463:主役登場

 馬車を降りて、裏口から案内されたのは、庭園。灯りの魔道具が点在していて、薄らと明るい。花が……咲き乱れている。手入れされた美しい妖精の住処。泉というか、水場も作られている。

 そして、その中央には四阿。というか、四阿って公園とかでしか見たことなかったからなぁ……個人宅、豪邸の庭なら、こういう使い方するんだな……。


 多分、ローレシアにだって……王城とかならこういうのがあったんじゃないかと思うんだけど……見る余裕無かったしな。この手の庭園とかって、大奥……じゃなくて、後宮か。妻毎に宮殿が作られて、そこに庭があって……って俺、この知識は何のドラマで知ったんだっけな?


 中央に大きめのテーブル。そして、主人が座るだろう大きめの椅子。その手前にかなり座り心地の良いソファの様な椅子。アレだ。書類仕事を行うのに楽なように作られた……事務系椅子とソファのハイブリッドな感じだ。よく見れば、正面の豪華な椅子もそんな感じだ。


 魔道具で調節されているのか……乾いた緩やかな風が流れている。どこかに空調の魔道具が存在しているのは確定だな。


 片側には書棚。様々な書類、そして、本が積んである。ここの主は、この場所で主な仕事をこなしている……のだろう。


 まあ、ここなら……もの凄く見通しが良いし……魔道具で管理するまでもなく、隠れて近付くことは不可能に近い。……多分、俺でも……この庭に足を踏み入れた途端に侵入がバレてしまうだろうな。


「どうぞ、こちらへ。少々お待ちを。すぐに主人が参ります」


 うん。クルセルさんは綺麗な御辞儀と共に、庭から離れた。


カチャ


 少しの間の後。屋敷の……テラスみたいな場所のドアが開き。 


(青い王子様……だ……)


 うん。そうな。ショゴス。口が開いてるぞ。というか、そんな感じが伝わってくる。ってまあ、俺も似たような感想だったが。


 ああ、美しい男子……というのはこういう人の事をいうのだろうな。なんていうか、もしも彼が向こうの世界に存在したら。その手の御姉様方の永遠の餌食というか、弄ばれというか。正統派だな……。マジデ。俺、この手の顔のキャラ、乙女ゲーとかで見たことあるもん。

 髪型は……長髪……名前は判らんな。ロングレイヤー? とかいううやつ? 美形だからこそ許される系の髪型だと思う。髪の毛は……ここからだとまだよく見えないが、黒……いや、濃い紺なのか? あ。思い出した。アレだ、長髪のスリーポイントシューターを童顔にして……そこに気品を加えた感じ? き、キラキラしてる気がするのは……どうなんだ?


(キラキラしてる……)


 あ。ショゴスもそう思うのか。ってことは、あのキラキラは……魔力? が溢れてるとか? 違うな。なんだろう。服か。下の服が……反射してる? どういう布なんだ、アレ。


 青いキラキラの布……あ。そうか。蒼の宰相か。だから、蒼の服? いや、蒼の服を好んできていたからそう名付けられたとかか。ちゅーか、髪の毛も紺で、目の色も青だったりしたら……マイカラーが青になるよな。


 ……と。そっちに目が向いてしまって最初気付けなかったが。


 宰相は。杖をついていた。しかも、オシャレとか格好つけでは……ない。普通に……ごく普通に杖を使って歩いてくる。右足に何か障害があるようだ。

 ゆったりとした……トーガというか、作務衣というか、なんていうか、そんな感じのデザインの服のせいで、どんな程度で足が悪いのかは判らない。だが、確実に杖をついている。


 敵かも知れない俺に、弱点は隠せるものなら隠しておきたいだろう。これはフェイクなのか……とも思ってみるが。歩き方が凄まじく自然だ。これが演技なら「腹黒」宰相は「腹黒」役者としてもやっていけるレベルだということになる。


(魔力の流れからいって、彼の右足はキチンと動かせないようだ。なんというか、筋組織の一部を結構前に失って、その上で成長しているために完全に異物となってしまっている)


 ポーションとか……で傷は癒えたけど、それを直す際に問題があったとか? うーん。最初に怪我をしたときに、一部が再生されない状態で治癒してしまい、その後はそれが普通になってしまった……とか。うーん。判らんね。


「こちらから呼び出したにも関わらず、待たせてしまった様です。既に部下……クルセルが名乗りは挙げたとは思いますが、改めて。私がハラル・ハーレイです。この国で宰相という地位を戴いております」


 お。頭を下げる宰相。うん、しかも人としてよく出来てる系か。


(綺麗な御辞儀)


 そうな。いちいちカッコいいな。ここまで絵になるって何かムカついてくるな。


(理不尽)


 その通り。俺は理不尽なんですよ。


「いえ。こちらこそ、初めてお目通り致します。カンパルラを拠点に活動している行商人サノブの使い、ノラムと申します。ラハル・ハーレイ宰相閣下」


 宰相は俺のすぐ側を通り抜け、奥の椅子に腰をかける。ふうと……息をついて肘をつく。それが……彼の定番の格好なのだろう。途轍もなくシックリして見える。


 そして……ふう……っと溜息をついた。


「ああ、お客様の前で申し訳ない。クルセルから聞いたと思うのだが……頭が痛い問題が山積みでして」


(まるで絵画のようだ)


 それな。しゃべる芸術な。

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