464:会話劇

「ともあれ。まずは謝らねばなりませんね。ノラム殿でしたか。申し訳ありませんでした。部下の不手際は、私の不手際。こちらとしては、何一つ申し開ける事はありません。ただただ、失策。貴方が……リクシードからの連絡を受けた二日後に帝都に入った……という事実がある時点で、我々が以前から情報入手しようと必死になっていたローレシア王国、城砦都市カンパルラ周辺で発生している「特異」の関連案件であることを即理解し、さらに、真理の水晶のデータから、仮定が仮定で無かったという事実を認めて、行動しなければいけませんでした」


 おうおう。スゲー情報量だ。賢いヤツの特徴だよなぁ……。こちとらお前と同じ量の情報処理能力があるわけじゃないんだから……と思ったけど。


(ショゴスさん、よろしくお願いします)


(……さん付け気持ち悪い)


 こっちにはショゴスがいるんだからな!


(ふふ)


 あ。ショゴスが笑った。


(……なんとなく……万里が笑ってたのを思い出した)


(良いんじゃないか? いつか万里さんに再会出来たときに、笑いながら話せるぞ)


(そうか……そうだな。万里がいつも、友達と楽しそうに笑いながら話しているのを不思議に思っていたんだ。なんで情報交換するだけなのに、笑うのだろうって)


(ああ。なら。余計に笑えるところを見せつけてやらないと)


(うん)


「せめて私が直接指示を出していれば、確実に違ったお迎えが出来たと思うのですが……これまた別の理由で……ついさっきまで床に付いておりまして」


 ってヤバい。ショゴスさんとホノボノ中学生会話をしている場合じゃなかった。相手は希代の天才軍師……のハズだ。適当に頷いていたらいつの間にかヤバい約束とかさせられそうだ。


 とはいえ。さっきからもの凄く違和感というか、余裕がないというか……いや……そもそも、俺の相手をしている場合じゃない……というか、そういう? 何があった?


「お身体が?」


「……いえ……いえ……そうですね。貴方が帝都にいらした……ということは、全ての事をご存じと思った方がよろしいのでしょうね」


 おう。ってやっぱり、瞳の色は青か! 日本人として育った身としては、この手の薄い色の瞳って吸い込まれそうになるんだよな。目を見て話していると。


「今回の訪帝は……様子見ということでしょうか? ノラム殿」


「ええ。そうですね。我が主からの命は、帝都……いや、帝国の状況確認が主な任務となっています」


「それは、侵攻していた諸外国からの騎士団の撤退と、緋の月を含めた諜報機関の帝国内への帰還……を知って?」


 なんか、もの凄い丁寧語だな……どういう感覚なんだろうか。何か……仕組まれてるのか? 


「ええ。さらに、我が主は「帝国の西の砂漠で異変……最果ての砂漠に存在する砂上国家群が謎の軍隊に襲われて壊滅状態」という情報が諸外国に知れ渡るのが早すぎる」と申しておりました」


「ああ、そうで……しょうね。ええ。そうですね。その命令、偽装工作も……まあ、私の知らぬ間に出されたものなのですが……ふう……そうですね」


 宰相がくっと顔を上げた。


(おおー。カッコイイな。万里ならもう、視線が釘付け確定だな)


「まず。大前提を。カンパルラでの遭遇時こそ、少々齟齬があり、敵対するような流れになってしまいましたが……。現状、私は、貴方の雇い主であるサノブ殿とはこれ以上事を構える必要は無いと考えております。貴方を部下として使える相手に……これ以上、こちらからちょっかいを出すのは下策。これまでの情報をまとめて考えると、サノブ殿に帝国に対して積極に敵対する、攻め込む……という意志は無いように思えます。であれば。こちらとしてもローレシア王国に対しての作戦から撤退。それ以上は踏み込まないことを約しても構いません」


 うお。さすが賢いのナンバーワン。要点を付いてくるね。


「まあ、国と国として……ではなく、私個人と、サノブ殿個人での約定となってしまいますが。魔道具を使用すれば、それを違える事は出来なくなりますし」


 そうね。それでいいし、それがいい。正直、ディーベルス様関係者……まあ、後さらに、姫様関係は面倒みるとしても。それ以外のローレシア王国関係者には屑も多いからね。


「その上で。少々お聞き出来れば……と思うのですが。ローレシアは……如何様に「魔族」の軍を撃退した……のでしょうか?」


 おうおう。重要キーワードをブチ込んできたね。ですよね。そこでしょうね。聞きたいのは。もしも、今現在、西の砂漠の向こうから魔族が攻め込んで来ているのだとしたら。知りたいのはそこですよね。


「その情報はどこから?」


「あ。いえ……予測になりますが……。こちらの……魔族の捕虜から得た情報によると、深淵の森を越える軍を派遣した国があるとのことでした。なんでも森を越えることの出来る根拠があるとのことでしたので……。まあ、それが成功している場合、一番最初に襲われるのはローレシア。そして、カンパルラになります。そこを拠点にしているサノブ殿が西に移動し、その懐刀であろうノラム殿が帝都に現れた。それは……東の魔族を「処理」したからに違いありません」


 おうおうおう……断片的な情報から……そういう確定的な推測まで辿り着いちゃうわけですか。スゴいな……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る