452:さらに西へ。

 帝国へ向かうと簡単に言ってみたが。純粋に結構な距離がある。

 

 俺がかなりのスピードで走れるとは言っても、さすがに……十時間程度で到着出来る距離では無いことは、ドノバン様からいただいた簡略化された地図からも即、理解出来た。


 本当にアバウトに考えると。カンパルラから王都まではほぼ真西に……2,800㎞くらいだったと思う。この距離はこちらの世界の最速交通手段のマール馬車の超特急便に体力激減覚悟で乗車して、二日だったか。


 王都まで俺の足で五時間。驚異の瞬足である。正直【結界】「正式」を身に纏い、「風刃」「風盾」などの魔術を工夫&駆使している。正面からぶつかってくる空気の壁がかなりの障害になってくるのだ。これを切り拓くために、非常に微弱な「風刃」を前方に常に生成し、「風盾」で左右に流す。さらにそこに後方から「風槌」で後押しする。


 レベルアップや魔力による身体強化があってこそ出来る高速走法なので誰かと共に……というのは厳しいのだが、その分、とんでもない速度で移動が出来る。


 いや、だって、計算すると時速500~600㎞くらい出てるのですよ。ねぇ。おかしいでしょこれ。リニアモーターカーが時速500㎞だからね。まあ、でも、実際に走れちゃうんだからしょうがない。

 で。怖いのは障害になる人や物だよね。なので、街道はほぼ走れない。若干の森林破壊になってしまうが、森や林の中を駆け抜けることになる。今回もそうだ。


 王都までは問題無く到着した。約五時間ちょい。この移動方法は、なんとなく道筋を知っているのと知らないのとでは大きく違う。


(さあ、王都からさらに西へ。ローレシア王国の国境までは、カンパルラまでと同じくらいのハズだ。地図の縮尺が合っていれば)


(ああ、あの手書きの地図か。まあ、サノブは【周辺視】があるからな。走れば、この能力で周辺の地図がかなり正確に手に入る)


(……まあ、それをまとめてるのはショゴスだけどな。俺が同じ事をしようとしたら、多分、他に……【地図作成】なんていうスキルもあって、それを習得する必要があるんだと思う)


(そうかもしれないな)


 王都の次の目標となるのは遠方に見えている、ルバン港湾都市だ。この港街は国境の関所を兼ねていて、フーゴア海峡を挟んで、向いのレデフ王国のシタン港に定期連絡船で繋いでいる。


(これが異世界の海峡……か)


(大きな川ではないのか?)


(海水らしいよ。この辺は。もう少し上流に行くと淡水になって、川になるらしいけど)


 確かに向こう岸はギリギリ見えている感じだ。うーん。アレかな。青函連絡船、津軽海峡くらい? の距離はあるのかな?


 ここまで、早朝五時にカンパルラを出て、王都に着いたのが十時半くらい。で、さらに、国境の港が見下ろせる丘の上に着いた現在は午後六時。大体、日は落ちかけて、ジワジワと夕日になりつつある。


 えーっと王都からここまで、大体……七時間半か。初めての道筋で、かなり大回りして走っていたのもあるし、カンパルラ↔王都間と同じくらいの距離だと思っていたが、もうちょっと……それこそ、3,000㎞くらいはあったのかもしれない。


(今日はルバン港で宿泊だな)


(海の側だと、海産物が旨いってことか?)


(そうだと思うけど……この辺の海の魔物ってどんな感じだったかなぁ~漁が行われていて、食べれる魚があればいいけど)


(そうだな)


 商人として城壁を通り抜ける。港街とはいえ、陸地部分はほぼ、他の城砦都市と変わらない。都市の規模、大きさはカンパルラの約1.5倍程度か。とにかく港部分が大きいな。ここは確か、目の前のシタン港だけでなく、他にも様々な国、港に船を出している。ローレシア王国の西の貿易拠点として欠かせない都市だろう。


 既に日は落ちてしまった。城壁の外は……既に夜が満ちている。 


(賑やか……だな……というか、LEDランタン……か?)


 街の入口……門前の広場からズラッと、LEDランタンが灯されている。


(ああ、LEDランタンの魔道具だな。それなりに高く売ってるハズなのになぁ。こんなにあるのか……)


 繁華街……とまではいかないが、松明と、旧来の灯りの魔道具。そして、LEDランタンの魔道具が店前を照らしていて、非常に明るい。まあ、カンパルラは街灯のせいで、これ以上に明るいんだけどね。 

 

 まずは商業ギルドに顔を出し、行商人としての手続きを行う。何の問題も無く完了し、渡航の手続きもお願いする。


 そして。素直に商業ギルド推薦の宿屋に向かった。


(まあ、普通……だな)


(うん、そうお願いしたしな)


 部屋は俺くらいの……伍級の行商人が使う部屋としたら相当な方だと思う。小さいがシャワールームの様な水浴び場も付いている。

 ちなみに、商人ギルドのランクはグロウズ支部長にもっと上げても構わないと言われたのだが、普通を装うにはこれくらいが丁度良い。


(繁華街にあるせいか、結構な喧騒だな)


 宿屋の周囲からは、酒飲みの嬌声やそれに媚びる女の声。そして時たま破壊音と共に喧嘩らしき音も聞こえてくる。港街だけに漁師や船乗りが常駐しており、さらにそこに冒険者も加わって、夜の騒ぎには守備隊も関与しない事が多いらしい。


 ああ……でも。俺は何となく懐かしく感じていた。新宿や渋谷の深夜の飲み街。アレの激しいバージョンとでもいうのだろうか。


(たまにはこういうのも良いと思うんだよな)


(そうだろうか?)


 ショゴスは何だかんだでお子様だからな~。



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