447:女の勘

「彼ら、深淵の森を正攻法で攻略して突破してきたわけではないそうです。自分たちの周囲に……亜人……人間やそれ以外の種族の奴隷を点在させて、それを餌にして敵と遭遇しないように移動してきたとか」


「それはここで捕らえてる捕虜からの情報?」


「はい。領主閣下に許可をいただきまして」


「そうか……つまり、ヤツラがこちら側に辿り着いたのは結構、運の要素も大きかった、と?」


「はい。そうです。なので……後続が現れないのはアムネア帝国のシステムや、彼らの派閥争いの結果……ではなくて、一番は純粋に「通り抜けられない」が正解な気がします」


「そうか。ドラゴンや蟲……が全部居なくなったわけじゃ無いもんな」


「……やっぱり……」


「御主人様。生態系を変えるような大暴れは……もう少々お気を付け下さい」


「……」


「森下が。捕虜から「深淵の森」を塞いでいた、脅威となっていた魔物……特にドラゴンと蟲の群れの数がガクンと減少したため、侵攻計画が立案されたというのを聞き出しまして。これはもしかしてと。御主人様はその……ダンジョンで、ドラゴンを倒しておられましたし」


「ダンジョン=養殖のドラゴンと、深淵の森=天然のドラゴン、どっちが美味しいのか比べちゃおうかな……くらいで殲滅とかしそうかな~って」


「……な、なんか沢山いたから……さ。狂乱敗走スタンピードに繋がったら困るな……と思ってさ」


「ええ、そうですよね。カンパルラのみんなの事を考えて。ですよね。ドラゴンは肉から血から骨から皮まで、何から何まで素材として美味しすぎる~こりゃストックは幾らあってもいいよなー。ダンジョンだと一部の特定アイテムしかドロップしないからな~。蟲はマジデうざいわ。とりあえず、魔術の実験台にぶっ潰しとこう……なんてことではないですよね~」


ギクッ


「……」


「……」


「森下……その能力スゴいわね……。多分、全部当りよ」


「くふふ。さすごしゅの事になると、超絶的中率上がる気がしますよー」


 ……正直、結構怖いぞ。


「まあ、うん、で。まあ……それは置いといて。現状をさ。説明しておくと」


 王都で入手した諸情報を彼女達に伝える。


「確かに……気になりますね。西っていうキーワードが。シロメイド長からの伝言にもあるのは」


「シロメイド長が消失した時期とその西で何かが起こったであろう時期……大体ですが計算すると合致する気がします。関係性は高そうですね。大障壁ですか……それに大穴を穿ったことでシロメイド長が消失したとしたら」


「アレだ、シロの件は、システムダウンだとして考えるのなら。過電流的に……過神力というか。で、間にUPS(無停電電源装置)が無い。そうなるとどこかで焼き付きが起こってるよなぁ。基板やパーツを交換しないとダメなんだろうあぁ」


「その辺は……ちょっと良く判らないすー」


「まあ、俺も詳細はショゴス任せだ」


「シロメイド長の言う事を聞かずに……保護していて良かったですね……。正直、今回の件、ショゴスさんがいなければ……どうなっていたか」


「そうですよねー。そもそも、御主人様、こっちの世界に戻れなかったのでは?」


「そうだな。ショゴスが命ギリギリまでエネルギーを使用して、俺をこっちに引き込んでくれた」


「あの、さっきの深淵の森……の件なんですが。そこまで沢山じゃ無いにしても、今よりも魔物を増やすことが出来れば……援軍や追加増援、再侵攻なんかも防げるかと思うのですが」


「ああ~でもドラゴンってそんなに増えないって聞いたな。繁殖能力低いって」


「そうですか」


「あ。でも……蟲なら……」


「蟲……ですか?」


「昆虫のカナブンの様な……形で、大きさは十倍くらい大きい。超高速で飛び回り、敵を貫く。敵を穴だらけにして倒した後はみんなで捕食する。まあ、肉食超硬外骨格昆虫魔物とでもいうのかな。俺は蟲って呼んでるけど……アイツなら、群れに餌を与えれば……簡単に増殖しそうだ」


「そ、そんな魔物が……結構怖い」


「蟲……確かに、繁殖力は高そうですね」


「正直、俺はドラゴンよりもそいつらの方がうっとうしかった。燃やしても燃やしてもキリが無いから」


「そいつらの主食は?」


「俺が見た限りだと、腐肉っぽいのに群がってたな。まあ、とにかく肉なんだろう。それこそ、オークとか、ゴブリンの死体を、蟲の群れに向かって投げておけば……大繁殖する可能性は高い……か」


「それを……しましょう」


「ん? どういうこと? 森下」


「あの、御主人様は……この後、アムネア魔導帝国を潰しに行こうと思っていらしたと思うのですが」


ギクッ


「……な、なんでそう思った?」


「女の勘です」


 怖っ。なんでバレてる?


「御主人様は……冷静でいるように見えて、そうでもないというのが判ってきました。そして、行き当たりばったりすぎです。持っている能力で全て打破出来ているから良いのですが……ですが、世界には様々な壁が存在するかもしれません。このままだとそれに気づいた時には、既に遅い……という致命的な結果に繋がりかねません」


(その通り)


 ショゴスまで!

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