459:帝都の外れ

 連れてこられたのは……白亜の城からかなり離れた……帝都内でもなんだか寂れた一角だった。


(訓練場……かな。塀があったもんな)


(騎士団の施設っぽいな。少々寂れているが。それにしてもこの帝都……は大きいな。城壁内とは思えない。カンパルラと桁違いだ)


 そう。ショゴスの言う通り。帝都は巨大だった。これが遺跡を利用して建造されたっていうのが信じられん。


 帝都は明らかに過去の古代遺跡を利用して作られた都市だ。上下水道、特に下水浄化処理施設も完璧に作動していると思う。城壁外にあった貧民街の臭いはやはり、後付け感が満載ってことか。


(……遠巻きに囲んでいる者を含めれば……多分、二百はいるんじゃないか? さすが帝国の裏の者達。数も質も高いってことだろうか?)


 お、おう。そんなに? 俺の慣れた感知範囲だと、直接対峙しそうなのが二十人。その周囲に五十ほど……っていうのは判っていたんだけど……。その、さらに外側にそれだけ配置されているのか。ああ、確かに。

 ……というか、微弱な魔力の瞬間的な感知に関してはもう、ショゴスさんに叶わないな……。なんで、あんな一瞬で全把握出来るんだろうか。


「さて。どう考えても話し合いの場……じゃないよな」


 五人くらいが前に出る。緋の月……って裏の組織なんだから……こうして表に出てきちゃダメなんじゃないの? 既に裏戦じゃないじゃん。


「商人サノブの部下、ノラム……お前は危険すぎる。我が主に変わり、我々が……」


「うーん。なんかおかしいな。そもそも、これ、は……いや、蒼の宰相さんの指示……なのかね?」


「良い。かかれ!」


 正面、左右、そして右後ろ、左斜め裏からの同時攻撃。おうおう。さらに飛び道具系暗器が三つ。


 さすが。


 一人を相手に取り囲んだ際の戦闘方法としては凄まじく効率的、そして、実用的な連携攻撃だ。ここまで完璧な撃ち込みは……向こうの世界でも受けたことがない。

 それこそ、世界最高峰と聞いた、シラザの裏機関ですら「一対多」の戦闘方法について追求しては居なかった。


 まあそりゃそうだよな。ぶっちゃけ、個の力なんかを否定することから始まるのが戦争力だ。どんなに腕力差があろうとも、アサルトライフル持たせてしまえば、圧倒的な差は生じない。


 である以上、倒すべきは個ではなく、集団。集団対集団の戦闘、又は、集団を狙う個を倒す戦術が重要になる。


 まあ、簡単に言えば。対人戦闘においては、モンスターハントは必要無いのだ。それこそ、この世界の冒険者は……強力な個対パーティ=集団……といった戦い方のエキスパートだ。だが、それは対モンスターの技であって人間に向ける技ではない。この壁は大きい。


(自分で自分をモンスターというのは少々いただけない)


 ショゴスは真面目だなぁ……。


(ああ、うん、すまん、ありがとな。ショゴス。でも、そういうことなのさ。だから、少々感動しているのよ)


 俺をそれだけの相手と認めて、それをどうにかする術を……実行しているということになる。


(そうか。ノラムの感動ポイントは色々とズレているところが多いな)


 そうかもしれない。が。現実問題、俺を囲んで潰そうと迫り来る緋の月の連中の動きは非常に美しかった。


 一日や二日の訓練で、こんなスムースに事が運ぶとは思えないし……誰か想定する敵がいなければ、この手の訓練は上手く行かない。


 つまり、こいつらは……オレ以前に、強大な個を相手に戦ったことがあるし、そうでなければ、俺がこんな所まで旅してきたかいが無い。


(ああ。確かに、この動き、配置は素晴らしいな。陣形とでも言うのだろうか? 渦巻きの様な形の……さらに魔術も使って、足元を……上手くコントロールしようとしている。土と風の術が……ああ、あっちにいる集団が協力して術を展開しているのか)


(そうだな……しかしこれは凄いな。確かに、俺が渦巻きの中心にいる……感じになるのか。第一陣こそ、捨て駒として直線的な動きになってしまうが……それをかいくぐった後に続く、第二陣、第三陣は、凄まじく滑らかな連携で、得物を斬り刻んでいく事になる……わけだ)


(さらに、多分、その頃には風を操ってるヤツと、土を操ってるヤツが、攻撃魔術を使ってくると思う。そもそも、アレ、もの凄く似てるぞ)


(ん? ああ、そうか。術士の運用が……魔族のソレか)


(ああ。アレは、アレを見ているから行える運用方法だし、その訓練な気がする)


 とりあえず、最初の謎が解けた。


(帝国の……少なくとも「腹黒」宰相は、以前から「魔族」を知っていた。そして、その戦い方も。つまりは、以前戦ったことがあった。帝国が……余りにも無茶な全方位侵略を開始したのは、とにかく急いで国力の上昇を求めた……結果か。いや、でも、それだけではちょっと無理があるな。それ以外にも理由はありそうだが、理由の一つではあるか)


(そうだと思う。魔術に対してかなりの知識を持つ帝国が、魔族に対してどのように対処したのか気になるな。楽勝な相手ではないのは間違い無いが)


(こうして……一人の強力な魔術士を取り囲んで……押し潰す。最初に突っ込んで来たこいつらは捨て駒になってでも、キッカケを作る。凄まじ訓練の日々を費やして……こういう凄まじい動きを身に付けた戦士を。捨て駒か)


(だからこそ、届くのでは無いか? 魔物の如き力を持つ者に)


(では、魔物として……その努力が及ばない時はどうなるのかを教えて差し上げよう)


ガッ!


 初撃……を担当していた者達、そして、俺に投げつけられていた暗器……全てが。【結界】に寄って動きを止める。


「なん……なんだと?」


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