457:帝都

 この世界の貨幣は魔道具によって生み出される。各国の王家には、そういう魔道具があり、それを所有している事こそが、王家の証明でもあるそうだ。


 なので、街や村が国から独立して、どんなに規模が大きくなっても、貨幣の魔道具を手に入れられない集団は国として認められない。


 まあ、国宝なので当然見せて貰えていないが、聞いたところによると、貨幣の魔道具は「材料を入れると貨幣が出てくる」「古くなった貨幣を入れて必要分の材料を入れると新品の貨幣となって出てくる」という、貨幣経済を司る、製造とメンテナンスを一切受け持っている。

 ちなみに、この魔道具も古代の遺跡などから発見されたものだそうなので、新規製造は成功していないし、故障や劣化で動作しなくなり、完動品が徐々に減りつつあるらしい。


 この貨幣の魔道具も……帝国はかなり持ってそうだよなぁ。なんだっけな。古代遺跡とかもあるんだよな。確か。


「ああ、そういえば。帝都までの地図ってあるかな?」


 未だ料理人は緊張してる様だ。まあ、魔術士の力を知っていればいるだけ、怖いか。


「ち、地図は……俺は知らない……です。ただ、ここから西に向かって、帝国に入ったらそのまま街道を行くと、商業都市ロケンベレンに着くので、そこで、南西の街道を道なりに行けば帝都に着きます。帝国内の街道は標識も多くて、停車宿場も整備されてるので迷うことはないと思うます」


 ん~その街道を行かないから地図が欲しいんだが……まあ、大体のヤツはあるからいいか。手書きの。落書きチックな。


「国境の関所からロケンベレンまでは馬車で大体五日で、しょうか。ロケンベレンから帝都……リドハーレイまでは……十日くらいだったかと」


 マール馬車は、俺が想像する馬車よりもかなり速い。ある程度石等で舗装されている道であれば、時速50㎞はいけるのだ。彼が言ってる馬車は多分、日の出頃の朝出て、夕方に宿場に着いて……の繰り返しが一日になる。つまり、朝六時くらいに出発して、昼ぐらいに小休止。で、夕方四時着。八時間×50㎞で、一日400㎞か。

 つまり、商業都市ロケンベレンまでが2000㎞くらい。そこから帝都までは4000㎞くらいか。


 当然、街道周辺の地形とか判っていないので……ロケンベレンまで五時間くらいはかかるかもな。そこから帝都までが……その倍で十時間くらいか。朝早めに出て、日が昇るまでには着けるかな。


(「魔力感知」で周辺に何か無いか、細かく探知しながらだな)


(ああ。頼んだ)


 次の日の早朝。サノブと別れた……という偽装を行って、俺はノラムの、マスクを着けて走り始めた。

 帝国内に入ると、確かに、道が整備されていて非常に広い。馬車も進みやすいだろう。さすが。


 ってまあ、そんなのは関係無く、その脇を行くんだけどね。


 帝国国内は……思っていたよりも、森が多かった。広い道も森を切り開いて作ったのだろう。

 まあ、俺にとっては少々……視界が開けずに、走りにくい環境と言える。これは思ったよりも時間がかかるかもしれない……。


 朝早く出たにも関わらず、ロケンベレンに着いたのは日が暮れそうになっていた。慌てて、門前の誰何検閲の行列に並び、無事都市に入る事が出来た。危なかった。夜になると門が閉まっちゃうからね。

 

 宿を取り、次の日も早朝に出発した。街道を道なりに……目だたぬ様に走った。


 さすがに帝都に着いたのは、二日後の午後四時くらいだった。


(……デカい……ただひたすらにデカい)


(ああ。もう、なんていうか、今までの城砦都市がオモチャに思えてくるくらい、広い……な、そして白い)


 帝都リドハーレイは……度肝を抜かれるくらい大きく、壮麗だった。奥の方に見える白が白亜城と呼ばれていて、帝都の自慢の一つなんだそうだ。うん、もう、そんな感じ。白き城。日本のお城で白鷺城とかあったけど、アレはアレで美しいんだけど……もう、ああいうのとはちょっと格が違うというか。黒とか茶色の部分が無いもんな。

 どういう造りになっているのか判らないが、滑らかで……すべすべしていそうな白。そりゃ、誇りにもするわな。 


 そして、これまでの都市と違って、臭いもほぼしない。あ。いや、門前に作られた貧民街辺りはかなり香ばしかったな。確か。


 だが、城門の内側は浄化装置が効果を発しているのか、ほぼ臭わない。


(手入れもキチンと為されているということだろうな)


(そうだな。さすが「腹黒」のお膝元)


 サノブと違って、ノラムは冒険者登録しかしていない。級数もサノブと同じ陸級になっている。なので、とりあえず、冒険者ギルドへ向かう。


 今回、海外旅行をして判ったのだが、冒険者ギルドはどの国でも同じ様な雰囲気の造りになっている様だ。比較的空いているギルド内を見回して、おもむろに受付にいた職員さんに尋ねる。


「なんか、人が少ないね?」


「あ。はい、現在、国からの依頼が多く入っておりまして」


「ふーん。親征とか?」


「はい。それ以外にも、騎士団が処理していた魔物退治の依頼も重なっておりまして」


 まあ、そりゃそうか。


「逆に……薬草収集なんかのクエストは?」


「あ。そちらも……ポーションは幾ら合っても足りないものですから。困っております。あちらの特別報酬の方に張ってあるのですが……高額買取状態でして」


「なら、これを……ここに来るまでに採取してきたのでそれほど量はないですけど」


 と言って、魔術背嚢からホルベ草を三十ほど取り出す。道中にちょっとずつ集めていたとはいえ、直前まで【収納】に入っていたので、採れたて新鮮な状態だ。


「ありがとうございます! 常時発生のクエスト、クリアとなります。カードのご提示お願いいたします」


 カードを受け取って、魔道具で確認、何か操作している。これで貢献度なんかが加算されたハズだ。


「報酬は……カード払いでよろしいですか?」


「ええ。入れといてください」


 チャージされるのも便利だよなぁ……。大金を持ち歩かないで済む。


「はい。ありがとうございました。また、ホルベ草等を見つけられたら、よろしくお願い致します」


 




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