458:お出迎え
冒険者ギルドの職員さんのお薦めな宿屋に泊まることにした。
狭いが……悪くない。コンパクトにまとまっていて良い部屋だ。冒険者でもそこそこの級の者で無いと定宿には出来ないんじゃないだろうか? この世界、兜を被っていたり、面当てをしている者もいるので、俺がマスクしてても怪しまれないのは良いな。
身分証明は冒険者カード、魔力? で行われているしな。
(帝都の城壁の中と外で結構大きく違ったな)
というか「腹黒」宰相をもってしても……貧富の差とかその辺の経済政策は上手く行って無いのかねぇ。切ないのう。
(ただ単に途中なのではないだろうか?)
(?)
(帝都の……周辺に住み着いている者達……まあ、ああいうのを貧民窟、スラムとかいうのだどう? 本格的なモノを初めて見た。とはいえあれはまだ、出来てから数年、十数年程度ではないだろうか? 作られている小屋や構造、そしてボロボロとはいえ新しさが垣間見えた)
そうだったか? 正直、隠蔽を考えながらの移動に忙しくて、ほぼ見ていなかった。結構大規模な、貧民街があるなぁ~程度しか覚えていない。
(この国は、周辺諸国へ拡大政策を行っているという話しだったろう?)
(ああ。ほぼ、全方位で侵攻を開始したって聞いた様な)
(つまり……この帝都には侵攻し、支配下に置いた国からの移民が集まりやすいのではないだろうか?)
おおー。確かに。この世界……平民に対する様々な権利や法政が整備されている……とは言いがたい。当然、敗戦国からの移民に対する制度などがしっかりと作られているとは思えない。
いくら「腹黒」宰相でも……そこまで手が回るとは思えない。
歴史上、戦場で活躍する様な、強烈な策略を駆使する軍師が内政やその手の人権的な思想まで優秀であった……なんて聞いたことがないもんな。その手の事は特に、何人、何十人もの優秀な人材が必要になってくるはずだし。
(そうだな。帝国が開戦したのって、近年だって言ってたから、その可能性は高いな……ショゴス、それにしても頭良いな)
(ありがとう)
素直で良い子だなぁ。
それにしても。そう、大事なのは。「腹黒」宰相が貧民街が出来たり、経済や社会的に色々と不具合が出る……というマイナス面を判っていなかったとは思えない。が、それをして尚、帝国は周辺各国に侵攻しなくてはならなかった。
つまり帝国の拡大戦略には……こうなっても仕方が無い理由があったということだ。アレだ、なんだっけ、領土を拡大していかないと、行き詰まってしまうなんていう国として末期状態に陥っていたとか? それにしては、ここまでの都市や帝都の様子を見ていると、本来の帝国国民……貴族は当然だろうけど、平民に経済的に追い詰められていなさそうなんだよなぁ。
それこそ……帝国の直前に寄った各国、それこそダーディド共和国の西端の城砦都市リクシードの方が国として、都市として生活は辛そうに見えた。
(何かあるのだろうな……理由が)
(ああ)
(そして……こんな真夜中にお呼びかな?)
(その様だ)
灯りは結構前に消えている。さらに気配を消して……存在を闇に融け込ませる。これ、最近出来る様になった技だ。帝国は魔力重視っぽいから、多分【魔力感知】で探知してきてると思う。
自分の魔力を曖昧にする……魔力操作がちょっと上達した気がする。
(確かに……これは私もノラムを捉えきれない……)
おう。思わぬショゴスさんのお墨付き。
カギがかけてあった部屋にいつの間にか出現する気配。まあ、うん。これ、俺だから気付けたけど、普通なら判らないよな。
うん。唐突に。後ろから羽交い締めにし、口も押さえる。
「どちら様……かな」
若干緩める。
「……ローレシア王国の商人……サノブ殿……の関係者……か?」
「おうおう。そういうことか。お迎えかね、緋の月の諸君」
……ビクッとか、そういう反応があったわけでは無いが、魔力に対しては幾つかの反応が返ってきた。
俺が諸君って言ったことに対する返事って感じかな。
(遠目に包囲していた者達は既に移動し始めたぞ)
ショゴスさん……それは感知しちゃうと、この人たちが可哀想なヤツじゃない? そうじゃない?
「で? どこへ行けばいい?」
「つ、ついてきて欲しい……」
「判った」
ということで、羽交い締めにしてた相手を離してやる。ちなみに、コイツは女だ。しかもまだ若い……背も小さいし子供……か。使い捨てにされたのだとしたら……。
「私は、緋の月、十本が一人、エタラ。ご、ご案内します」
お、おう。使い捨てにされた子供兵とかじゃなかった。十本が一人ってことは、前に自爆したヤツと同じクラス……幹部の一人ってことか。外見が若いだけで、実はって感じなんだろうか。エルフならありえるしな。
周囲を……包囲していた者が一斉に動き始めた。
おいおい。何人動員してるんだよ。俺ってそんなに……。
(そうされて仕方ないと思うのだが。話を聞くに、ノラムはこれだけ手練のスパイ達に、一切情報を持ち帰らせなかったのだろう? それは警戒するだろう?)
(まあ、そうか……で。いきなり、国境側の隣国からの連絡が入って……その二日後にはここに潜入してるんだもんな。そりゃ……焦るか)
(何よりも到着の時間がおかしいからな)
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