470:兄弟④

 ただ単に、壊れた、使えなくなった物が多かった……という理由で、繰り返しドリルの様な感覚で、修行相手に選ばれた「裁きの水晶」。


 そして、それと同じシステムを採用し、若干方向性を追加変更した「だけ」らしい「魔力反応器」。


 機能も似ている上に完全に「裁きの水晶」の上位版だった「魔力反応器」はシディン領で「裁きの水晶」の代用品……として普及していった。


 そもそも、各地の「裁きの水晶」は……ああ、いや、帝国だけで無く各国で使用されている全ての「裁きの水晶」は尽く、耐久年数を遥かに過ぎており、年々作動しないものも増えている。


 そのため、最初は純粋に、古くなっていまいち反応が鈍くなっていた備品のの代替え品として「魔力反応器」は配備された。


「裁きの水晶」は犯罪を犯している咎人が触れると、赤く点滅する。10センチくらいの水晶の機能はそれのみだ。


 平たい弁当箱に水晶が組み込まれた形状の「魔力反応器」は咎人に対して赤く点滅する上に、一定以上の魔力を持つ者が触れると、青く光る。


 ただただ、これだけの魔道具ではあるのだが。


 結果的に。


 この魔道具によって、帝国は魔力に長けた者を選別可能となり、さらに魔力の高い者=天職が魔術士や魔力を使用する稀少な天職持ちである可能性が高い者を発見することが可能となったのだ。

 

 当初、「裁きの水晶」の代替え品でしかなかった「魔力反応器」はその有用性にいち早く気付いたラハルによって、領内で有機的に活用され始める。


 青く光った者は領役場に出頭すると、騎士(魔術騎士)訓練生として登録が出来る様になったのだ。登録した段階で賃金が支払われ、無償で訓練を受けることが可能となる。

 元々このシステム自体は既存のものだ。シディン領独特のものではなく、帝国では昔から行われてきた。力の強い農民がいる……と噂になれば、領役人の担当者が村へ確認に向かい、騎士団に勧誘する。強力な軍事力を維持する為の知恵であり、在野の戦闘職を発掘するやり方の一つだった。


 報酬を受け取って訓練を開始する前に、守秘義務等の魔術契約が行われる(実はこの魔術契約の魔道具、魔術紙の復元に成功したのもラハルで、このような個人との契約で使用出来るのは当時はシディン領だけだった。現在も、輸出禁止品に指定されており、帝国以外の国では稀少品となっている)。


 その契約の結果、訓練期間を経て、一定以上の魔術を行使することが可能になった者は、魔術騎士として、シディン領騎士団に強制的に登録されてしまうのだが、希望者は後を絶たなかった。


 高額な報酬に加えて、領騎士団員は所属するだけで領内で騎士爵に相当する地位を得ることが出来る。


 城門を通過しようとしたら「もしもし?」と、いきなり声を掛けられて「貴方にはスゴイ力が隠されている! 報酬と地位は保証するから、この領で働いてみませんか?」と勧誘されるのだ。……そんなアニメやラノベの主人公の様な甘い言葉や展開は、この世界では基本あり得ない。

 このシステムは魔術士という稀少な戦力の確保に非常に優秀で、リドルが皇帝となった後に、魔術騎士は正式に帝国騎士爵を与えられることになった。


 この魔術騎士選抜のシステムは、ラハルの先見の明によって、最初は領内のみで。その後リドルが皇帝となってからも一貫して極秘裏に行われていた。

 帝国独自の施策として他国に対して優位に働き、その後の拡張戦略にも影響を与えていくことになる。


 それこそ最初は騎士団に勧誘されるだけなのだ。その際に「私は長年の勘で君に秘められた力を感じた」から誘っている……と担当者は演技もしている。

 これだと他国から訪れていた行商人の場合、ああ、そうなのかな? と思うくらいで、安易に断る事も可能だ。しかも、この勧誘が魔術士認定の結果であるというヒントにもならない。


 まあ、実際にいくら魔力があったとしても、自らが魔術士であると認識し、魔術を使用しようと思って訓練しなければ、魔術は行使可能にはならない。

 

 この点も……ラハルの天才的な頭脳が、様々な要素を結びつけ、体系的に構築したから実現したといえる。

 成り行きでスタートし、場当たり的な対応を繰り返しただけに過ぎないにも関わらず。

 最終的に魔術士を発見し、それを育成するシステムが完成していたのだから凄まじい。その上……シディン領の戦力強化が必要だったからとはいえ、守秘に対する魔術契約という、強力なシステムすら組み込んでいる。


 どれくらいのタイミングで全貌を把握し、今後の為にどうすれば良いかを組み込んでいったのか……は判明していない。


 領騎士団員が数名しかおらず、都市防衛は守備隊のみ。独自戦力がほぼ皆無だったシディン領の為に行い始めた事ではあったが……その数年後には、当時の帝国内では唯一の魔術騎士団が実働することになる。


 魔術士は稀少で帝国騎士団にすら専任所属している者はいない。帝国宮廷魔術士として存在する十数名の中から、戦場に派遣される者がいた……程度だ。

 

 戦場の主役、花形はあくまで騎士であり、隊列を組んで騎馬と共に突貫し、乱戦となれば盾を構え剣を振る。そんな脳筋溢れる現場に、集団で集中して行使する魔術による蹂躙という大輪の花……が咲く。



 

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