451:ほうれんそう

「次はハーレイ帝国……か。カンパルラ領主としては、魔導帝国の方を気にしてもらえるとありがたいのだがな」


「そっちはもう、対策済みです。ドラゴンを増やす……のは時間がかかるので後回しですが、蟲は既に増殖中で」


「……ソレは……深淵の森の奥の……ドラゴンの話か? 蟲……というのは……」


「えーっとなんだっけ、体当たりで斬り刻んでくる……ソードクリステシャンだ。そいつを増やしておきましたので、東から魔族がここへ到達することは無いでしょう。多分」


 そう。そうなんですよ。忘れてたけど、あの蟲、角の部分が鋭くて、体当たりだけじゃ無くて斬り刻む系の攻撃もしてくるんだったわ。穴開けられない様に気をつけてたから、そればかり印象深かったけど。


「……ど、ドラゴンもだが……ソードクリステシャンは……「万の虫、ドラゴンをも倒す」のことわざの元になった凶悪な魔物ではないか……。数十匹に襲われて村が壊滅したなんていう事例もあるのだぞ?」


 うん、あいつら……ドラゴン食べてたしね。あまり繁殖させすぎてもマズイから、ある程度したら様子見にいかないとだけども。


「ヤツラは……主にドラゴン、そしてその蟲との戦闘を避け、逃げ回りながら深淵の森を突破した様です。まあ、鎧らしい鎧を装備していなかったのも、人族を舐めていたというよりも、森の中で行動できる様に、それを優先した結果だった様ですから」


「まあ、それは確かに……」


 ディーベルス閣下にも当然、捕虜からの各種情報や、王都や領都リドリスからの情報が届いている。統合するとそういう事になる……というのは理解してくれている様だ。


「カンパルラ、リドリスには念入りに、防護の魔道具を仕掛けました。もしも、自分がいないときに魔族が攻めて来たとしても、城壁の内部に引きこもって籠城作戦を選んでいただければ、そう簡単に負けませんし……被害も少なくて済むハズです」


「判った。特製ポーションもアレだけ納品されているわけだしな……。我々は我々でどうにかするしか無いな」


 特製ポーション……まあ、俺がダンジョンシステムが使えないため、【倉庫】も使えず、ダンジョンで採取した「新鮮な素材」が潤沢に使えたワケでは無い。が、エルフ達が森で集めた通常の素材は幾らも揃っていた。


 なので、それで出来る限り、それこそ、現在このカンパルラ城の薬品保管庫には万単位でポーションが積まれている。ここから必要と思われる全国へ、それこそ、王都へさえも、配送されていくことになる。

 細かい交渉は任せてしまったが、ディーベルス様と姫様が上手いことやってくれるハズだ。


 カンパルラには、旧辺境騎士団の代わりに第五騎士団の約半分が、新辺境騎士団として駐留することになっている。

 この第五騎士団は元々アーリィが副官を務めていた際に姫様が重用していた者達が多く、能力があるのに身分の無い、平民出身の騎士が多かった様だ。

 なので問題を起こすことも無く、ポーションを運ぶという重要任務をこなしながら、カンパルラの防衛にも当たっている。


「ギルドの方は……どうでしょうか?」


「……正直、ゲルグ……いや、ギルドマスター夫妻が亡くなってしまったのは大きな損失でな……しばらくは狂乱敗走スタンピードが起こらないことを願うしかない」


 ああ、そうか。カンパルラは三つのダンジョンに囲まれてるからな。それこそ、これまでは完全にこの都市の経済活動領域に含まれていた。なので「掌握」しようがなかったのだ。


「その辺はエルフ村にも伝え、エルフの冒険者がカンパルラに集うように指示しておきます。それでどうにかなりましょう」


「ああ。そうだな。すまない。サノブ殿には……助けられてばかりだというのに」


「くくく。私の策略で領主に「されて」しまった方の言うセリフではありませんよ」


「ふふ。そうだな。だが。この都市の民を、この国の国民を救ってくれたのは他ならぬ……」


「それは当然でしょう? 私の工房はここにあるのです。ポーションがここから全国に運ばれるのもそれが理由なのです」


「判った。すまない。気をつけて行って来てくれ。何かあれば国を盾にしてかまわん。姫様には……私の命で詫びよう」


「それをしたら、本気で怒られますよ」


「冗談ではないぞ」


「畏まりました。では、いざという時はそのように。それでは」


 執務室を出る。まあ、アレが本気なのが怖いところだよな。やはり、ディーベルス様には人の上に立つ素養がありすぎる。


(それにしても、近辺のダンジョンはさっさと掌握しておけばよかったのだろうか?)


(いや、向こうの世界に行く前は時間が無かったしな。不可能だったよ。さらに、何も考えずにやってしまったら、冒険者が集まりにくくなってしまう)


(まあ、現状ではどうにも……ダンジョンシステムの基幹が起動してない以上、掌握も不可能だけどな)


 ショゴスは、一部が分体として俺に付いてくるが、本体というか、約97%の存在が操作室に残り、何らかのアプローチが出来ないか試みてくれるそうだ。


(サノブの側にいたおかげで、エネルギーは3%程度回復している。なので、一年程度の活動は問題無い。それに分体をサノブの共をさせることで、その間中エネルギーが供給されることになる。再度、分体と合流した際に、その分のエネルギーが一気に回復するのでありがたい)

 

 とまあ、論理的な提案だったので、ショゴス分体は連れて行くことにした。まあ、正直、話相手としても優秀だし、何よりも各種情報の分析は凄まじいからなぁ。


 俺も同じ事をやろうと思えば出来るのだが、何よりも時間がかかる。


 それこそ、対峙した数十の敵がどのような魔術を使用してくるかの分析は俺の何百倍も速い。魔力感知から発生する様々な合わせ技を俺用に変換するスピードが段違いなのだ。


 さらに、力の根源に触れるような感知系のアプローチも非常にありがたい。彼の言う所の魔力と気力と神力……そして、それら全てが混ざったような混ざってないような龍脈からの大地力? なんてのもあるらしい。

 大地力は、工房の温泉に浸っているときに気がついた様だ。この力も色々と入り乱れているが、上手く使えればかなり有用らしい。


 そんな感じで遠出する準備を整えた俺とショゴスは。メイドズとマイアに見送られてハーレイ帝国に向かうべく、旅立った(走り出した)。






 

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