471:兄弟⑤

 錬金術士、ラハル・ハーレイの才能はそこに留まらなかった。


 処女作品が「魔力反応器」である。現状の錬金術士がほぼ存在しない社会で、いきなりの実用品デビュー。純粋に凄まじいまでの適性能力。後に天才宰相として帝国を支えることになる彼だが、その本質は天職である錬金術士にあるのかもしれなかった。


「魔力反応器」を生み出したラハルは、状況に合わせて多くの魔道具を創り出していく。


「魔術紙」:これはラハルが開発したわけではない。改良もしていない。既存の……ダンジョン産の魔道具を複製したものとなる。最大の功績は原材料となる魔力を帯びた植物紙の大量生産の成功となるだろう。契約者の魔力を登録し、契約を完了すると魔術契約が成立。そこに書かれた契約は履行されなければならない。不履行となった場合は、その契約に書かれている不履行条件を遂行することになる。実は膨大な魔力があると「上書き」も可能。古の時代に上級天職に就いている者には通用しなかった……という情報は現在では伝わっていない。


「護符」:魔力強化、魔力障壁の護符。消費魔力が多く、多くの魔石を消費してしまうため、使用は非常に限られるのだが、効果は絶大。魔道具は低価格、大量生産、大量消費をモットーにしているラハルにしてみると、この「護符」は失敗作らしいが、実は、貴人の護身用の魔道具としては現在最強級の能力を誇る。


「土壁製造器」「風壁製造器」「火壁製造器」:文字通り、各属性の壁を生み出す魔道具一式。注ぎ込む魔力、魔石量で壁の大きさ、厚さが変化する(当然、使用量が多ければ大きく、分厚くなる)。


「連絡器」:遠距離との連絡が可能な通信機の魔道具。電報の様に、文字を一文字ずつ送るタイプで、出来る限り短い文章を送るのが常となっている。当初は、全通信機への一斉連絡しか出来なかったが、型番更新されるたびに、通信機能が複雑化しており、現在では製造番号指定での個別送信、通信担当者不在時の伝言保存機能、通信時の魔力消費低下、省魔力化等を実装。


「土人形」:錬金術によって生み出される土人形ゴーレム。土属性のブロックを組み合わせて作成される。現在も開発途中の魔道具ジャンルで、大型の土人形で大規模輜重部隊を編成させることに成功している。


「魔力反応器」と「魔術紙」という特殊な特産物に加えて、その他にも多くの既存魔道具の改良版を生み出され、商品化されいく。

 さらに壁製造の魔道具の水属性版である「湧水製造器」を有効に使用した土壌改革によって、シディン領の財政はあっという間に再建された。

 ちなみに、この「湧水製造器」はリドルが皇帝となってしばらくする頃まで、シディン領から外に広がることは無かった。この手の、しばらく内緒する案件はラハルの元では当然の、日常的なものとなっていく。


 最終的にそれらは。


 全て多数の、それこそ、他領に本店のある商会を経由することで、分散され、根本がラハルにある事を隠蔽した。その状況に、幼い頃のラハルが撒いた種が実を結びつつある……と、領の繁栄を質問されたリドルがそう言い訳をしたとも言われている。


 そして。この時期既に、ラハルは後継者争いの発生を想定した……と思われる行動を取り始めている。

 繁栄によって手に入れた財産を全て放出する勢いで、都市守備隊や領騎士団と言った、自勢力の軍備を急速に整え始めたのだ。


 リドルとラハルの父親である、皇帝ディラル・ハーレイには、多くの後継者を得たが、最終的に競い合っていたのは、


第一皇子 フリュザル

第二皇女 シーリュ

第三皇子 バルジャル

第四皇女 フーフォルード

第五皇子 リドル

第七皇子 シリル

第十皇子 ファンバル


 の七勢力といった感じだろうか。


 これら七勢力……いや、母親がエルフの娘だったリドル以外の六勢力は全てが、帝国の高位貴族、又は同盟国を背景にしていた。


 特に第一皇子のフリュザルは帝国四大公爵の一つ、バダン公爵家の権力を大いに利用して、後継者争いの本命として、ほぼ、次期皇帝の座をほぼ確保するに至っていた。


 フリュザル皇子はこの当時既に28歳。皇帝として考えれば勇猛さに欠ける性格ではあったが、熟考の上に出される英断は大国を率いるに相応しいと評判も良く、内事補佐官という役職で、皇帝になるべく着々と地盤を固めていた。


 この時点では、リドル、ラハルの兄弟は、警戒はしていたものの、本格的にその争いに参加するつもりは一切無かった。


 だが。いつの世も、愚か者の行動は、知者の判断とは余りに離れた軌道を描く。


 第三王子バルジャルは同盟国であるマーモット王国の第一王女を母に持った。その母であるクシャラ妃は典型的な「頭の悪い」王族の代表の様な女性であり、当然の様に自分の息子であるバルジャルを次期皇帝へと動き続けていた。


 だが、フリュザル皇子が固めてきた地盤は揺るぎなく、全ては無駄な行動と思われ……嘲笑する者も多かった。


 そんな情勢の中、帝国北部地域で大規模な狂乱敗走スタンピードが発生する。通常であればダンジョン単体から発生し、数百~千程度の魔物が周辺の都市を襲うことになるのだが、この時は大きく違った。


 狂乱敗走スタンピードが発生し、それが収束する前に……他のダンジョンが幾つも暴走。連鎖発生したことで帝国史上でもかつて無い規模の大規模狂乱敗走スタンピードとなった。


 北部地域のほとんどのダンジョンから溢れ出た、数百万に膨れあがった魔物の群勢は多くの都市、領地に襲いかかった。当然、帝国騎士団が討伐に乗り出したが、帝国中央でも北部に位置する帝都にも襲いかかった。


 この狂乱敗走スタンピードは多くの被害をもたらしたものの、騎士団の活躍により無事制圧に成功した。


 だが。


 平定完了の報が帝国全土に伝わった直後に、衝撃の事実が判明する。


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