461:役(者が)不足

「まあ、ぶっちゃけさ。既に……ここに揃えた全員を潰すことも可能なんだよな。なので、言動には気をつけるように。舌も噛めないよ?」


 ということで。いつの間にか少々距離を取って、あわよくば陣形に参加しようとしていた、俺を案内してきたエタラの目を見て問いかける。全員の首……を少々強めに押さえ付ける。これで声は出ない。首から上も固定されているので……口内も自由にならないから舌も噛めない。


「んーと。とりあえず、約二百くらいか。遠巻きに固めていた者達を含めてそれくらい。現状、そいつらの命は全て、俺の掌の上だ。いいか? お前の返答が、二百人の命を左右する。「緋の月の十本」だかの一人ってことはさ、トップの十人のうちの一人なんだろ? 今回の作戦について知らないって事はないよな。ここに案内してくれたんだし」


 気配で……だけど彼女の汗が……流れ落ちる気がした。冷や汗ね。うん。帝都はカンパルラよりも若干、南にある様だ。夜中だというのに、ほんのり暑い。


 まあ、夜中で暗いから見えないんだけどね。


「魔力感知」等による視覚以外の感知に頼っている? せいか、全く気にしてなかったけど……襲撃してきた「緋の月」のやつらは、エタラを含め覆面的なモノ……で顔を覆っている。


 それこそ、彼女は声や体つきから女と判るが、表情などは読み取れない。なのに、汗って……。アレか。心の声が聴こえ始めているとでもいうのか。


 というか、メンバー全員が覆面的なモノを被ってるって……怪しいよね。さすがに。この人数が覆面仲間。人気がない場所だからいいのかもだけど。笑うというか、怖い。


「そもそも……だ。俺をここで殺す……という決断。それを……緋の月のトップが決断したのか?」


 エタラの首から上は動く様になっている。彼女は……最初ちゅうちょした様だが、首を横に振った。


「なら、緋の月のさらに上……「腹黒」宰相の決定か?」


 宰相……という言葉を口にした途端、エタラを含め、何人もの激しい反応が感じられた。まあ、どんなに激しい感情が渦巻いたとしても、彼女に出来るのは僅かに首を上下左右することくらいだ。


 そして。首を左右に振る。


「大方……そこにいるぼんぼんの……独断か。ああ、そいつが緋の月の次期首領だというのなら、この組織は遅かれ早かれお終いだぞ? さらに言えば、この馬鹿を止められないお前らも含めてな」


 というか、どう考えても、役者が足りないと思ってたんだよなぁ……。こんな安っぽい展開。俺が予想していた「腹黒」とその「優秀な部下」じゃないもんな。


(がっかりしてるのか……)


(そうかな~そうかもなぁ~)


「んー。まあでも、なんかもの凄くムカついてきたから……消すか」


(誰か来た)


 はあはあと……息を切らせて……これはうちの人達とは違うデザインだがメイド服か。顔は……まあ、良く見えないが、整っている様な気がする。


「お、お待ちを。し、失礼いたします……私は……クルセル……ラハル・ハーレイ宰相閣下、専属側仕えでございます。そちらに御座すのは、カンパルラの商人サノブ様か、その御配下の方……でございましょうか」


 お。主役……の使いが。来たか。


「ええ、ええ。私はカンパルラの商人サノブの護衛として雇われております、ノラムと申します。丁寧な御挨拶、恐れ入ります。ですが、現在、少々取り込んでおりまして。数十秒お待ちいただければ、全て消し炭にしてそちらに専念できるのですが」


「ま、誠に申し訳ございません、我が主であるラハル様が「どうしても火急に」謝罪申し上げたい義がございますので、どうか、このまますぐにお越しいただけないかと。本来であれば、自らがこちらに伺わなければならない事案である事は重々承知しておりますが、我が主にもそう出来ぬ理由がありまして。その理由もいらしていただければ全て御説明いたします……と」


「畏まりました。では。クルセル様。御案内いただけますか?」


 無造作に。戦場となっていた間合いを退く。


「は、はい、無理を言ってしまい、誠に申し訳ありません。こ、こちらへ……」


 そう言って、今、走って来た方へ引き返す。息が整ってきたのか、死の気配がもうもうと立ちこめている中を、悠々と。


(というか、このクルセル……って人、かなりやるよな)


(やると思う。というか、多分……私の感知範囲外から……一気に距離を詰めてきた)


(……主役級登場?)


(うん。登場)


 さっき、ハアハアいって息切れしてたのも……ポーズか。わざとか。なんか、いきなりレベルが上がってない?


(上がっている)


 緋の月の十本の一人……とか言って、十人の強いのがまとめてるのかな? と思ってたけど、まさか、十本の上に、三羽烏、四天王とか、五光とか、七大天王とか八本刀とかがいたりしないよな?


(クルセルが……実力者なのは確実だから……彼女が実は緋の月の首領とか?)

 

(それは無いだろう……何となくだけど、彼女があの場に現れたとき、ほんのちょっとだけ反発する意志が感じられた。命を助けられたにも関わらず、だ。そもそも、クルセルのセリフにも……愛を感じられなかったしな。身内……ではないと思うんだが)


 まあ、その辺の事情を含めて……彼女の御主人様が全て話してくれるそうだから楽しみ~。


(不真面目にはしゃぐのは良くないと思います)


(はい。ごめんなさい)

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