460:役不足

「なん……なんだと?」


 おお。そのセリフ。なんか、言わせてみたいセリフの一つだよね。戦闘する者にとって。


 残念でした。というか、決死の攻めも俺には届かない。ガードされただけでなく、動きを止められて、さらにその姿勢のまま固定されちゃ……為す術無いよな。


 美しく流動的に随時動きを変えて包囲していた陣形が、ガタガタと文字通り音を立てて崩壊する。

 そうな。この陣形の弱点はこれだ。自分の前で攻め込んでいる者達が、敵に「倒される」事を前提にしている。


 決死の螺旋。緋の月が生み出した? 強大な敵と対峙した際に使用する最終決戦技。だろうか。これだけの人数が捨て身で連続攻撃をしてくるなんて、悪夢でしかないしな。


「ちっいっ! 弐の陣!」


「やめとけ。もう、動ける者はいない」


「なっ! これはっ!」


 既に。全員を掌握した。


 この陣形は非常に美しく、有機的で。まあ「周辺視」で見ると特に綺麗で。幾何学模様の様に規則性を感じる。

 

 が。


 その規則性故に、俺とはとにかく相性が悪い。


 ただただ、正面に現れた敵を勘を頼りに薙ぎ倒していくような、天然系の戦士であれば非常に有効だ。近接戦に長けていない魔術士も、小細工したところで……手も足も出ないだろう。


 運が悪かった、相性が悪かったとしか言いようがない。


 規則に合わせて行動する敵は、順番に【結界】を用意しておくだけで、後はかかった順に、閉じてくだけになる。


 さすがにここまでの数を固めたのは初めてだったが、陣形によって、最後のヤツの位置まで簡単に予測出来たからね。


(先行して配置出来れば、そりゃそうだな。サノブが有利というか、勝負にならない)


 ですよね。


「な、ならば!」


「ああ。だから……やめとけって。それは……一度見たよ」


 アレだ、この魔力反応は……自爆したヤツが使っていたのと同じ、自爆用の高性能の爆発魔道具だ。それをピンポイントで【結界】で隔離する。

 そう言えばあの時は……こんな風に……ピンポイントで場所を指定して、隔離……なんていう【結界】の細かい使い方が出来ていなかった気がする。やれば出来たのかもしれないけど、そんな余裕が無かったもんな。


(……何ごとも経験ということなのだろうか?)


(そうかなぁ。レベル……も上がっているんだと思うんだけど)


(ふむ。それにしても此奴ら。緋の月の行動が早すぎる気がするな)


(ああ。それは……多分、帝都の各城門で行われている身分証明確認時に、体力と魔力の総量の検査機でも仕掛けてあったんだと思う)


(最大魔力量とかか。「鑑定」は感知しなかったのだろう?)


(ああ。気配も無かった)


 こちらの世界に戻ってから、ダンジョンシステムのシステムダウンで慌ててしまって確認を忘れていたが【鑑定】も使用不可能になっている。実はそれに気が付いたのは、帝国に向かってからだ。


 ぶっちゃけ、詳細が判らないから使う……っていうクセが付いていない俺が悪いんだけどね。

 偽名を使っている人に対して、名前と天職名が判るのは大きいんだよな。特にこういう潜入任務では。初対面の相手が多いし。


 まあ、なので……というわけではないが、自分が鑑定されてしまうのは少々避けて通りたい。

 なので細かく注意していたのだが【鑑定】やそれに近い魔道具の気配はなかった。であれば、城門をくぐるときに使われる魔道具、裁きの水晶……の上位に当たる魔道具とかがあって、それで何かが判明しているのではないかと思ったのだ。


 まあ、【鑑定】されたらされたで……と思っていたのだけれど。


 で。そうでないのなら何か……と考えた結果。他に個人の能力の識別に使用できそうな要素は……体力、魔力の量だ。


 それこそ、俺が最初に見えるようになった数値はレベルの次がそれだったし。


 とはいえ、俺の【鑑定】と同じ様な……名前が読み取れたり、体力魔力量が数値で表示されるんじゃなく、大体な所が判る感じじゃないだろうか? 


 体力少なめ、魔力多めとか。


 天職すら判らない、たったそれだけでも、体力が多い者は前衛職として大いに期待出来るだろうし、魔力が多ければ……魔術士である可能性があるのだ。


 その識別結果は非常に有効に使用出来るハズだ。


 それこそ……魔術士を多く確保し、魔術士部隊を生み出すことも可能にした。さらに、こうして……帝都に侵入した俺をあっという間に取り囲む事に成功している。それこそ、今日この地に辿り着く……とは予想なんて出来ていなかっただろうに。


(確かに……有りそうだ。というか、魔力の多寡が判ることで生じる事象はかなり大きいな。社会に与える影響含めて)


(ああ。これも……ひょっとして「腹黒」宰相の指示の結果なんだろうかね)


「ちぃいいい!」


 あ。悔しそう。というか、悔しくてこの台詞言う人って本当にいるんだ。というか、そういえば、この人……なんか定番セリフ言う役割なのかな? 


 というか、うーん。なんだろう。彼、ちょっと若いっぽいし、絶妙に賢くは無さそう。あの宰相の片腕として……裏を司る……というのなら、もう少し理知的というか、そういうヤツが組織を動かしていそうだと思ってたのに。


(なんとなくだが、偉いヤツの子供とかじゃないか?)


(ああ……ありそう。緋の月の首領の息子。うんうん。首領は……重要な任務で、いまは帝都に居ないとか? で。アイツが勝手に動いた……とか?)



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