442:辺境騎士団、団長から

 二日後。戦女神が辺境騎士団と共に王都に凱旋した。


 この二日間で、王都を救ったのは戦女神、マシェリエル辺境騎士団団長の仮面を付けた部下「達」だ……という噂話が王都中で囁かれていた。


 そして、それは、(結果的に)真っ先に駆けつけたマシェリエル団長がそれまで閉ざされていた王城の門を開き、王城を開放したことで真実となる。


 王宮の……城門の手前側に位置する迎賓館は……正直、俺が暴れたせいでボロボロだったが、それ以外は所々に血の跡があるだけで、キレイなモノだった。


 今、俺が居る場所も、王宮の執務室、謁見の間の控えの間となるらしいが、略奪の憂き目にあったとは思えない。重厚で落ち着いた雰囲気に満ちている。


「色々と思う所はあるでしょうが……マシェリエル殿下は御自分の采配で王都を奪還したということで」


「の、ノラム殿……その……それは……余りにも図々しく、余りにも薄汚い所業となるのではないだろうか? そなたの偉業を横取りするような……」


「構いません。マシェリエル殿下は……我が雇い主であるノラム様に何かと融通していただいているカンパルラ子爵殿下を重用されております。その恩はこの程度で返せたとは……」


「……それにしても……」


「多少でも、そうお思いであれば……我が主サノブ様は表舞台に立つことを好みません。隠れてコソコソと、悠々自適な生活をするのがお好みで、だらしない人生を送ることが目標と常日頃口にしているくらいの……所謂変人でございます。故に史上の褒美となるのが、手柄の横取りでございます。まあ、誰にでも横取りされて良い……わけではありません。当然、我が主のお眼鏡に適わなければ、手を貸すことすらありません。つまりは殿下に賭けた……ということになります」


 それでもまだ……生真面目な姫様は納得がいかないようだ。


「それに……この混乱は……その……殿下御自身に、陛下となっていただいて御親政いただかなければ収集付かないでしょう……。なので戦女神には英雄になっていただく必要がございます。それでなければこの国は救えない……くらいの状況ではないか、と」


 辺境騎士団団長であった殿下が……既に陛下の位置、この謁見の間の控えでも、上座に座らされている。まあ、お供はアーリィのみだ。久々~っていうのをマスク越しになんとなく伝える。


 まあ、賢い方なので、それが致し方ないというのも判っておられる。なぜなら……王城にいた王族は他に誰も生き残っていないからだ。王族には他に人が無く、公爵家には存在する様だが非常に血は薄くなるらしい。


「その上で。王となる、女王となって国を率いる……というのは存外に過酷で重労働でございます。特に……殿下のように民の事を慮る真面目な為政者には……執務地獄が待ち受けている事かと。そのようなお立場に立たせてしまったこと……申し訳なく存じます」


「……それは……いい。私が王家の血を。一族の血を引いている以上、避けては通れぬ道だろうしな。そもそも……ノラム殿がいなければ……この国は無くなっていたのだ」


「そう言っていただけると、この手に犯した罪が若干軽くなった様です。ああ。今回の動乱を避けて、敵前逃亡した王都周辺の一部貴族が相当数、魔族に討たれております。それらの領地は全て、王領としてて接収していただければ。さらに有力と呼ばれている様な大貴族も領民からの評判の悪い家は強制でお取り潰しになさるのがよろしいかと。魔族に寝返った……という外患誘致罪が適応されましょう。その辺のことは、王都守備騎士団のゴーバン団長が詳しいかと思いますので、後日お声がけを。というか、彼は全てを知った上で……です。王国第一騎士団の団長も相応しい人材かと」


「あ。ああ。判った」


「さらに。魔族の奴隷が約三千人ほど。隷属の首輪付きで確保してございます。その指揮権をマシェリエル殿下におあずけ致します。国内の仕置きや、他国との最前線で使い潰すのもよろしいかと」


「捕虜として、身代金などを……というのは無理なのだよな?」


「はい。カンパルラで、殿下も直接ご覧になったかと思いますが……彼らの国自体が、我々を亜人として、「話をする」用意がございません。ですので、彼らは魔術を使えることを生かした奴隷兵としてしか運用方法は無く」


「理解した。ではそのように計る。それにしても……西では何が起こったというのか……」


「判りません。帝国もきな臭くなっているとの商人からの情報もあります。気になりますが……」


「ああ。東だな……。今回の大元の」


「はい。ヤツラが深淵の森を越えてきた……となると、さらに追加の軍が派遣されないとは言いきれません」


「そうだな……ああ、その通りだ。厄介で、きりの無い話だ」


 正直、この状況で女王として即位せよ……っていうのは酷だよな。姫様に少々同情してしまう。


「それにしても深淵の森の向こう……の話か。おとぎ話だぞ? 子供の頃に呼んだ絵本の話だ。悪い子でいると魔族がやって来て攫ってしまうぞ? と。現実問題として、サノブ殿とノラム殿がいなければ、我が国民の多くが……隷属の首輪を付けられて、攫われていた」


「我が雇い主であるサノブ様はともかく、私は呼び捨てでお願い致します。陛下となられる方に畏まれては、居場所がなくなってしまいます」


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