482:夜を駆ける
(なんか悔しいな)
(要塞の【結界】内へ降りてきた途中を狙えば、カウンターでいけると思うんだが)
(ああ。そうなんだよ。そうなんだけどさ。なんか悔しくね?)
(悔しくない)
まあ、そうですよね。
身体強化……を意識する。体内の魔力によるこの強化は……魔術士ではない天職でも強度の差はあれ、展開可能だ。これはもう、自然に出来る様になっている。
俺が尋常じゃない脚力で走れるのは、これが主な理由だ。
それをさらに意識する。
うん。これまで以上に……自分の基礎能力が上昇している。
よいしょ……。
グバッツツツ!
派手な音がして、屈んだ膝から足へ伝わった大きな力が荒野の固い地面を打ち付ける。一瞬でクレーターの様な……窪みが出来た様だ。
そして、自分の身体は……といえば。
風の魔術で風圧をコントロールし……さらに、後追いで【風槌】で後ろから自分を押す。まあ、疾走している際にやっている作業を……方向を変えて放つだけだ。
(お、お、いあ、おお)
(コントロールがもの凄く難しいな……ジャイロの重要性ってこういうところで判るんだな……ってそもそも、航空力学的ななんちゃらが合っているとは思えないけど)
(と、とんでる……)
おう。ショゴスがなんか、不抜けて……いや、感動してるのか? これ。
(そ、そのようだ。深夜だから暗くてほとんど見えない……が。これ、昼間なら……)
(あ。ああ。爽快……かもしれんな)
(村野! 村野! 跳びたい! 昼間に跳びたい! スゴイスゴイスゴイ! そうか、そうか! 村野くらいの力があれば! 飛べるのか! そうか! あの空へ! 跳べるのか!)
ど、どうした? ショゴス……って、まあ、いい。今はちょっとその、素敵な感動秘話にかまけている時間が無い。
(ショゴス、なんでお前がそんなに興奮しているのかもの凄く興味があるが、今は……)
(あ、ああ……ああ。うん、ごめん。これ、魔力のコントロールがもの凄く難しいんだな……うん。ああ、判った。身体強化のバランスと……【風刃】【風盾】【風槌】の三つの術のコントロールも把握した。後はノラムの操縦次第だな)
(お、おう。相変わらず、反応、対応が早いな……)
というか、村野がノラムに変わった時点で落ち着いたってことか。
地面に足を着ける前に……【風槌】を逆に発動させることで反発させて、ショックを弱める。
(着陸の……【風槌】の出力のコントロールも……かなり面倒ではあるな。というか、瞬発的な衝撃力ではなくて、継続的な潮汐力の様な……うん。行けると思う)
……潮汐力って……海の、潮のみちひけを起因させる引力だったか? 月の引力? いや、月が発生させる引力? そんな? っていうか、どういう法則、方程式を駆使してるんだよ。
まあ、うん、全部任せちゃうのはショゴスがいない時に困るかもしれないから、何回か繰り返して身体で覚え込もうっと。
出来るんだよ。うん、俺も。出来ない子ではないんだよ? でも、たった一回の試行で、完パケが出力されてくる様な、完全記憶的な能力はないって事なだけなんだよ? 本当だよ?
着地は……比較的大人しくいける様だ。というか、ショックアブソーバー的に【風槌】を使用しなければ、大地と俺自身の身体の双方にかなりのダメージがあったハズだ。
それを身体強化でフォローするよりも、外側の力で何とかした方が、確かに負担が少ない。多分。いや、細かく計算したわけじゃないから判らないけど、うん。きっと。ショゴスがそれを駆使した……ということは、計算の結果、こっちの方が効率が良いと判断したんだろう。
(身体強化で解決しようとすると、外部出力系の魔術の使用の数十倍負担がかかる。但し、これは様々な状況や、自身の行動によって変化するが)
(うーんと。着地時の衝撃吸収に関しては……【風槌】を使用した方が、魔力負担量が少ない、効率が良いでファイナルアンサー?)
(それは間違い無い)
よし。再度。両脚に力を込める。そして。屈身。下方に向けて解き放つ。
グバッ!
さっきよりも……コンパクトに、さらに鋭く力を伝えることが出来た。大きな音と共にさっきよりも小さいクレーターが発生した。結構変化あるな……。
闇夜を跳ぶ。
この状態で……さらに……【風盾】を生み出した部分に【風槌】で自分の身体を打ち上げ……る。
(ああ! あああ! それそれ! スゴイ! 村野すごい! そうか、そうかぁ!)
うん、思った通り。【風盾】は俺に対するダメージを防ぐと共に……上手いこと面への圧力を与えれば、俺自身の重量を動かすくらいの力は簡単に発生させる事ができる。
ここで大切なのは、俺はこの【風槌】によって、後押しされて「空を駆ける」というイメージを浮かべていることなんじゃないかと思う。魔力による能力強化の効果が、【風槌】の威力から身を守る……だとその力に対する反発になってしまうのだ。
ある程度維持することも可能……だ。そこまで極端に魔力を消費している感覚も……無い。翼が無いから揚力を利用した流体力学は通用しないが、水平飛行に近い状態を魔力で維持することが出来ている。
「(飛べるな! これは!)」
(ああ! 飛べる! 跳べるではなくて、飛べる!)
ショゴスが力強く答えてくれた。
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