454:情報交換

 それにしてもこの沈降した臭い……それこそ、香水とかで相殺出来る様なもんじゃない。松戸は確実にこの城壁の内側に入れないな。


 魔道具があるのは、大抵、太古の昔からその地に都市が合った場合。無いのは砦など、国の都合で建造された周りに人が住み着いて……というパターン。


 城砦都市リクシードは後者ということになる。


 でと。


 ここがリクシードなら……街道沿いに数時間も行けば国境を越え、帝国の国境都市レクチェンに到着するハズだ。


 ということは。ここである程度の情報を得てから帝国に入りたいところだ。


(そうだな……しかし臭うな)


 そう。浄化装置は必須……と思ってしまうレベルで酷い。城砦都市は基本、城壁で囲まれている。そのため内部面積が十分に取れず、建造物はギュウギュウに密集して建造されていき……複雑な構造の迷路型の都市が完成する。


 結果、さらに臭いの逃げ場が無くなる。染みついた臭いに顔を歪めながら……路地裏を歩く。暗い。が、別に【気配】【魔法感知】で何も無いかのように歩く。


 ああ、この都市では夜に出歩く場合は、ランプ……を手から下げて、歩くのだな。それが普通か。俺がカンパルラに初めて訪れた時もそんなだったな。ちょっと忘れてた。


(なんか万里と一緒に映画で見た気がする)


(ローレシア王国にLEDランタンの魔道具を普及させて良かった)


 ドアに、中を確認出来るようになのか、横長の覗き溝が開いている。そこから漏れ出る灯り。少々怪しめだがこの街では普通の造りのようだ。ちなみにカンパルラであればガラスが使われている場合が多い。その辺、経済的な差があるのかもしれない。


 数件並んでいる酒場を横目にまずは宿屋に部屋を取る。ああ、この宿屋は一階が酒場になっているタイプの様だ。


 部屋が用意出来るか確認して、鍵をもらい、背負っていた魔術背嚢を置く。そのまま下に降りて、酒場のテーブルに腰掛けた。


 うん。当りだな。多分周りは行商人だ。


 食事をすまして酒を頼む。なんていうか、この国のこの地方では葡萄系の果実から作ったワインをジュースの様な別の飲み物で割ったものが普通に出てくる。シェールというらしい。何ていうか、サングリア……の不味い感じ? 


(不味いのか)


(そもそも、生ぬるいのがなぁあ。なんていうか、不純物も多いし)


 色々と浮いてるんだよな。とまあ、そんな飲み物を口に含み、出された干し肉をチビチビと囓る。


「ん? 新顔だな。行商かい?」


「ええ。帝国に向かおうかと思ってるんですが」


 酒臭い息を吐きながら、見るからに行商人は男が話しかけてきた。温和なビジネススマイルはそれなりに「出来る」事を物語っている。商いの規模が小さい行商では、人柄が全てだ。こうして初対面の人間にも普通に話かけてくるスキルくらいないとやっていけない。


 アレだ、究極は……テキ屋か。面白い話、口上を述べながら商品を売るスタイルが一番モノが売れる。さらに、ああそうか。アレだ、「見て見て見て見て見て」の実演販売も一緒か。


 まあ、ただこの手の話術を駆使出来る行商人は少ないので、様々な種類の商材を持って、町長や村長と交渉し、その村で必要なモノ、一切を請け負う……なんてやり方が普通であったりする。

 

「……帝国か。まあ、だよな。この街に来たって事はそうだよな」


「ん? 何か問題があるんですか?」


 すっと手を上げる。


「お姉さん、この方にお酒を」


「おう、すまねぇな」


 自分のジョッキを手に、俺の座っていたテーブルに移動する。


「俺はラージャン。この辺り……まあ、特に北側に足を運んでる」


「サノブです。香辛料などを主に扱っているんですが~帝国の西「最果ての砂漠」の方で珍しいモノが多いと聞きまして。仕入に行きたいと思って」


「うわ。砂漠かよ。よりによって……:」


「え? そうなんですか?」


「ああ。まあ、この都市じゃ既に公然の秘密ってヤツなんだが……。帝国は西で戦争を始めたらしい。その舞台はその「最果ての砂漠」って噂だ」


「……なんと」


「酒代に最新情報も教えてやるよ。昨日までは噂……だったんだがな。その噂は本当らしい。なんでも皇帝親征となるらしいぞ」


「親征?」


「アレだ、皇帝様自らが軍を率いて戦いに赴くってヤツだな。かの帝国が本気で動いたってことだ。ただな……」


「ただ?」


「親征してまで、本気でぶっ潰したい相手が……正直良く判っていないんだよな」


「西にそんな強大な敵がいたんですか? 聞いたことが無いんですが」


「ああ。砂漠の向こう側に幾つかの小国……オアシスを中心に生まれた部族国はいくつか存在する。だがなぁ~兵力的にはとんでもなく少数だ」


「……本当に西……なんですか?」


「ああ。それは間違い無いらしいぞ。ラージャン」


「お。モラン。何か聞いたか?」


 ドアを開けて入ってきた新しい行商人が近付いて来てテーブルに付いた。


「お。新顔か? モランだ。村単位で回ってる」


「サノブです。主に香辛料を扱ってます」


「サノブは「最果ての砂漠」の香辛料を狙ってきたらしいんだがな。親征は西に向かったんだろう?」


「ああ。それは確かだ。でな。親征の目的、敵なんだが。「最果ての砂漠」で発見された、サンドイーターの亜種か、グランドドラゴンでは無いかとの話しだ」


「なんだと? よりによってグ、グランドドラゴンか? 本当か?」


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