480:夜襲

「しかし、竜騎士と言えば、乗騎している飛竜のブレスと竜騎槍による突撃、奇襲して竜か降り、飛竜と連携しての白兵戦というのが基本戦法となるハズだが」


 ……皇帝スゴイ。というか、帝国スゴイってことか。いや、この兄弟スゴイか。こういう末端の軍事情報とかも把握してると。


 バディアルさんも頷いている。


 帝国には竜騎士に関する情報が……当たり前の様に伝わっているか、残されているってことか。……カンパルラ……リドリスにも無かったなぁ。その手の情報。ローレシアって情弱国だったんだな……。


「すいません。寡聞に……竜騎士についての情報を存じませんので……」


「ああ、言葉使いもあまり気にしてくれるな。最前線で言葉を濁して……貴族特有の湾曲した言い方や、揶揄した言い方で会話していたら、命令が正確に伝わらぬ。さすがに皇宮では慣習に倣う所はあるが。そして、バディアル、竜騎士についての情報は……秘匿情報だったか?」


「いえ。開示、問題ありません。陛下。ですが、確かに……我々がラハル様の命で調べ上げた情報の多くは……帝都大図書館くらいでしか閲覧することができないかと」


「そういえば、モルドレッド以外では成立し得ない天職でもあったな」


「はっ。飛竜の確保が一番困難ですので」


 そうか~っていうか、モルドレッドってどこだ? 国だろうな。多分。


(確かに一度も聞いたことないな……)


「その竜騎士に……油の詰まった樽を上空から落とさせて、落下中で火を付ければあの炎の爆発の完成となります」


「……それは……もの凄く単純だな……それは……」


「まあ、燃えやすい油を用意するとか、落下中にどうやって火を付けるか……なんていう部分で試行錯誤が必要ですが……。遥か上空から攻撃するため、敵を一方的に攻撃出来るのが利点でしょうか」


「うむ。これは……ラハルは気付いているかもしれんが。絡繰り自体はそれほど難しい物では無いな」


(まあ、油とか使わないで……魔力を圧縮して、さらに「爆裂」「火球」でも似たようなモノも作れるとは思うけどな)


(魔力便利だな)


「魔術……「火球」を発動させる魔道具があったな?」


「はっ。ダンジョンや遺跡で発見される、魔石を使用した消耗品にその様なアイテムがあったかと思われます。まあ、正直、使うのが勿体なくて大抵が……競売などで売られることになりますが」


「つまり魔道具の可能性も高いな。うむ。理に適っておるな」


(さすが)


(これまで見てきた貴族が……馬鹿真面目か、頭の悪いヤツばかりだったからなぁ。なんていうか、これが本当の支配者ってことなんだろうな。会話のテンポが宰相ほどじゃないけど、結論までの判断も速い)


 俺も頷くと、満足したような顔を覗かせたが……すぐにそれが引き締まる。


「とはいえ、謎が解けたとて……あの攻撃への対処は……無いのか?」


「結界の魔道具の遥か上……からの攻撃ですので……」


「高さ……距離か」


「……ラハル様であれば……何か隠し玉をお持ちかもしれませんが……残念ながら空の遥か上の敵を撃つ術を……我々は持ちません」


「弓も弩も。魔術もか」


「はっ。さすがに……」


(敵を魔力感知で把握できないのは、迎撃されないためなんだろうか?)


(そうだろうな。帝国側に魔術士がそれなりにいるのはバレてるだろうし……というか)


「陛下。これまでの接敵状況をお教えいただければ……」


「バディアル。包み隠さず教えてやれ。正直、体裁を気にしていられる状況では無い」


 バディアルさんが、テーブルに地図を広げた。


「最果て砂漠で迎え撃てないかと迎撃に出撃。敵と遭遇したため、戦闘が開始されたのですが、魔術による攻撃を防ぎきれず撤退。現在、このバーディフィシン要塞で待機している状況です」


「慣れない砂上戦に足を取られ、魔術を打ち込まれ、良い的であった様だ。魔族共の使う魔術の射程は、我々よりもかなり遠くに届く」


 まあそりゃね……魔族だからね。明らかに魔力が高いし。ああ、そうか。魔力を隠しておかないと……その魔力の高さ故に、簡単に位置を把握されてしまうのか。


(魔族同士の戦争であれば……当然の装備だな)


(そうだな)


ゴガガガガガッ!


「何だ?」


(いつの間に……)


(気力感知で引っかからない様な魔族……少数での奇襲か)


「見て参りますか?」


「いや、ソレには及ばん。報告がくる」


 数瞬後、ドアがノックされ、即開いた。こちらから誰何することなく、従士が入ってきた。


「バディアル様!」


 叫んでから部屋の中にいた陛下の存在に、ばっ……と膝をつき頭を下げる伝令というか、バディアルさんの部下。


「よい。報告を続けよ」


「は、ははぁっ! 要塞側面へ攻撃が加えられました。位置や数は未だ把握出来ておりませんが、敵奇襲部隊が動いている様です」


「判った」


「御苦労。なし崩しで仕掛けてくる可能性もある。将に伝えよ。敵の流れが読め次第、迎撃に出るやもしれぬ。臨戦待機せよ」


「ははっ!」

 

ゴゴゴゴ!


 相変わらず、空からも攻撃を加えられている。


「バディアル殿。その結界の魔道具……魔術を受けすぎると魔石の尽きるのが速くなるのでは?」


「ああ、その通りだ……そうか。敵の狙いは……魔石の消耗か」


「はい。陛下。結界を無効化して一気に叩く作戦かと」



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