462:笑顔

「あ。そうでした。あの……ノラム様。大変厚かましいお願いなのですが……」


「あ。はい、何でしょう?」


 連れてこられたさっきの演習場の端で、待たせてあった馬車に乗り込む。結構豪華な仕様の箱馬車だ。座り心地がいい。さすがだな~。帝国ナンバー2の地位に相応しい仕様。

 サスペンション……が特別仕様ってわけじゃないんだな。……これ、多分、魔道具で強引に衝撃を無くしているとか?


(これ、多分……土の魔術で進行方向……馬車の手前で道を平坦にならしている感じだ)


(マジデ? ああ、そうか。「大地操作」で……車輪が通る辺りを加工しちゃうのか。つまりは舗装しながら走ってるってことか)


(そうだな……強引だが……魔道具があるのならこういう使い方もありだな)


 魔石……どれだけ必要になるのだろう。コスパ悪そうだ。まあでも、この馬車が沢山走ってれば……道がドンドン舗装されていくのか。ある意味、社用車……国の所有する馬車が全部この仕様なら、舗装の修繕工事が少なくなるとか? なんか結構考えられてる気もするな。


(震動は確実に抑えられているな)


 うん。寝ちゃいそうだ。っていかんいかん。話しの途中だ。


「できれば……あの子達への術はしばらく解かないでおけますでしょうか?」


「んん? ああ、さっき襲ってきた緋の月の人達ですね?」


「はい。ノラム様の御恩情に寄り……あの子達は延命されましたが。とりあえず、我が主からの謝罪等が済むまでは当然、あのままで。さらにもしも、謝罪が気に入らなければ、どう処断されても問題ありません」


「ええ。まあ即解除……するつもりは無かったですが。でも、動けないのって結構キツイですよ?」


「構いません。主君に正しく仕えるとはどういう事か……が理解出来ていないオバカさん達は、死ぬほど反省すれば良いのです。正直、今さらですか……と怒鳴りつけたい気持ちで一杯でしたが、それ以前にノラム様の御心中を思うと申し訳なく。臣として為すべき事を自分で考えられないのなら、自らの所業がせいで死んだ方が役に立つ事でしょう」


(笑顔、怖い……)


「名誉の戦死の気持ちで自分に酔って玉砕する……なんていう、クソ以下の自己満足を感じたまま死なすなど、ありえません。正直、二億回ほど殴り殺しても、殴り足りないですし」


 怖いね……というか、やっぱ、この人……格が違うよな……。明らかに。ずっと立たされる……ってある意味、拷問だからなぁ。大抵のヤツは仕掛けようとして、挑みかかってるポーズで固定だし。しかも、時間経過と共にお漏らしなんかもするだろうな……。


「判りました」


 マスクをしたままだが……こちらもニコッと微笑んでみる。伝わらないだろうけど。


 超高級……多分、この帝国が人族世界で一番の大国であれば(多分そう)、この馬車は人族世界最高峰の乗り心地ということになる。そんな最高級馬車は揺れもせず、安定した走行で、帝都を走る。これだけ豪華で派手な装飾の付いている判りやすい「偉そう」を撒き散らかしてるにも関わらず、帝都の闇の中、何ごとも無かったかのように突き進む。「視覚妨害」とか「幻影」なんていう効果の魔道具が使われている可能性も高いか。


 実際、「防音」の魔道具も使われているのだろう。馬車の疾走音もこれまで俺が乗ってきたものよりも遥かに静かだ。音も無くスーッと……というほどでは無いが、それに近い。車輪が回る音、そして小石を弾く様な音……くらいしか聞こえない。


 クルセル……さんは相変わらず……アルカイックスマイルっていうんだっけ? 作り笑顔だか、素の表情なのか良く判らない、若干口角の上がった顔でこちらを見ている。


 うん。怖い。


 しばらく走った後。どこかの……屋敷の裏……石壁に囲まれた裏庭に……いきなり到着した。箱馬車の仕様として前方に何があったかは見えないので、良く判らなかった。


(多分、隠し扉だ。壁を消して……また生成した……感じ? 魔道具がいくつも発動している。これを豪華っていうのかな?)


 まあ、うん。その魔道具がどれだけ魔石消費量なのかにもよるけれど。でも、それだけ複雑に魔道具を使用出来るという事は、魔石を消費しているという事と、それだけの魔道具を制御出来る、メンテナンス出来る人材を抱えているということになる。


 そりゃそうだよな……。ある意味、世界二位の権力者かもしれないんだから。


 ってでも……それにしては屋敷はこぢんまりとしている気がする。庭も……まあ、裏庭に設置された馬車止まりだからかもしれないけど、あまり広く、大きさは感じない。


「裏からの御案内、失礼致します。表からですと……ノラム様に御迷惑をおかけするかと思いまして」


「ええ。問題ありません。このように……マスクなどを着けて目立つ容姿をしておりますから、正直、闇に紛れた行動はとてもありがたく」


「お気遣いありがとうございます」


 ああ、すげー賢いな……。アレな。俺を裏口から屋敷に入れたっていうのは、宰相の体面的な問題が大きいもんな。この後……どういう展開になるか、判らないだろうし。


(この場所……もの凄い数の魔道具が動いている……入り組んでいて、分析するのがもの凄く難しい)


 ショゴスがそう、お手上げ状態なくらい、魔道具が稼働している。まあ、俺にも、その一端は判る。分析しようと思うのがイヤになるくらい大量な魔力の種類の情報だ。何百色もの毛糸玉がこんがらがってる感じ?


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