437:大殺界

「これが最後だ。お前がちゃんと指令を出し、降伏宣言を行えば今回攻め込んで来た魔族は「生き永らえる」だろう。なんだっけ、お前も誇り高きハーシャリス閥の皇族の一員なんだろう? 部下の事を考えてやれよ。正面からぶつかれば、全員消えるぞ」

 

 ということらしい。なんだよ、皇族って。皇帝……なの? ハーシャリス閥っていうのは皇帝のくくりになるのか? なんか、それに適した役が無いのかもな。自分たちの身分を王族よりも上に表現しているって感じなのかもな。文字とか単語の意味はちょっと置いといて。


「くっ、我がハーシャリス閥軍は……一兵卒まで、人族などに死んでも屈することはない」


「そうか。なら、仕方ないな」

 

 面倒だから命令して言わせるのは止めよう。


 まず、元々の王都の住人が集められている王都正門、城壁の前の広大な貧民窟跡に向かった。住民を押さえ付けている、警備の魔族を尽く殺していく。


 次第に……強制的に集められて居た王都住人達も自分たちを捕らえていた魔族が消えて行ることに気付く。


 ほぼほぼ、殲滅した所で。


 燃えちゃったのか……片手を失っているが、明らかに鎧の装飾から、騎士団の幹部っぽいヤツを見つけた。


「騎士団の人?」


「お、おま、えは何者だ?」


「そんな事はどうでもいい。とりあえず、現在、王城の士官達は殲滅した。あとは西の城門前にいる一軍のみだ。ここに居る者達の中で戦える者は王都内にちらばって、略奪を続けている魔族を追い払え。幾ら魔族が魔術に長けていても、数十人で一人にかかれば殺すのにそれほど苦労はしない」


「な、何を……」


「一軍の方は、俺が何とかする。コイツでな」


「そ、それは……魔族の将校……か? わ、判った。シャーキス! 聞いたな? クザラ副団長に伝えよ。騎士の生き残りと、冒険者も幾らもいるだろう。さらに、志願者を募れ」


「は、はい!」


 従者らしき者が動き始めた。


「王都の住人よ! 君たちを捕らえ、押さえ付けていた魔族の幹部はほぼ殺した。現在、王都をうろついている魔族は君たちの財産を略奪し、捕らえた弱き者達を陵辱し続けている! 戦える者は武器を取れ。魔術など、後ろから首をかっ斬れば何でも無い。殺せ! 自分たちの財産を奪う者達を許すな!」


 風の魔力を使って、拡声する。確か、拡声の魔道具はあるんだったよな。なので、それほど、ビックリしないだろ。


「……おぉぉぉおおおおお」


 最初はポカンとしていた……囚われの民衆は……次第に覚醒し始めた。


 多分、先ほど話かけた騎士の従者が上手くやったのかもしれない。正門から、続々と……戦える者たちが……それに続いて、住民も王都内へ戻っていく。手にはその辺に落ちていた棒や、石などを握っている。


 まあ、魔術を使ってくるだろうから、こちらに被害も出るだろう。だが。細かい掃除は彼らに手伝ってもらわないとな。


(魔力感知でどうにでもなるだろうが……時間がかかるか)


 そう。隠れられたりでもしたら、厄介だからさ。


 ということで、中は彼らに任せ。奴隷を引き摺って、西門前に移動する。いたいた。


 まずは。


 晒し用に串刺し槍を出して、突起部分に「指揮官君」を引っかけて、立てる。ああ、突き刺してはいない。死んじゃうからね。地面を「硬化」で固めれば晒し者の出来上がりだ。


 駐屯地……は仮といった感じで、天幕なども張られていない。なんでも、もう少ししたら王都で略奪を行っている者達に合流し、しばらくは王都の家で寝泊まりしながら、奪い尽くす予定だったそうだ。


 現在王都に居る者達は……功労者、まあ、今回の戦争で沢山殺した、沢山壊した成績優秀者。先に略奪出来る権利があると。奴隷も選び放題っていうね。


 クソが。


 既に……初撃で1/3程度は処分させてもらった。わざと【結界】を使わずに「乱風風刃」で斬り刻んだ。


「ということで、お前達の上官は全員殺した。指揮官も奴隷にさせてもらった。見えるだろ? 首輪と文字が」


 手近にいた、現場指揮官っぽいヤツにそう話しかける。


「何を……本当に……あれはメッサール様か? 何という事を……キサマ……」


 この場に残っているのは約三千人の魔術士……か。とりあえず、死んでもいいか。ギリギリの感じ……「火壁」を生成して……それを移動させて押しつけていく。

 これ、魔力障壁を使えればそこまでダメージを受けること無く切り抜けられる。あとは、魔力で肉体強化とかそういうちょっと面倒な事が出来ても大丈夫なはずだ。


 ああ。ダメだな。為す術無く焼かれていく。


「御主人様を守る為に、今から「大殺界」を発生させる。数で圧殺せよ! 武で殺せ!」


 その時……槍の上で、晒していたヤツが叫んだ。これは拡声の魔術か。


グアッ!


 と……お。身体中から血が出てるぞ。「指揮官君」。痛そうだ……っていうか死んだ? いや、ギリギリ生きてるか。気絶したのか。なんだ、今のは?


(ん? 不味いぞ、ノラム。魔力が失せていく! これは……指輪のうちの一つが、そういう魔道具か。アンチマジックシェルだったか? 反魔術領域の生成が……行われた様だぞ?)


(ちっ範囲は?)


(かなり広い……王都全体……いや、この辺り数十㎢に渡り魔術が使えなく……なっている?)


(そもそも、なんで隷属の首輪を付けているヤツが、そんな反抗を)


(最初に、御主人様を守る為にとか言っていたからな……多分、魔術に晒されて危険なノラムを守る為……と自分に言い聞かせて、首輪の呪縛から逃れたのでは? だが、最終的に殺せなどという直接的な言葉を続けたために、ああなった)


(そうか、とんだ抜け道が……)


 確かに……今の今まで猛威を振るっていた「火壁」が鎮火し始めている。


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