441:ゴミ掃除

 正門前で指揮を執っていたのは、さっき話かけた片腕の騎士だ。正門脇の本来なら身元確認を行う建物が、指揮所になっている様だ。


「名乗っていなかったな……私は王都守備騎士団、騎士団長のゴーバン・シャルツだ。感謝する」


「ノラムだ。カンパルラから来た。西門前にいた魔族の軍隊は俺が掌握した」


「そうか。すまない。魔族の軍は余りに圧倒的でな。守備騎士団は一瞬で壊滅し、騎士団地区に在留していた騎士団も尽く討ち取られてしまった。特に……我々と共に戦った王国第一騎士団は……団長のシールズ閣下を含め、ほぼ全員が散った。第六、第七もほぼ壊滅のハズだ。壁があって中に入れないと報告を受けたのだが、王城内は大丈夫なのだろうか? 近衛騎士団や筆頭魔術士の方々は……王家の方々が磔にされていた……等という不穏な噂も流れていてな」


 えーっと。第一王国騎士団は王都をの守備の要で、第二、第三、第四、第五は西側の国境付近、砦に配置されるんだっけ。で。第六、第七、第八が交代で国内の魔物退治を主な仕事にしているとか聞いた気がする。


「王城の壁は俺が施した。王城内は……残念ながら誰一人生き残っていない。それを為した魔族は全員殺したが」


「そ、そうか……その……壁はどうにか……ならんのだろうか?」


「どういう意味だ?」


「実は……状況が変化したためか、斥候や連絡兵が行き来出来る様になってな。情報が行き渡ったからか、魔族軍の被害に合わなかった領から、王都に兵が向かってきている。その際、最も重要になるのが王城……でな」


「王城の壁は、現時点でローレシア王国唯一の王族、マシェリエル・ケレル・ローレシア閣下が王都に入られて初めて解除される。例外はない」


「な……なんと……で、では、王城に居られた方々は……」


「全滅だ。そこから早々に逃げ出していた……なんていう臆病者がいるのであれば別だが」


「そこの仮面が、王都奪還の立役者か! 御苦労! 褒めて遣わす!」


 そこには数名の騎士……が部屋に入って来ていた。中央に明らかにキラキラした鎧。目の前の片腕……えっと、ゴーバン団長の鎧も中々にゴージャスだが、それとはもう、根本が違う。


「我こそは、シージャット・ノルデン子爵である! 王都の危機に早急に駆けつけた。仮面、お前に案内を命ずる。我が手足となって王城へ案内せよ」


「ん?」


「先ほどから……お前を待っていたのだ。ノルデン子爵だ」


 ゴーバン団長が小声で囁いた。


「早くしろ。それとキチンと名乗らぬか。それとも名も無いか。下賎の者なら仕方ないな」


「……なあ、こいつの評判は? 本当の所を教えろ」

 

 団長に向かって威圧する。一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに冷静な顔に戻った。俺にだけ聞こえる様な声で……。

 

「王都から逃亡した。敵前逃亡だな。恥知らずにも今頃駆けつけて功を口にする事から判る様に、厚顔無恥で愚物だ」


「こいつの領の……税率は?」


「確か……八公二民」


ザクッ


 無言で切り裂きの剣で突き刺した。お付きの騎士もついでに殺す。


「あ……お……おまえ……」


「今ココには何も来なかった。な? ゴーバン団長」


 ゴーバン団長が、目を見開いて頷く。幸い、この場には彼しかいない。ほぼ、王都に散らばって、全員出払っているのだ。


「なんとか子爵は魔族に殺された。良いか?」


「あ、ああ……」


「お前は……その……戦女神の……姫殿下の部下……なのだよな?」


「んーそうだな……姫様の友人の部下といったところか」


「そ、そうか」


「なので、今後の邪魔になりそうなヤツは魔族でなくても殺していく。後腐れ無くていいだろう?」


(殺しすぎると……人材不足にはならないか?)


(この王国に大した人材などいないよ。さっきのだって、アーリィほどじゃなくても……それこそ、ドノバン様であれば余裕で躱したはずだ)


「ゴーバン団長。貴方はこの国の為に命を賭けた英雄だ。民を守ろうと片腕を失っても必死で戦っていたのが判る。なので……今みたいな……そうだな。姫様の治世に邪魔になりそうな面倒くさい貴族が来たら……呼んでくれればいい」


「……わ、わかっ……た」


 とはいえ……この死体は……邪魔だな……。


(あ……)


 お。魔力が……戻ったな。魔術が使用可能になったか。


 あの魔道具、高性能だよな。あんな小さいのに王都全域に影響を及ぼしちゃうなんて。「指揮官君」の隠し球ってヤツだしな。


【結界】「正式」で三人を包み込み……その中へ【太陽火球】を発生させる。


「ぐあっ! 目、目がっ!」


 団長が叫び声をあげた。


 うん、適当に設置した【結界】はダメだったけど、今のレベルでキチンと構築した【結界】「正式」なら、「太陽火球」の温度や効果を遮断出来た。


 まあ、俺は。ちゃんと目をつぶった。


「とまあ、こんな風に……何一つ……塵一つ残らない。団長。言うまでも無いが……」


 やっと視力が戻ってきたのか、目をしばたかせながら、団長が頷く。


 騎士の遺体が転がっていた場所……には何一つ残っていなかった。フルプレートの鎧すら……燃え尽きてしまった。


「あ、ああ。判った。お、俺は元々平民で叙爵したのも、訓練時にひ、姫様に目をかけていただいたからだ。う、裏切る様な事は絶対にしない」


「ならよかった。では。上手いことやろうか」


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