465:いちいちなげーよ

(多分……確定情報は何も無かったんじゃないかな? ただ、ノラムがここにいる……という事実と、相当な実力者であるという事実を軸に……今の想像を現実に結びつけた)


 まあ、そうだろうね……。うーん。こいつは。マジでリアルチートだな……。転生者……ではないか。多分。純粋に元の能力がバカ高いんだな。ここまで話したのを聞いているだけでも、深層考察力、分散処理能力が桁違いだ。


「確かに。ローレシアは魔族の軍……アムネア魔導帝国のハーシャリス閥軍に侵攻され、交戦しました。そしてそれを殲滅。撃退しました。そして、調査探索の結果、その魔導帝国が東から侵攻出来た原因を潰すことが出来たため、同時期に異変が起きたらしき帝国への情報収集に繰り出したというワケです」


 一回で色々と聞きすぎなんだよな。答えも長くなる。


「そうですか。ああ、つまりはそちらも捕虜からの情報で?」


「ええ。捕虜の証言で「シファーラ魔導合衆国が東域制覇に成功し、さらに……無限大障壁に穴を開け、版図を広げそうだ」と。魔族の世界での東域は、こちらの西方。帝国の西の「最果ての砂漠」のさらに向こうの無限大障壁という壁があり、それを越えて魔族の軍が出現したのであれば。帝国が戦力を国内に集中させた本当の理由が見えてくると」


ふう……


 宰相が溜息をついた。いやしかし、絵になるね……そりゃ、蒼の宰相って呼ばれるわ。というか、よく、その程度の通り名で済んでたな。


(そうだな。なんていうか、数万年に一人の激烈美形宰相とか、キラキラ閃光目眩氾濫背景花舞美形宰相とか)


 ……凄いね。それ。


「ええ、ええ。そう、ですね。まずはこちらの手の内を公開いたしましょう。でなければ、これまでの経緯を考えて、ノラム殿、サノブ殿に協力をお願いしたところで……ということですから」


(そうか。宰相はさっきから「どうやって、魔族の軍を撃退したのか?」を知りたがってる……焦っている様にも見える)


 そうだな。なんていうか……こいつ、ひょっとして……異常に焦っていないか? 

 本来であれば。その賢さをキチンと使用すれば、俺が何を言おうと答えが導かれるように会話を支配してしまえるのではないのか? というか、出来るだろ。どう考えても。

 なんとなくだけど……ぐうのねも出ないレベルで言い負かされた俺が、最終手段として直接武力(魔力)でぶっ飛ばす……的なドキュン行動している様子が、ありありと目の前に浮かぶ。


(ああ。なんていうか……この落ち着いた物言いや態度は必死の演技なのか? ……だとした……演技下手だな。なんか深い考えがあって、俺達は騙されてるんじゃないのか?)


(そうかもしれないけど……そうする意味が良く判らないな)


 うん。そうだな。さっきから「腹黒」が一人で勝手にグルグルしている……気がしてきた。こちらは……まあ、うん。偵察だし。それ以上でもそれ以下でも無い。殴られたら殴り返そうかと思ってたけど、ギリギリの所で謝られちゃったからな。


 そうか。謝られてるのか。正式に。それは「腹黒」が貴族の中の貴族であるにも関わらず、真摯な対応の出来る真人間……日本人的に理解しやすい、平等や平和に対する意識が近しい人……なんて考えていたが。

 

 そんなハズがないよな。絶対に無い。


 相手は、こちらの世界の……世界ナンバー2なのだ。俺が考えるような庶民的な思考、思想で動いているワケが無い。


 当然だが……貴族なんて……我が儘で傲慢で尊大でなければ成立出来ない。名誉欲、権威欲、そして膨大な承認欲求を持て余しているものだ。


 それこそ、俺が好ましいと思っているリドリス家の面々だって……自分たちの家の矜持を貫くという傲慢さを保ち続けている。これは逆に実に貴族らしい立ち振る舞いだ。結果として自分たちの為ではなく、民のためだ……とすることで、自分の地位、社会的な立場を高めることに繋がっている。


 つまりは。貴族とは「自分のため」「自分たちのため」にしか行動原理を持ち合わせない。結果としてそれが、周囲からどう見られるかで、根本から違う生き物の様に見えてしまうだけだ。


「……そこまで、ギリギリな状況なのですか?」


 ……答えが無い。ということは、文字通り、ギリギリだという事だ。


「正直。ここまでの顛末をまとめて鑑みれば。貴方様は……この大帝国の宰相。肩書きから言えば、文字通りナンバー2なのは間違い無いでしょう。そして、これまでに私が知っている数多の作戦群の内容から考えても……その大帝国を背負っていることに相応しい行動だったと認識しています。ただ、確かに、なぜ、貴方が帝国宰相であろうとしていたのか……は存じ上げなかった」


「……ええ。そうですね。私が……私が宰相である理由など……些細な個人的なものでしかありません。公言するべきものでも無く、自分自身のためだけのもの。そう。そして……今私がこうして貴方と話しをしているのも、私個人の我が儘でしかない。そして……ギリギリ……そうですね。既にそれを過ぎているのかもしれないからからこそ……貴方という異物に、すがろうとしている」


 既に隠す素振りも無いか。いや、最初から隠す気は無かったのか。俺と会ってから、何一つ、誘いや騙し系の誤魔化しを入れてきていない。

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