477:揺れる空気

 帝国の戦力は二万五千ちょい。まあ、かなりの数だと思う。というか、まだ、要塞近辺に配置されている……のか? おかしい。待機状態にしてはザワついている気がする。


 敵は……と探す。戦闘が開始されていれば……と、さらに西を探るが……? 


(感じないな……)


(索敵範囲内には敵影無し)


 なんだこの違和感。


(いや……違う……ショゴス……魔力じゃない。気力だ。【気配】で微弱な気力を感じてみろ)


(この微妙な差異が……敵反応か? 魔力を隠蔽……している?)


(ステルスだな。電波妨害の様に「魔力感知」を妨害する魔道具とかがあるんだろう)


(……だが……それほどの数じゃないぞ? 砂漠? の向こう側に……数千名の気配)


(なんだっけ、アムネア魔導帝国の軍は一万単位だったよな……少ないな)


(ハーシャリス閥軍な。確かに。アレはひとつの国の貴族の派閥が率いている軍で……同じ様な閥軍が他にも幾つもあるんだったか)


(ああ、アムネア魔導帝国本国の総戦力って確認するの忘れてたな……多分、アーリィが聞き出してると思うけど)


 えっと……こっち側から攻め込んで来ているのは……。


(シファーラ魔導合衆国のリエタ連邦軍)


 おう。それそれ。


(さすがだ。ショゴス、正式に俺の外部記憶装置にならないか)


(私は既に万里に同じ様な事……USBメモリだねと言われているので承諾出来ない)


(くっ! USBメモリ! それが若さか……)


(……せめてクラウドストレージとかその辺を例に挙げて欲しい)


(多くても……二千名くらいか? 魔族)


(ああ。正直、かなり巧妙に隠れているが……最大でも二千程度だな)


 敵軍が北か南か……大きく迂回、回り込んでいるとか……もあるのか? その辺の情報が知りたいが。


 完全に日は落ちて、闇が周囲を覆い尽くしている。要塞に近付いていくに従って……随所で……何かが燃えている? のが判る。


(ん? どういうことだ? 既に開戦してるのか?)


(開戦……いや、攻撃を受けているのかもしれないな……)


 空を……仰ぐ。闇夜だ。雲が厚めなのか……月の光は届いてこない。だが。その闇の向こうに……。


(来た……)


ヒーーーーーーゥーーーーーー!


 これは落下……音か! ヒューンっていう……映画なんかで聞いたことのある……空爆時によくBGMで使われていた音。空気を裂いて何かが。上空から何かが落ちてくる。


ガブォァッ!


 さらに大きな何かが割れるような音が響き。炎が。大地に炎が立ち上がる。


(ここからだと……爆発規模が判りにくいな)


 一撃で数人……というレベルではないだろう。要塞は巨大だけれど、数万の人間が集結すればそれなりの密度になってしまう。野営している天幕とかを狙われている、空爆されているって感じだろうか。


 ちゅーか、どんな設備でも空爆にはよえーよな……。正直、空から爆弾? 焼夷弾? を投げ落としている時点で、世界の軍隊の歴史の段階がとんでもなくレベルアップしてるわけだし。


(対空防備が無い時点で……どう考えても一方的に攻撃を受けるだけだからな)


 それよりも。夜の空を飛んでいるのは……ファンタジーの定番、飛竜、ワイバーンか? それとも竜? ドラグーン……竜騎兵だっけか。魔族なら魔力が多いから、イロイロ出来そうだな。


 飛んでる音……幽かでも、飛行音っぽい音が聞こえないので、機械じゃ無い気がするな。有るとすれば……魔道具か。俺の「アンテナチップ」「拡散くん試作壱号」、別名「スカート」を改良を重ねていけば……人が乗って飛行機械として使用する事は不可能じゃ無いカモだけれど……確か、人が乗れるレベルの積載量を確保しようとすると、動力源の確保が難しくて考えるのも止めた気がする。消費魔力半端なくて、魔石なんてあっという間に無くなってしまうのだ。


(夜間行動が可能ってことは、鳥の可能性は低い気がするが)


(そういえば俺、こっちの世界の大きな鳥のこと、あまり見たことも遭遇したことが無いんだが。常用レベルのヤツ、いるんだっけ?)


(動物では無く、魔獣であれば存在すると聞いた覚えがあるが……だが鳥である以上、夜間などの闇の中での飛行は難しいのではないだろうか)


 だよな……。しかしこりゃ……。


 今、俺達が走っている街道は、高所、要塞は若干低い場所にある。そのせいもあって、空爆の被害を比較的把握しやすい。


(一方的に蹂躙されるだけ……か)


(ああ。どうにもならんだろ。魔力が感知出来れば……爆弾を放つ前に魔術で攻撃も出来るかもしれないが……)


(当たらないだろう?)


(そうだな。でも牽制にはなる)


 しかも今日は……雲が低い。敵が飛んでいるのはあの向こうだ。敵影すら確認出来ない。


(低い雲までの距離は……確か、ゼロメートルから二千メートル程度だったか。あれくらいであれば……目視でしかないが……五百メートル……いや、一キロはあるのか?)


 スゴいな、物知りだな。


(小学校時代だぞ? 習ったの)


 う、うん。おじさん、当然だけど、余りに昔でそんなん忘れちゃってるよ。

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