479:陛下

「では。三日間は……ここは安全? ということですかね」


「……強力な攻撃を受けた場合……それと共に消費する魔力も多くなるとラハル様が仰っていました。今よりも激しい攻撃を受けた場合、早々に魔道具が作動しなくなる可能性が高いかと」


 まあ、そりゃそうか。


 あ。来たな……。


「魔族の軍は未だ本体が合流出来ていなかった感じでしょうか?」


「その様です。先遣隊として威力偵察が可能な部隊が先行して砂漠を越えたのだと思います。予定よりも遅くなっているのは……何か障害となる何かに遭遇したか」


「ああ、なんでしたっけ、サンドイーターとか?」


「そうですな……グランドドラゴン……はさすがに確認出来ておりませんが」


 お。ちゃんとネタに載ってきたね。やるね。


「敵本体が、先遣隊と合流した様です。距離的に要塞から西……約五十㎞程度……だろうか。明日には攻めてくるでしょうね」


 ちゅーか、俺……気力の感知って……立ち止まって冷静に行えば、これくらいの距離でも出来ちゃうのか。


 なんか忘れてたわ。気力。


 まあ、よく考えなくても命と引換のスゴイ力だもんな。牧野興産の社長は短距離とはいえ瞬間移動してたし。


 念のため、【魔力感知】でも探索してみるが、相変わらず何も感じない。


(【気配】で感じた辺りに、物凄く微弱な魔力反応はあるが。そう指定されないと、自分でも判らないな)


 ショゴスが気づけないなら誰も判らないよ、多分。


「なっ! ソレは……」


 髭親父の顔が明らかに曇る。最新情報だからね……何故ソレが判るっていうのもあるだろうね。


「とりあえず、要塞に「結界」が張られているのは良いとして。敵の強力な魔術攻撃に対する帝国の戦力は? その辺、宰相閣下に確認する前に出てきてしまったのでお教え戴きたい。それこそ、既に全面的な戦闘中であれば、天上様だけでも連れて帰るつもりで急いで来ましたので」


「あ、ああ。それにしても。こうして貴方がここにいるのですから、ラハル様の言葉を信用するしかないのですが……正直信じられません。ノラム様は昨日……には王都に……いたのですよね? それは替え玉か何かなのでしょうか?」


「その辺はお互いに」


 口の前で指を立てる。


「わ、判りました。……目前に攻める魔族の軍は大概に強力無比、ここで自分は力尽きる運命と考えていたですが……今、貴方と対峙して、正直、今、この場が怖い。ノラム様は……いったい……」


(内緒だよな)


(内緒だな)


「……正直、敵の魔術に対する絶対的な対処方法は……見出されていないのです。ラハル様が何としてでも、魔族との開戦を引き延ばそうとした最大の理由です。大規模な魔術攻撃に対する……効率的な戦術を我が帝国は持ち合わせていないのです」


「結界の魔道具を騎士に持たせるとか? 簡易結界の魔道具もあるわけだし」


「簡易結界の魔道具はありますが……正直、魔術による攻撃を二回防げれば良い方です。それでいて、魔石の消費は非常に大きい。正直、戦術に組み入れられるような装備ではなく」


 とにかく魔石……か。そりゃそうだよな……俺、自分のダンジョンで貯蓄したのが大量にあるからなぁ。その辺苦労したこと無かったし。


グバン!


 外で聞いたよりも……小さめだが、また、要塞が攻撃された様だ。


「この攻撃はいつから?」


「一昨日の晩からの様です。敵の魔術による攻撃を……受け続けています」


 あ、あれ? アレを空爆として認識出来てないのか?


「大規模な【魔力感知】を行っているのですが、何一つ感知出来ず。正直お手上げ状態です」


(そうかもしれない)


「えっ……と……まず。魔族の軍は……魔力を隠蔽して作戦行動している様です。そして、ヤツラは空から近付いて、爆破系の魔道具を「落として」いるというか」


「なんと! 伝説の竜騎士の様に空からか! そうか……」


 通されていたのは小さめの応接室だ。壁の小さな……隠し扉が開いた。そしていきなり現れたのは……どう考えても。


「天上様!」


 やっぱり。


「ノラムと言ったな。竜騎士は視界が確保出来ない嵐や闇夜は飛べぬはずだ!」


「はい。なので、アレは竜騎士ではありません。陛下」


 あちゃぁ……という顔で頭を抱えるナイスミドルのバディアルさん。紫と金、そして白のトーガ。最前線の要塞にして、優雅な装いだ。まあ、そりゃいるし……見てるわな。他にやれることも少ないだろうし。


「ハーレイ帝国、第106代天上皇帝リドル・ハーレイ陛下である」


「はっ」


 バディアルさんがそれほど大きな声では無いが、しっかりと名を告げられた。告知官とかそんな役職の人がいるんだよね。確か。


 頭を下げて、座っていたソファから降りて、膝をつく。


「ああ、いい、いい。やめよ。臣下でもないのに。ここは要塞とはいえ、最前線であるぞ。儀礼は大切かも知れぬが、必要に応じてだ。さらに、ここには他に誰もおらんのだからな。サノブとやら。今まで通り座ると良い。そもそも、バディアルがいきなり襲いかかられた困ると言うから隠れたが、覗き見していたのはこちらだからな」


 そう言われて、ゆっくりと、ソファに座り直す。皇帝陛下もバディアルさんとは違うソファに座った。


(……なかなか砕けた皇帝陛下ってことか?)


(そうだな)

 

「それで? アレは竜騎士による攻撃……と同等ということか?」


「そうなります。陛下。まあ、騎士が乗っているのは竜とか飛竜ではなく……夜に特化した魔物だとは思いますが」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る