445:西にはあるんだ

 つまりは。捕虜となっている奴隷「司令官君」の言ってる事が真実だとするのなら。


 皇帝は無駄な対抗心、自尊心の為に、偉業を成し続けるシファーラ合衆国に嫉妬して……今回の遠征を企て、命令し、それに応えると共に、自分たちの欲望を満たそうとその配下達が競い合い……最も早く派兵できたのが、ハーシャリス閥軍だった……と。


 くだらない。本当にくだらない。


 だが、その暴力は……本物だ。特に魔術についてここまで希薄になっているこちら側の大陸では、相性が悪すぎる。幼稚園児レベルの思考に核武装させている様なもんだ。


 そんなもんの為に……ギルドマスター夫妻が殺されたのかと思うと……カンパルラの冒険者や守備隊の兵士が殺されたのかと思うとムカムカしてくる。正直、串刺し、磔の仕返しを……どうしてくれよう……という思いが大きくなる。


 と、まあ、感情的なモノは置いておいて。


 王国の事は姫様……というか、アーリィに任せて。カンパルラに戻ってきた。魔族は……殲滅した者達以外、全て逃がさなかったのでとりあえず、現時点では王国内に不穏分子は存在しない。


 が。王都で最後に情報収集した結果、帝国の西「最果ての砂漠」に存在する砂上国家群が謎の軍隊に襲われて壊滅状態らしい。


 よく考えなくても、距離的に、介在する国的にこの情報がこのタイミングで手に入る事がおかしい気もするが。

 ……まあ、意図して流されたものだとしても、真実であるのならかなり重要な内容だ。というか、真実だろう。

 

 図らずも、「指揮官君」から得た情報と合致するしな。


(西……シファーラとか言う魔族の国が攻めてきた……から、シロメイド長を含めたダンジョンシステムが起動停止したというのは、関連付けて考えるべきだろうな)


(そうだな……。西ってキーワードが余りにも強いし、タイミング的にも多分、それくらいの話しだし。ああ。それよりも、だ)


(ダンジョンシステムの一部再起動……だな)


 ああ、やはり、松戸、森下の入れてくれたお茶は旨い。二人がいなかった時は唯々お湯に茶葉をぶっ込んで飲むだけだったのが、二人がいればその時の俺の体調に合わせた感じの、様々な茶葉が絶妙に混合されたお茶が出てくる。

 それこそ、烏龍茶っぽいのとか、ジャスミン茶とか、緑茶、紅茶、焙じ茶……地球の茶葉とこちらの世界の茶葉が混ざり合って、複雑な味を生み出している。

 さらに、最近はコーヒーも加わっている。こないだ向こうで海外滞在が多くて、コーヒーばかり飲んでいたらそれがクセになってしまったのだ。


(確かに……ダンジョンコアのエネルギーは村野がこちらの世界に戻ってから少しずつ蓄積されているが……)


(……正直、レベルが上がらないのは厳しい)


(そう……か。というか、現時点でも、村野は尋常じゃ無く強いと思うんだが……)


(ああ。ハーシャリス閥軍……レベルであれば、どれだけ居ても問題無いと思うんだが……なんかさ、アムネア魔導帝国って……四天王の中では最弱レベルじゃない?)


(……まあ、あの迂闊っぷりを考えると……)


(四天王所か、向こうの大陸には十以上の国があるんだよな……その中でも最弱レベル……と思ってもいいかもしれない)


 そうなってくると、俺の戦力強化をしていかなければ……ヤバイ気がする。

 それこそ「指揮官君」の必殺技、なんだっけ……魔道具による……大殺界だっけ? あの時に……それこそギルドマスターの妻の「無名」サーマラ、彼女レベルの戦士がいたら……いくら「切り裂きの剣」がチートアイテムでも、装備している鎧がエンチャントスゴくても、勝てなかったのではないだろうか? 


 まあ、リアルなところで言えば【結界】の使い方次第か。俺の切り札である【結界】を上手く使いこなせるかどうか、なんだろうな。


(なので……それこそさ。俺が負けることは無くても、勝てない、足止めされる……なんてことは多々発生しそうな気がするんだよな)


(……確かに、その程度であれば有り得る話しだな)


(な? レベルアップしておきたいだろ?)


(了解した。そうだな。時間停止とか瞬間移動、不死なんていうとんでもない能力を得られても、隙を付かれることもあるわけだからな)


(そういう物語があったか)


(あった。考え得る限り欠点のない、倒すことは不可能じゃ無いか? という能力を持つ敵にも、なんらかの弱点があったからな。村野が思い通りにならないレベルの敵や戦い方も存在するのだろうな)


(ということで、探ってくれないか?)


(判った。全力を尽くそう)


 ぶっちゃけ、操作室でダンジョンコアにアクセスし、システムを解析する作業を行うことで、ショゴスは何かと消耗するらしい。


 他のダンジョンのダンジョンコアを取り込んだことによって、ショゴスは、操作室での活動が可能になっている、操作室に滞在することも問題無いという。が。そこでダンジョンシステムに干渉しようとすると、話しは別だそうだ。作業している最中、常に、排除しようという精神的な攻撃を受け続けるのだという。


 ハッキリとは言わないが、文字通り命がけの作業の様だ。


 それをお願いしている俺も酷いとは思うのだが……現状、ダンジョンシステムに関してはショゴスに頼るしか方法がないのだ。


 さらに全部は厳しいが、一部であれば……というリアルな妥協点を提示してくれたことも期待に変換されてしまう。


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