450:温泉はやはり望郷

 とはいえ……いくらオレの足でも……帝国までは結構時間がかかる……ハズだ。しかも、帝都がどこに有るのか判ってないし。


 あれか。一時期帝国に剣術指南役として派遣されていたドノバン様……あ。そうか。ドノバン様も辺境伯閣下が亡くなった今、彼が新しい辺境伯閣下か。に極秘扱いになっているハズの地図とか貰えないかな? 


 とりあえず、計画……旅行計画を立てるためにも、簡略版でもいいのでと、領主閣下にお願いしておいた。現在、ドノバン様はリドリス領の復興の為に奮闘しているらしいので、直で会いに行ってごちゃごちゃするよりは多分、いいだろう。裏の人たちを遣って、なる早で取り寄せるそうだ。いや、普通でいいのに。


 ということで、風呂に入る。


 ああ……染み渡る……地球への長期出張、そして、異世界への帰還直後の戦争騒ぎで一番……気になっていたのが「大きい風呂、いや、この工房の風呂に入りたい」だった。

 日本になら、いくらでも温泉や健康ランド、入浴施設はいくらでもあるんだけど、なんだかんだで人は多い。こうして、誰にも気兼ねせずに、温泉を満喫出来るってやはり、贅沢だよなぁ。


 なんか、財閥のトップとかそういうのの施設とかも散々見たし、壊し(燃やし)てきたけど、温泉施設はなかったなぁ~このレベルの風呂のある屋敷も無かったな……。


 あの人達、何が楽しくて生きてたんだろうか……と。自分が手を下した相手の事を考えたりもする。


 子供にも……手を掛けた。ああ。なんていうか。それが必要だったとはいえ。そう思い込もうとしているとはいえ。それだけは……という気もしていたのに。


「腹黒」と帝国宰相の事を呼んでいるが。とっくの昔に、俺はヤツと同じ側にいるのだ。ヤツとの違いは……直接手を下しているか、どうか、だ。それが、その事実が……もの凄く大きな差の様な気がし続けていて、ほんのちょっとズルイと思っているのだろうか。


 ちっせーな。人間として。あ。いや、俺、人間じゃ無くてハイエルフだった。……って考えると。残留思念ハイエルフ、AIの事を考えると……ハイエルフってみみっちい種族なんじゃないか? と思えてくる。つまりは、正直、あまり誇れる様な種族じゃないんじゃないかな? 長生きで冷静……な部分はあるかもしれないけどさ。子作り下手だし。


 と。無駄な事を考えながら、温泉に浸かり、身体を伸ばしてリラックスモードへ。

 まあ、望郷……とは違うが、カンパルラに帰りたい……と思えることが、精神的な辛さ、戦いの上では大事なんじゃ無いかと思ったりもする。


(のびのび温泉タイムに少々野暮なのだが)


(ん?)


(転職……のみなら何とかなりそうだ)


(お。そりゃスゴイ……何よりも、ありがたい。エルフ村でのポーション制作が軌道に乗りつつあるから、材料が結構余ってるんだよな。錬金術士になれれば、それも消化できる)


(判った。操作室に来てくれ)


(了解)


 風呂から上がって、そのまま、操作室に向かう。相変わらず暗いが、LEDランタンの魔道具を幾つか起動して明るさを確保する。


(んで? どうすればいい?)


(ちなみにだが……現在起動しているのは、ダンジョンシステムの基幹にになるOSのさらに下のシステムのみだ。それを強引に起動して、転職システムに繋げた。まあ、わかりやすく言うと、集中電源システムで管理されていたのを抜いて、直接コンセントに繋げた感じだろうか)


(なんで、それが出来るのかは判らないが、状況は確認した。で? どうすればいい?)


(ああ、そこのモニターを)


 操作室のメインデスクには、モニターが二つ用意されている。ちょっと豪華なパソコンデスクの様なもんだ。


 ん?


(付いてる?)


 メインのモニターの黒い盤面……に、白い……文字が表示されている。マジか。


■初級天職

・戦闘職:戦士、剣士、拳闘士、魔術士、癒術士、弓術士、盗賊、吟遊詩人、付与術士、

・非戦闘職:文官、商人、職人(鍛冶、彫金、裁縫、革細工、骨細工、錬金術)、料理人、狩人


 これは初期選択可能天職……か。マウスを合わせてクリックすればいいのかな? ん? 初級天職の部分をクリック出来……


■上級天職

・戦闘職:魔術師


 お。おお? 上級天職に、転職可能になってる。天職と転職、呼び方一緒でなんか判りにくいな。


(よくわからんが、村野の個人データとおぼしきデータイメージの中から、転職という部分だけで情報を収集して、それをまとめ直したら、上級天職の魔術師が登場した。だが、多分、これは……転職出来ないと思う)


カチカチ……。


 あ。うん。選べない。


(レベルアップのシステムがダンジョンシステムのかなり重要な要素になっていて、メインOSがきちんと作動しなければ、使えない様になっている。なので、村野のレベルは全ての転職で以前確認したときのまま、だ)


魔術士 :レベル82

錬金術士:レベル53

拳闘士 :レベル30


(さらに言えば、迷宮創造主ダンジョンマスターに関しては、ここに表示すら出来なかった。まあ、変えようが無いということなのか)


 ああ、まあ……なんていうか、俺は内部的に多分、既に魔術士レベル100なんだろう。で、レベル100になったことで、上級天職である魔術師に転職可能になった。


 だが、表示上のレベルは82のままだ。だから、転職対象として魔術師は選択出来ない。とか、かな?


(いやいやいや……ショゴス、これは本当にスゴイ。ありがたい。これで、ポーションを上手いこと作れる様になるし、補充も可能だ。カンパルラというか……この国は、今がポーションが必要な時期だし)


(ああ、そうだな)


 ということで、早速、錬金術士に転職し……特製ポーション制作マシーンと化した。エルフ達が集めていた材料のうち、余らせて痛みかけていた素材まで全て、余すところなく消化していった。


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