453:高原の紀行

 朝一の連絡船で国境となる海峡を越えた。乗り込んだのはまだ、日が昇る前だ。暗い中……船は進む。


 その際に目に止まったのは、やはり、街の明るさだ。ローレシア王国のルバン港湾都市とレデフ王国のシタン港。朝闇の中、船は出航したのだが、夜明け前だというのに非常に明るいレバン港に比べて、対岸のシタン港は非常に暗いのだ。


 LEDランタンの魔道具があるからそりゃそうだ……と言ってしまうのは簡単だ。実際、レデフ王国へLEDランタンの魔道具は関税によって倍近い値段になってしまう。これは、魔道具全体の税率なので、個別設定は出来ないし、逆も又それくらいの関税率なので致し方ない。


 つまり、仕方ない。国が違うのだからしょうがない。目の前で対岸に位置している関係上、比較してしまうのも当たり前……なのだが。


 明らかに印象が違いすぎる。ルバン港は凄まじく盛りあがって、儲かって、明るく正しく見えて、思えてしまうし、シタン港は寂れて、貧乏で、暗くやましい所がある……となってしまう。


 こいつは……多分、年月が経てば経つほど、明確な恨み辛みとなって、怨恨の理由になっていく可能性が高い……な。ちゅーか。LEDランタン一つにしても、ローレシア王国へのプレッシャーはかなりのものなのかもしれない。


 特製ポーションだけでも輸出品目として考えると……厄介だろうなぁと思ってたのに。

 

 正直、姫様には可哀想なことをしてしまった……気がしないでもない。無茶振りではめ込んでしまったし。


 国税で生活してきた以上は仕方ないか~。って姫様っ命賭けて軍人したり、国の為に結婚したりしてたんだっけ。結構過酷か。今度会うときはちょっと優しくしよう。


 出航したのは大体朝の四時。対岸のシタン港に着いたのは朝七時。約三時間の船旅となった。港街は朝一で戻ってきた船の魚介類を売る朝市でそれなりに賑わっている。

 この辺の浅い海にはそこまで強力な魔物はいないんだそうだ。なので、漁も普通に行われているという。


 街の規模はレバン港よりも……小さめ、か。


 まあ、その辺は国力も影響しているのだろう。レデフ王国は国面積からしてかなり小さい。手書きだから実際の所は判らないが、ローレシア王国の半分以下なのは間違い無いだろう。


 シタン港の関税を問題無く通過し、さっさと街道を外れる。ここからは……正規ルートを通らずに、直線でハーレイ帝国の帝都を目指す。

 そもそも、税関を抜けて移動して行ったら、正しい通過時間が記録されてしまう。すると、そのあり得ない移動時間に即逮捕レベルで怪しまれるハズだ。というか、書類偽造を疑われるのは確実だしね。


 なので、ここからは通常の街道ルートを使わずに、脚力で国境を越えていく。


 まあ、正確な場所、方向を知らないので、まずは、レデフ王国の西の端からクルスン王国へ入り横断。そのままダーディド共和国へ。共和国をさらに西へ。多分、今日の夜までに……このダーディド共和国の西側、帝国に近いどこかの村か街へ到達出来るはずだ。


(まあ判りやすくとにかく西へ、だな)


(仕方有るまい。多少方向を違えたとしても、サノブの脚力なら取り戻すのもそれほど大変な事でないしな)


 そうなんだよね。異世界も、太陽の沈む方角は西で合っているので、さすがにその大まかな方向までは間違えない。


 レバン港で買っておいたハンバーガー的な食べ物や、トルティーヤや、タコス的な食べ物を食べ、移動を開始する。


 とにかく……森を越え、山を越えて……西へ走る。予定通り夕方になりつつあるので、進行方向以外にも、村か街が無いか探す。


 この辺は高原的な地形が続く様だ。草原と、ちょっとした森、さらに岩場、低めの山、丘。観光ならね。もう少し色々と感動もあるんだろうけど。とりあえず、急ぐので風景をチラ見しながら、距離を稼いでいく。


 時間はあっという間に午後三時を過ぎた。


(……多分、【魔力感知】的に若干北だ。微弱だか……人族の集団を感じないか?)


(そう言われてみれば……)


 そう言われてみれば、だ。いや、ショゴスは……感知能力が高すぎだ。アンテナ感度が俺とは根本的に違うのだろうか? 確かに言われてみて、そちらに集中すれば、遥か北に都市が存在していそうだ。というのが判る。だが。言われないと判らない、気付けない。


(私は基本ノラムの能力を使用しているのだから、性能限界は同じだ。気付けるだけだ)

 

 感知に従って北に方向修正し走ると……確かに、カンパルラと同じレベルの大きさの城砦都市が現れた。それに伴い、街道も見える。あの道を西へ行けば、帝国の関所、そして国境が存在しているはずだ。


 城砦都市へは門を通らずに、壁をすり抜けた。


 商業ギルドらしき建物を見て、看板を読む。「商人互助会館リクシード支部」とある。


 そうか。ここが、ダーディド共和国の西端の城砦都市、リクシードか。


(手書き地図にあった街だな)


 なので……俺が走って来た方向は間違っていない。良かった。あまりにスピードが出ちゃうから、ちょっと怖かったんだよね。ショゴスが言ったとおり、取り戻すのも容易いのだが、道を外れるともの凄く大きく外れて終う可能性もある。正直、そろそろ街道脇を走った方がいいかもな……と思っていた頃合いだったのだ。気付いてくれたショゴス様々だ。


(それにしても……不快な匂い……空気だな)


(ああ。でも、こういうのが普通らしいぞ?)


 カンパルラもそうなのだが、昨日泊まったレバン港も太古の魔道具によって、上下水の設備が整っている。特に下水に浄化の魔道具が設置されているかどうかで……都市の印象が大きく変わる。


 街の規模が、一定の大きさより大きくなるかどうかは、国力も当然関係しているが、この上下水のシステムと、浄化の魔道具の有無が大きいんだそうだ。


 まあ、そりゃそうだよな。臭いのやだもんな。

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