444:封印の地

 色々と可愛がった次の日。とりあえず、アーリィと共に、事情聴取のために城の牢獄に捕らえられている「指揮官君」に会いに行く。


 牢獄……その脇にある取調室に連れてこられた「指揮官君」は薄汚れ、疲れた感じだった。全身から血を流して失神した跡が付いたままの服……だしね。首輪が痛々しい。外さないけど。


「さてと。姫様の命令に服従するように変更はしたけれど。アレだよね。強制力は最初に服従させた者に最大の支配力を発揮するって聞いたよ。嘘偽りなく答えて欲しいのだけれど」


「……判っ……判りました」


「ああ、口調は偉そうでもいいよ。別に。そんな小さいことは気にしない。くだらないプライドで命を捨て続ける魔族なんていうレベルの低い種族とは違うからさ」


「く……」


「でだ。君らの軍。ハーシャリス閥軍だったかな? それの後続部隊が未だ現れないのはなぜかな?」


「……亜人の国、亜人の軍なぞに、我が国の軍が破れるなどあり得ない……からだ。一閥軍で十分ということだな」


「それにしたって……まあ、上手いことローレシア王国の軍を排除したとしよう……その後、どうやって支配しようとしていたのさ」


「戦域を広げられるだけ広げ……各国を襲撃し、奴隷を増やし、大半を東へ運ぶ予定となっていた」


「……つまり、こちらの土地、国を支配化に置いて……という心づもりは無かった?」


「いや、属国化、荘園化等、今後考えられる予定だった。とりあえず、我々は深淵の森の調査と共に、その後、出来る限り奴隷を確保せよと命令されていた」


(っていうか何だその行き当たりバッタリな侵攻)


(そのようだ。つまりは……後継部隊が居ないことも、計画性が存在しないからなのだな。そこまで急ぐ理由が?)


「そもそも。そこまで急いで奴隷の確保が必要だったのか?」


 アーリィが問いかける。


「ああ、そうだ……我が国……アムネア魔導帝国は現在、クロトネア真正帝国に脅かされている。国境線は常に小競り合いが発生しており、何時、本格的な戦争に突入してもおかしく無い。最も需要があるのが、単純な労働力として使用する亜人奴隷だ。最も失われやすい存在でもあるため、奴隷の温存も行われてきたが、最近特に減少が著しい。なので……」


「本当か?」


「ほ、本当だ。……そもそも、大陸の覇権を争う大戦争時代は、既に三百年もの間続いている。その間、奴隷の確保は各国で大問題になっている……」


「で、本当の所を言え」


「……ぐ、ぐう……我が国よりも遥か東に位置する……シファーラま、魔導合衆国が、東域制覇に成功し……無限大障壁に穴を開け……東方の地図を……描き変えた。それに対抗した……ワケでは無いと思うが、魔導皇帝陛下は、西域討伐の勅命を出された。……準備の整った我々ハーシャリス閥が出陣となっ、たのだ。て、手柄は、先駆けた順となる。なので、他閥の軍は我々に何かがあったと伝わらぬ限り、派兵することはで、出来ない……そもそも、クロトネア軍に対応する為に、そこまでの余力は無い」


 ああ、この辺がもの凄く機密だったり、本音部分だったり……まあ、こいつが考えている「伝えたくない真相」なのだろうな。


(……結構大きい……情報だな……新事実多数で分析しがいがあるぞ)


(ああ)


(まず、シファーラ魔導合衆国という国が、東域を制覇して……無限大障壁に穴を開けた?)


「「無限大障壁」とは何だ?」


「東域のはるか向こう……に、古の昔よりそびえ立つ……大障壁……長大で高層な壁だ。高さは空よりも先まで届き、計り知れないくらい遠くまで続く。その壁は、決して越える事が出来ない。邪神によって作られたと言われている」


「それに? 穴を開けた?」


「魔導合衆国の……リエタ連邦軍が突破に成功し、障壁に飛竜部隊が通り抜けできる大穴を開けて維持することに成功……したそうだ。こ、これまでにもリエタ連邦は何度か飛竜部隊の一部が壁を突破していたが、穴を開け続けられているのが、い、偉業らしい」


「……そんな遥か遠い国の軍の作戦行動が……何故、そんな詳細に伝わっている?」


「シファーラは自分たちの東域制圧を、大々的に喧伝しているのだ。魔道具による映像を各国に送り付けてくる。大障壁に穴が開いたことは……その翌日には世界各国が知る所になった」


(……自分たちの偉業を誇るっていう感じだろうか?)


 魔族が軒並みプライドが高いのであれば……その可能性は高いか。


(自分たちの強さを誇る、威圧の一つかもしれないな。示威行為というか……ちょっと待て。翌日には各国に映像が届く?)


「魔族は……魔道具による長距離通信の技術を持っているのか」


「……長距離……通信……ああ。接続の魔道具は大陸の端から端まで瞬時に繋がる。「封印の地」では一切繋がらないがな」


「封印の地?」


「……この……今、私のいる、真人以外の国が集まった土地のことだ。深淵の森より西……そして、無限大障壁より東の地となる」


(そうか……この世界も惑星……球状なのだな……つまり、この地から遙か西に無限大障壁があると)


(……西っ!?)


(シロメイド長が……言い残した……遥か西で大きなトラブルが発生。システム全体のエネルギーレベルが低下。西で何かあった……っていうのと一致したりしないだろうか?)


(それな)


 

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