449:面会希望(殴りつけて案内させる)

「その緋の月が、帝国にいるっぽい「腹黒」と連絡を取るのに、無線……だか、魔道具なんだかの通信手段を持っていたっぽいんだよな。シロが言ってた気がする。まあ、消費……魔力が多すぎるとか、使える者が少ないとか、自由自在に何時でも使える……っていうワケではなさそうだけどね」


 松戸が思い出した様な顔をする。


「ああ、そういえば、確かに……相手の反応が異様に早かったことが合ったと……仰ってましたね。確かに、今回も……帝国の西に広がっているという広大な砂漠の、その向こうの国が襲撃されているっていう話です。そんな遠方の話が、隣国から王国に入ってきた行商人に伝わっている。まあ……何らかの通信装置無しで伝わってくる情報じゃないですよ」


「しかし……帝国も、かなり慌ててる……のかもしれないな。これまでこんな底の荒い……不自然な情報拡散はしてきてないよな」


「そうですね。はい。帝国に……それこそ、「腹黒」淡麗宰相にあるまじき行いです。あちらはあちらで何か大変なことに巻き込まれていると考えた方が良いでしょうね。それこそ……今回の魔族……シファーラ魔導合衆国の侵攻が予想外に脅威だとか」


 森下もかなり真面目な顔で……言ってるけれど。お前さりげなく、「腹黒」に淡麗とか訳分からない単語付け加えてるし。


「そっかー。うーん。そうだなぁ……まあ、帝国がやられてるの見ながら「やーいやーい」と指差しに行くのも良いか」


「……」


「あっちにしてみれば、自分の策略が尽く防がれて、さらに、子飼いの裏戦力も削られてる。さらに帝国に大した情報を渡してませんよね? これまでは」


「ああ、そうだな。これまでは。でも、今回の魔族軍を殲滅したことである程度大きくバレたんじゃ?」


「……それが。エルフの冒険者たちが頑張ってくれているのですが、まだ情報として正確性に欠けるんですが。王都どころか、国内の緋の月の者たちが……一斉に姿を消しています。まあ、つまりは、西での非常事態に、全戦力が本国に集められた……のかもしれません」


「え? じゃあ、「腹黒」の目とかが、遠くの丘の上から俺の戦闘シーンとかを見てて「アヤツか……」なんて感じで呟いたりして、それを「腹黒」に「これまでの謎が全て解けまして」なんて感じで報告とかしたりしてないの?」


「……酷いですね……本当に。御主人様は。してないと思いますよ? そんな余力が無かったんじゃ? 特に、西に注意が向いて……最東端であるカンパルラとかリドリスなんて、相手にしている場合じゃないって感じでしょうか」


 松戸のヤレヤレって顔は……なんていうか、もの凄くヤレヤレって感じだ。あ。森下。お前のそのヤレヤレは腹立たしいので止めておけ。


「ということで。御主人様は……帝都へ行きましょう。そしてまあ、私的には出来れば「腹黒」と会ってきていただければと思います。できれば御一緒したいところですが……御主人様お一人であれば……短時間で赴けますからね」


 え? やっぱり会うの? というか、森下は帝都とか、帝国を見たいだけじゃ無い? というか「腹黒」の顔を見たいだけじゃ?


「直接? っていうか、それは殺すのも有りってこと?」


「何故いきなり決着点に辿り着いてしまうのか判りませんが……場合によっては。会った結果、御主人様がそう判断したので有れば」


 いきなり森下の目がマジだ。


「そっか。暗殺では無く、とりあえず、会う。か。そうだよな。アレだけ賢いんだから、色々と考えてるし、選択肢は多いよな。こっちより」


「はい。かの宰相殿であれば……様々なケースを想定して、今後の事を考えて居られるのではないかと思われます。敵……としてのみ考えておりましたから。手を取るっていう事自体、あまり想像ができませんが……」


 そうだよなぁ……うーん。「腹黒」と握手……かぁ。


「……なんかやだなぁ……握手した瞬間になんていうか、黒い、暗黒のもやもやがこう、手を伝って、俺の中に入り込んでくる気がするよ」


「……それに関しては大丈夫です。多分ですが、生き物としては御主人様の方が「黒い」と思いますから」


「うんうん。「腹黒」極上宰相は、帝国の権力者、重鎮、そして軍師として、腹黒だと思いますけど~人間としてはもの凄く真っ当な人な予感がします。でなければ、緋の月があんなに忠誠を示さない気が。それこそ……凄まじく善人という可能性が高いですよ?」


 極上。


「え? 何? 俺が悪いの? 悪者なの?」


「あの。何年もかけて準備して、一般市民にほぼ被害も出さずに、ジワジワと上手いことやり込めようとしていた作戦なのに。尽く強引な力技でぶち壊してくる……正直、「酷いジャ○アン」みたいな存在が出現して……。こんなのをどう思います?」


「酷いジャ○アン? そりゃ……ムカツクし、なんか、理不尽に思うよね。というか、元々横暴でやりたい放題だったのが、さらにパワーアップってことでしょ? うん、やだよね」


「はい、その「いやだな」というのが、それが御主人様です」


「そうですね。帝国宰相様からすると、御主人様がソレですね」


 えぇ~。


(正しい判断に思える)


 しょ、ショゴスまで!


「そんなに?」


「そんなに」


「はい」


 そっか……まあ、そうかな? そんな気もしてきたな。


「じゃあ、現状把握共に、会いに行ってやるか。とんでもない敵を前にして、大忙しでどうにもアワアワしているのを指差し大爆笑しに」


「会えるとは限らないですけどね」


 そんなの帝国の大きい街、それこそ、帝都でちょっと踏み込めばいいだけじゃないかな? 


「御主人様、そういうところですよ?」


(もめ事起こす気まんまん……というか、乱暴者だな)

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