481:降下

「さて。陛下。このまま……ここで戦うおつもりですか?」


「……それはどういう意味だ?」


 陛下の表情が曇る。


「そのままの意味です。宰相閣下からの御依頼は、とにかく陛下をお守りすること。なんとしても……生かして帝都まで連れ帰ることでございますから」


「ラハルめ。まだ覚悟ができぬか。すまんがノラム。私はこの地で……我の率いる者達とこの帝国を守るつもりだ。正直、もしも私が負ければ……その後の帝国はいくらラハルでも、国を維持していくのはむずかしいかもしれぬ。なので、さっさと逃げて、どこかの山中ででも、隠棲しろと……あ。いや。そういえば。クルセルは何も言ってなかったか?」


「クルセル様です……か? いえ?」


「そうか。カンパルラに逃げこめと言っておいたのだが」


「くく。それは無茶な……」


「無茶でもあるまい? 行商人のサノブと言ったか? お主の主人は。かの者は特別……なのであろう?」


「特別……とは?」


「ああ、帝国の秘史にな……記されているのだ。歴史の節々には特別な者が現れる……と」


「歴代の皇帝陛下の中には……その、特別な方もいたと」


「強いとか、ですか?」


「ああ、何かしら、「おかしい」らしい。とにかく強いでも、とにかく賢いでもなく……とにかく「おかしい」規格外なんだそうだ」


「具体的にいえば、20代前のヤシバ帝は帝国内の街道整備を普請されました。しかも今から考えてもあり得ないくらい、大規模に」


 ああ、確かに、街道はもの凄く整備されてたし、判りやすかったな。ドライブインならぬ、厩舎も定期的に設置されて……ってアレは、SAとかPAなのか! そういうことか……。


(ん?)


(いや、昔の皇帝が向こうの世界からやって来た可能性があるって話)


「そういう特別な者によって、帝国は生かされてきたのだ。ならば、今回がそれにあたってもおかしくなかろう?」


「うーん。まあ、確かにそうなのかもしれませんが……とりあえず、判りやすく、押し返しましょうか」


「うん? どういう意味だ? ノラムよ」


「言葉通りに。とりあえず、帝国騎士団は……明日朝には出陣可能でしょうか?」


「……その予定で動いていたのだが……な。こうも夜襲を受けては……既に各騎士団が個別に動き出す準備を始めているとは思うが……」


「では、明日、予定通りに出陣する様に準備をお進め下さい。今、羽虫の様に纏わり付いているヤツラは……。私が始末して参りましょう」


「……」


「なっ……」


「では」


 面倒なので、そのまま……ドアを開け……その向こうの窓を開けて、そこから駆け出す。身体強化は話をしている途中で施しておいた。あっという間に、要塞を抜ける。


(地上からの攻撃は三部隊……だな。厄介なのは上空で展開している飛行部隊か)


(ありがとう。んーとりあえず、一番近いところから潰していくか)


(ヤツラ……舐めてる。多分。一番近いのは東だが……すぐそこ。既に射程範囲だと思う)


(あ。本当だ。「気配」で察知しないとだから結構面倒だが……こんな近くに? 舐め腐ってる)


 問答無用で【風刃】を放つ。魔力を隠蔽し、砂漠というか、荒野っぽい荒れた大地。遮蔽物はそれほど存在しない。カモフラージュしているのかもしれないが……。


(二人)


 うん。いきなりの首切りだ。ビビったのか、反対側、逆側に……気配が移動する。


「爆裂」「火球」×三連。


ドガガガガガ!


 大地を削るような爆発と共に、爆炎が立ち上る!


(九名。全滅)


(次……西が一番近い?)


(そうだな……西……いや、南も届かないか?)


「爆裂」「火球」×十連。


(あ。多すぎたか?)


グバババババババババババッバババドガーン!


 凄まじい震動と共に……地形が変わった。射程範囲のギリギリにいた十五名程度の尖兵は……。


(全滅……だが、少々やり過ぎたぞ? 西が逃げ始めた)


 ちっ。それは面倒だ。


 回り込むように走る。


(ああ、捉えた。荒野っていうのはイロイロと破壊しても良い場所と認識すればいいのか?)


(うーん。まあ、森よりもいいんじゃないかな? 多分)


 吹き飛ばす。


「爆裂」「火球」×五連。


ドガガガガ!


 問題無く発動した。【気配】は?


(消失。大地と共に粉々になった様だ)


 でと。最大の課題は……空をグルグルしてるアレか。


(……要塞に再度攻撃を仕掛けようとしているな)


(貫く……か。届くかな?)


「石棘」を……飛ばす。それは、さすがに厳しいか。


(対象は……約八百~千メートル付近を飛翔中)


 その高度から爆弾……焼夷弾とか火炎瓶? の様なモノを落とすのか?


(お。降下……してきたな)


 ああ、本当だ。やはり……魔力を頼りに……多分、要塞を判別している感じだろう。


(先ほど炎上した時の炎の広がり方を見た感じ……要塞の「結界」の魔道具は上空二十メートル付近に形成されている気がする)


(……もしかして、その下……「結界」の内側に攻撃を放とうとしているとか? か?)


 いくら急降下するとしても……そんなムチャクチャな挙動が……。


(飛行機ではないだろう。多分、魔物だ。飛行には魔力を使用している。それは明らかだ。無茶な挙動も可能なのではないか?)


 確かに。高度を下げつつあるのでハッキリと判ってきたが、操縦者か、御者か判らないが、魔物に乗っている者の魔力は感じない。


 が……飛翔体、空を飛んでいる何かは大いに魔力を放っている。


 重力とかは……ああ、風の魔術で制御するのかな。俺が走っているときにやっているように。


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