438:ビリビリする感覚
へー。
魔力を消失した感覚……っていうのはこういう感じになるのか。確実な喪失感。確実な無能感。
周囲は魔術が使えないとはいえ、魔族の魔術士=兵士が二千人弱。さらに、敵の「指揮官君」は最後に命を駆けて、俺の殺害の命令を出している。
魔術は使えなくなっているが、ヤツラも軍人だ。大抵は短剣を腰に佩いているし、両手杖や片手杖は鈍器として使用可能だろう。
うん、いいじゃないか。
うん、いい。これいいな。なんていうか、いい。
久々だ。なんだろう。初めてのダンジョンというか、周回し始めというか。アレか。あの時の感覚か。
全身の末端から……何かが痺れ出ている様な……ビリビリする。危険しか存在しない。
(ノラムは……なんていうか……ちょっとおかしいな)
(そうだろうか?)
(どうして……絶望しないのか)
(あれ? 俺の心情って伝わってるんじゃないの?)
(絶望していない、ワクワクしているという感情が強くて他は……うーん。魔術をあそこまで使うノラムが……魔術を封じられてここまで平気、普通……などと言う事はあるのだろうか?)
ああ、うん、まあ、この最終決戦感。悪くない。
(楽しそう……だ)
うん、まあ、そうなんだよね。うん。そもそもさ。俺が一番最初に倒した魔物はゴブリンなんだけどさ。
(ああ。緑の肌の)
(そうそう。見たことあったっけ?)
(私が万里と飛ばされたダンジョン……グノンのダンジョンだったか、あそこにホブゴブリンがいた。ホブゴブリンというのは,身体の大きなゴブリンの事だ……と聞いた気がする。アレは緑だった)
その通り。ああ、そうか、ダンジョンの魔物も喰わないと、エネルギーを補充出来なかったんだっけかか。
(そうだな。消化する作業等の変換効率が良くないのであまり使用したくないが、何も無ければそれしかない……というか、いいのか? ヤツラ攻撃態勢を取りつつあるぞ?)
目の前の魔族達が……各々武器を構え、こちらをジリジリと囲んできている。
「や、やれ! 今であれば、こいつは魔術を使えぬ! 剣を取れ! 全員で殺すのだ! 大殺界化での実戦である! メッサール様を助けよ!」
現場指揮官……分隊長とかだろうか? まあ、組織が判らんけれど。が、叫ぶ。
ここに残されたのは二千人程度だろうか。先ほどの「火壁」で思ったよりも数が減ってしまった。
だが、物理的な脅威としては……なかなかのモノだ。武器を構えた二千人の魔族の男達に囲まれて。うーん。言葉にするとちょっとイヤだな。
(ショゴス)
(ん?)
(でな。俺が最初に倒したゴブリンの話しなんだけどさ)
(あ、ああ。そうだったな)
(それさ、剣で貫いたのよ)
(剣……か?)
(ああ。片手剣な。「切り裂きの剣」っていう、レベル1が使うにはちょっと図抜けたチート剣なんだけどさ)
これな。
(お、おう)
俺の右手には剣がある。当然【収納】から取り出したモノだ。さらに。
これまで着ていた黒狼革の服の上に、黒狼革の鎧、籠手、脚鎧、足鎧……まあ、黒狼革鎧一式を装備する。
この一式は錬金術での強化付与の際に実験を行っており、全てに+4という数値が付いている。
+1になっている時点で防御力が上がり、物理的魔術的どちらにも強くなるのだが、それが+4だ。正直、この一式を鎧立てに固定して、通常の鋼の剣とかで思い切り斬り付けてみたが、傷一つ付けられなかった。
まあ、その時、俺は剣士の天職では無かったと思うが、傷すら付かないっておかしいでしょ……と思った覚えがある。
(何時の間にか……鎧が……)
(結構カッコイイだろ、これ。黒で)
(ああ。うん。というか……剣士?)
剣士……ではない。でも、そうなんだよな。そう。俺、剣が最初の武器なんだよな。元々。天職は
なんでだよ……って気がするけど、まあ、でも、しょうがないというか。シロに言わせれば。
時間の経過しないダンジョンの中で……何千、何万匹もの魔物を屠った経験は……今だにこの手に残っている。
そういえば、さらに。「九段相身流」では体術的な訓練もしたしな。アレ? そういえば……道場で稽古中に、色々とスキルを覚えたような気がするんだけど……こっちの世界に来てからそれが無かった……な。なんでだ?
シロが居ない現状、神力が足りない今では仕方ないかもしれないけれど、それ以前にも無かったもんな。
ま。いいか。
怒号。二千人が口々に叫びながら……迫ってくればそうなるか。とはいえ、まあ、一人を取り囲んで、槍や長物で付いてくるのであれば、まだ、多彩なやり方があるかもしれない。
が、短剣や鈍器を振りかぶりながら、襲いかかる素人じみたやり方では……。
(ということで、ショゴス。俺さ、結構、剣が得意なんだよね)
俺に向かって剣を振り下ろそうとしてきた襲撃者第一号を下から斬り上げる。
ゲハッ!
おお。相変わらずの斬れ味。さすが、チート剣、「切り裂きの剣」。踏み込んで手を振り上げただけなのに、なんの苦も無く、左腹から右の首に向かって剣がすり抜けた。
ズズ……
大量の血を撒き散らしながら、身体がズレる。これ、剣の達人だったら、多分、くっ付いたまましばらく生きてるパターンじゃ無いのかな? 活き造りみたいな。
俺にそこまでの実力はないからな。うん。斬った瞬間に、敢えなく死んでしまったけれど。
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