独断での愚行に対する償いとして、部下達と共に必死で働いてくれました。サノブ殿の足跡調査……です」
ああ、そうか。まあ、そうするわな
「ノラム殿……に対して借りが出来る以上……その主人に対して何らかの動きを示す必要があると思い、せめてその足跡、居場所だけでもたぐれないかと命じたのですが……彼らのからの報告は「一切の痕跡無し」でした」
アレだ、力がないのであれば……確保して取引材料にでも出来ないか……なんていう思惑もあっただろう。多分。
「正直、いくら……いくら、魔術に長けていても。優れた商人だとしても。錬金術士だとしても……あり得ないのですよ。我が部下である緋の月の諜報網から、完全に逃れる……というのは」
(確かに……何もしなさ過ぎたな。もう少し、大雑把に、わざと、足跡を残すべきだった)
そういうモノかな。
(そういうモノだ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます