478:要塞内
(それにしても……気力を扱うのは私には無理なようだ。正直、消耗エネルギーが魔力の百倍以上で、さらに、精密な操作が難しい)
(そうなの?)
ショゴスにも苦手な分野があったか……。
(なので、魔力が追跡出来ない現状だと、何も対応が出来ない)
まあ、これまで見えていたモノが見えなくなると怖いよね。特に敵と対面している場合。
(んーまあ、でも、どうにかなる……けど……。とりあえず、何も言わずに仕掛けちゃうのはヤバいよな)
(ほう、れん、そうだな!)
(う、うん)
なぜ、そんな元気に。
(それにしても、結構……適当に爆撃してるな)
あれから数回、落下音と共に、焼夷弾の様な兵器が投げ落とされた。要塞の……人が密集している所を狙っているわけでも無さそうだ。というか、ある程度適当に落としている?
(火の上がった場所を考えると、確実にランダム、落とせるときに落としているという感じだろうか?)
そうだよな。どう考えても、要塞に落とすのが一番効率が良いというか、第一ターゲットにならないとおかしい。
(って)
(お。言ってる側から、アレは要塞の中央部に当たるぞ?)
落下する焼夷弾は、多分、落とした時点では感知出来ない。が、落下途中、中空に、いきなり魔力を纏って出現する。
闇夜……要塞の上空……数十メートルにいきなり出現する魔力反応。
(あの焼夷弾は、魔道具で、落下中……いや、一定以上の落下速度、加速度を感知すると発火する……システムな様だ)
おおー。スゴいな。いや、そう言われてみればそんな感じの魔力の流れ……うん、まあ、ショゴスは俺の感覚器官から得られる情報を使用して、この手の判断を下している。なので、俺も同等のことは出来るのだ。ただ、気づくまで、判断するまでに、試行錯誤が必要だ。
ショゴスはたった一回で細かい精査が可能だからなぁ……。正直おかしいって。
グバッン!
焼夷弾……が要塞の上空で割れた。ブオッ! と、闇に炎が広がった。
おお! おお! アレは!
(ノラムの【結界】ほどではないが……)
(ああ、多分「結界」の魔道具だな。しかも大規模なヤツだ。魔族対策として最低限の装備は整ってるってことか)
(だから……要塞内へ移動している者が多いのか。退避なのだな)
その様だ。ということは……まあ、とりあえず、今夜一晩くらいは耐えられる、大丈夫だろう。
(んじゃ……天上様に挨拶に行こうか)
タリスマン。護符だ。俺が宰相……まあ、渡してくれたのはクルセルさんだけど。それを……手に持って……。
「何者だ!」
当たり前だ。無防備に。マスクを着けた怪しいヤツが絶賛退避中とはいえ、要塞に集結しつつある軍に接触してきたのである。
どんなに混乱中でも……いや、混乱中だからこそ、誰何しないなんてあり得ないし……下手な動きをすれば、即攻撃をされても文句は言えないだろう。
「特使である! 連絡隊副長のバディアル殿にお取り次ぎを」
俺は手にタリスマン以外を持っていないということを示す……掌を相手に向けて、頭の左右で広げる……お手上げポーズ? っていう全世界、いや異世界でも共通の仕草をしながら、ゆっくり近づいて行く。
連絡隊というのは、あの連絡の魔道具、通信機器の魔道具を「戦場」で設置し、使用する専属の部隊だという。通信がどれだけ大切かってことを良く判ってるよな~。
で、バディアルっていうのは……まあ、緋の月の現在の頭目だそうだ。ボスね。ボス。
俺に襲いかかってきた馬鹿の父親となる(あの馬鹿はバディアルの第五婦人の三男だそうで……今回の非常事態で何か仕事を任されるわけでもなく、さらに親征に連れて行くと足手まといにになる……と判断されたレベルだそうだ)。
通常は当然の様に宰相の側に控えているらしいんだけど、今回の親征に宰相を出陣させない代わりに、自分が直接皇帝の盾となるためにここに来ているらしい。
「そこで止まれ! 確認に行く!」
憲兵担当らしい騎士……まあ、そこそこ身分は上だろう。が、近付いてくる。
(……今、攻撃を受けているのに慎重だな)
(戦闘中だからこそ……だと思うぞ。俺が尖兵だとしたらどうする? それこそ、爆薬を抱えた自爆兵とか……ああ、そうか。魔族であれば魔術士なんだから、たった一人だとしても奇襲を警戒しないハズが無い)
伝令担当の味方の騎士とかだったら外見から判るだろうし、深夜でも判別出来る何か符丁があるだろう。
(どこからどう見ても……騎士には見えないだろ)
(しかり)
騎士が……俺の手の中の
「確認した。問題無い。こちらへ」
おうおう。さすが「腹黒」。現場の……しかも末端での人物確認を超簡略化している上に……上意下達をスムーズにするために、その判断を魔道具で識別すると。確実に、人為的な間違い、ミスは介在しなくなる。
そして……誰何した騎士がそのまま、俺を要塞内へ案内していく。多分、目的地、面会する相手まで現場担当の彼が責任を持って送るように徹底されているのだろう。
それこそ、誰何する者、案内する者、さらに各所に設置された関所で行われる二重三重のチェック。それによる無駄な時間の排除に繋がる。ここでも情報を重要だと考えているのが垣間見える。
「こちらでお待ちください」
そこそこ偉いであろう騎士からの丁寧な対応に、こちらも簡単に頭を下げる。空爆受けてる最中なのに、ここまで一直線だ。効率的だ。
(スゴイコトなのだな)
(それこそ、ローレシアならこんな風には絶対にならない)
(そうだな)
「すみません。お待たせしました。まずは申し訳ありません。少々放置していたとはいえ……息子がノラム様に御迷惑をかけた様です」
「問題ありません。あの程度であれば、まあ」
入ってきたのは髭面のナイスミドルが、即、頭を下げた。こちらも最初から丁寧だ。頭目というわりに若い……と思う。明らかに、出来る。
この人は……クルセルさんとはちょっと違った方向で強いな。というか、武人としての一面も持っていそうだ。
緋の月といえば、宰相の闇の者で諜報、仕掛け担当だと思っていたんだけど……幹部や元になってる人員は武闘派の忍者部隊っていうのが本当の所か。
ああ、そういえば……自爆してでも情報を伝えようとしていたヤツもかなり出来る方だったもんな。
「あの程度……ですか。性格が単純で、謀に向いていないだけで……武というコトであればそこそこ……しかも帝都の裏を守れるだけの数は揃えていたと思うのですが」
「まあ、あの程度であれば」
「……はっ。今回は誠に申し訳ありませんでした。さて。今回ここへ訪問された本当の所は? いかがでしょう? 経緯は……宰相閣下から聞いておりますが」
そうね。時間はないよな。当然。
「空からの……空爆攻撃。アレ、どれくらい受け止められます?」
「……先ほどから行われている攻撃ですか。竜騎士かそれに変わる、空からの攻撃……ですが……。正直な所、消費する魔石量から考えて残り三日です。それ以上は……保ちません」
「防御範囲は要塞全域?」
「はい。要塞城壁を囲うように設置されています。出来るなら、土の魔術士を中心に城壁を強化しながらの発動したいのですが、それは魔力量的に叶わず」
まあ、要塞全域を覆っているだけでもスゴいけどね。
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